鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【東響】第701回:定期演奏会 in サントリーホール

introduction

 本日は、【東響】第701回:定期演奏会である。これほど楽しみにしていた日はないと言っても過言ではないだろう。なんと言ってもマーラー交響曲第5番である。私がそこまで推す理由は以下の記事を参照されたい。
law-symphoniker.hatenablog.com
 そして、多くの聴衆を虜にしたノット先生と東京交響楽団という素晴らしいコンビによってこの壮大な名曲を演奏するのである。したがって、令和4年7月16日この日をずっと楽しみに過ごしていたのである。
 もっとも、私事ながらこの定期演奏会に行くことに躊躇したのである。その理由は今月末に控えている期末試験があるからだ。しかも、来週の木曜日から始まり、必修科目の試験科目はちょうど1週間後に控えている(時間割が発表されるのは7月上旬)。しかし、このコンサートはこの日しかなく、行かなければものすごく後悔するだろうということで思い切っていくことにした。
 さて、話を変えてこのノット先生に対する期待は非常に大きい。このマーラー交響曲第7番の演奏が非常に素晴らしかったからだ。

www.youtube.com
 この5番もまたYouTubeでアップされるのだろうか…。しかし、耳で聴くのと体で聴く音楽は別格のものがある。
 他にもラヴェル:海原の小舟(管弦楽版)ー鏡より」は、静かな海が想像できる美しい音楽である。屈指の美しさの音色を響かせる東響はどのような演奏になるのか、美しさなのかとても楽しみである。
 「ベルク:7つの初期の歌」は新ウィーン楽派時期に作曲された。無調音楽および十二音技法を開拓し、クラシック音楽の分野において現代音楽と呼ばれている時代や様式の区分に、最も重要なかかわりを持ち、アーノルド・シェーンベルクアントン・ヴェーベルン、と並び、アルバン・ベルクもそのうちの一人である(シェーンベルクの弟子)。聴くところ、無調音楽っぽいが、ベルクは12音技法の中にも調整和音を取り入れるため、そこまで無調っぽくはないのが特徴である
 なお、本曲についての演奏や解説が乏しいため、東響の雑誌の解説に依拠する。

本日のプログラム

ラヴェル:海原の小舟(管弦楽版)ー鏡より

 いかにも印象主義の時代に作曲されたものであることがわかる。音が鳴り始めた瞬間に静寂で穏やかな海が浮かんだ。ノット先生のしなやかなタクトから生み出される音色は穏やかな大海原を再現した。時折くる大きなクレッシェンドは波を再現しているのだろう。小さくて穏やかな小舟はこの大きな波によって揺られるのだろう。
 ノット先生も穏やかな表情が横から伺うことができた。美しい東響サウンドの波に揺られながら心地よい音楽が広がった

ベルク:7つの初期の歌

夜(Nacht)

 冒頭やや不穏な音色で始まる。しかし、どことなくリヒャルト・シュトラウス『4つの最後の歌』に類似しているような気がする。
 ソプラノのユリア・クライターは、東響の音色と見事に調和されていて、一人歩きすることなく素晴らしい歌声だった

葦の歌(Schilflied)

 無調的な作品だから不穏感は払拭されない。この「葦の歌」ではヴァイオリン・ソロが登場し、コンマス水谷先生が繊細で美しい音色を響かせた

夜鳴きうぐいす(Die Nachtigall)

 「夜鳴きうぐいす」は、前2曲と異なり、非常に後期ロマン派音楽を連想させる美しく壮大な場面である。ユリア・クライターの素晴らしい歌声と、美しい音色の東響サウンドの相乗効果によってホール内は美音の宝石箱となったと言えよう

夢に見た栄光(Traumgekrönt)

 再び不穏な雰囲気になる。しかし、しばらくすると「夜鳴きうぐいす」のような美しさが戻ってくる。全体的に言えるのだが、トランペット等はミュートによって演奏されるから、耳が痛くなるようなことはない。この「夢に見た栄光」後半になると弦楽器が繊細ながらも時には重厚で美しい音色を響かせた

室内にて(Im Zimmer)

 冒頭木管楽器によって演奏されるから、ユリア・クライターの素晴らしい歌声が冴え渡った。ソプラノ歌手ってすごいなぁ…。
 ちなみに「室内にて」は約1分ちょっとしかない短い場面であり、この作品の中で最も演奏時間の短い作品である。

愛の賛歌(Liebesode)

 再び、最初の2曲の不穏感漂う雰囲気に戻ってきた。「愛の讃歌」という表題には若干裏腹な気もする。
 歌詞の内容も「愛の讃歌」だけども…。

夏の日(Sommertage)

 最後。今までにはなかった多少早いテンポで幕を開ける。そして、フィナーレなのかさまざまな楽器が盛り上がりを見せる。
 最も、最終部においてかなりの盛り上がりであり、シンバルが打たれる。あれは非常に壮大であり、見事な頂点部を形成した。
 その後はすぐに静かになり、静かに締めくくる。

マーラー交響曲第5番嬰ハ短調

第1楽章:Trauermarsch

Trauermarsch
 開始早々、緊張の瞬間である。柔らかい音色のトランペットによるファンファーレであったが多少のミスがあった。プロでも難しいんだなぁ…。そして、大爆発したかのようなど迫力。早速ノット先生と東響の黄金コンビに基づく圧倒的な音圧に圧倒された。特にホルンの音色が素晴らしかった。この時、「凄まじい演奏になるだろう」と確信した。
 そして、弦楽器による主要主題が奏でられる。ノット先生は前半のプログラムとは全く異なり、非常に厳しい表情で指揮をしていた。しかし、時折しなやかに指揮をすると、穏やかで撫でるように音色が鳴り響いた。
Plôtzlich Schneller. Leidenschaftlich. Wild
 第1トリオである。残念ながらトランペットの存在感は掠れ気味だった。しかし、ホルンの音色は強烈であり、今まで以上に聞いたことない迫力に圧倒された。強烈なうねりと強い推進力圧倒された。
 しかし、ここでもトランペットの存在は掠れ気味…。ちょっとなぁ…。
Tempo 1。
 再び主要主題が登場し、弦楽器ではなく木管楽器によって演奏される。陰鬱な雰囲気ながらも繊細で穏やかな音色を響かせた。ティンパニの小さな小さな冒頭部分のリズムの後、第2トリオである。ホルンの伸びやかな音色と、美しい弦楽器が折り重なってやがて激しくなっていき、強烈な場面を迎える。唸る弦楽器と木管楽器、そして存在感大のホルンが壮絶な頂点部を形成した。これは強烈である。
 そして、冒頭のファンファーレが静かに奏で、静寂に第1楽章を終える。

第2楽章:Stürmisch Bewegt

Stürmisch Bewegt. Mit Größter Vehemenz
 アタッカで第2楽章。標準的なテンポで厳格に第2楽章の幕を開ける。第1楽章の余韻が残りつつ、激しい演奏の名残があった。なお、コンサートマスターの水谷晃先生は椅子から飛び上がっていた第2主題のチェロは滑らかに奏でられており、ノット先生のしなやかな指揮によってか撫でられた第2主題は大変素晴らしい音色だった。力強いチェロの音色が特に素晴らしかった。
Langsam Aber Immer
 展開部。第1楽章のような静寂感に包まれる。ノット先生の繊細さが際立った。静寂な場面が続くと集中力が切れてしまったり、意識が飛んだりすることがあるが、今回は全くそんなことはなかった。素晴らしい緊張感であった。後半になると、明るい行進曲調になるが、第1主題が戻ってきて再現部となる。時折見せるホルンと木管楽器のベル・アップがとても格好良かった。。
 その後の再現部第2主題が引き摺るように登場し、ノット先生の熱のこもった指揮に乗って厚みのある弦楽器が鳴り響いた。思わずグッと力が入った。東響の素晴らしいホルンと木管楽器と弦楽器が鳴り響いていたのが非常に印象的だった。
Nich Eilen
 そして、再現部第2主題が演奏された後、輝かしい金管楽器のコラールが待っている。吠えるほどのトランペットの音色が鳴り響いた方が好きだったのだが、壮麗な音色だったので良かった。その後の、木管楽器のベル・アップの音色がド直球で響いてきたため、思わず涙が出てしまった数ある作品の中で、第2楽章の時点で涙を流すことは今回が初めてだった。思わず太文字にしてしまった
 その後も、冒頭の荒々しさが再び戻ってくるのだが、冷めることなく強い推進力と熱量をもって奏でられていた。

第3楽章:Scherzo

Scherzo
 ホルン協奏曲の始まり。少しゆっくりなテンポであったが、その後標準的なテンポになった。しかし、今回のホルンは素晴らしい音色であり、冒頭からこの第3楽章に大きな期待があった。第1主題は、ヴァイオリンの繊細な高音とともに、重厚感あふれる低弦楽器の音色、そしてグロッケン・シュピールの音が可愛らしさを齎す。この時のノット先生は、先生自身が楽しんでいるように見え、ワルツを踊っているかのようだった。第2楽章と第3楽章の間に少々長めの休息が入ったのが良かった。第1楽章と第2楽章はやや陰鬱であり、激しい音楽であるから場面が変わる第3楽章の間に少々の間を入れたのである
 快速的テンポで流れるような第1主題は聴いていて非常に楽しかった。 
Etwas Ruhiger
 レントラー風の旋律を持つ第2主題がヴァイオリンで提示される。テンポが遅くなる演奏が多いが、このときノット先生は極端に遅くせず、ワルツのように軽やかに楽しそうに指揮をしていた。広範囲なると、多少荒々しくなりホルンが強烈な音色を響かせるのだが、この時の東響のホルンの音色は凄まじい迫力であり、あらゆるものをかき消すような音色に圧倒された
Molto Moderato
 ピッツィカートが3拍子を刻んでいく。静寂な中、弦楽器のピッツィカートが刻まれたのだが、繊細で丁寧に進んでいった木管楽器や弦楽器が美しくやさしく奏でられていた。途中のホルンのソロ・パートは流石の音色であった。それと共に、オーボエの甘美な音色が素晴らしかった
 再び第2主題が登場したら展開部。後半につれて荒々しくなり、東響の凄まじいホルンが鳴り響く。そして、ホルツクラッパーはしっかり鳴り響いていた。注目の場面でもあった。。
Tempo 1
 そして、再現部第1主題。冒頭のホルンの音色が再び登場する。私は再現部第1主題の方が好みだ。ノット先生は、提示部よりも熱のこもった演奏であって、より一層華やかさと迫力が増していたグロッケンシュピールも加わって可愛らしさも相まって非常に幸せなスケルツォであった。
 荒々しさも垣間見えて、途中は何かも飲み込んでしまうような勢いに飲まれそうになったこともあった。ノット先生の凄まじいパワーがこれでもかというほど伝わってきた。
Tempo 1 Subito
 第3主題の再現。再び、東響の素晴らしいホルンが鳴り響いていた。第3主題の再現であって、提示部とさほど大きく変わらず、再び繊細な音楽を堪能した。
 コーダに入ると凄まじい迫力であり、テンポも速めて力強く締め括った。ここで1曲終えたかのような雰囲気であった
 第4楽章との間には休息があったが、ノットの先生の熱気は冷めることを知らなかった
 そして、第4楽章へ。

第4楽章:Adiagietto

 言葉を加えるほどもない。東響の美しい弦楽器が冴え渡った。薄っぺらくもなく、低減楽器の重厚な音色も相まってまさに「愛の楽章」だった。ノット先生のしなやかな指揮法によって引き出された甘美の音色は、とても激しい第1楽章と第2楽章の後だったとは思えない。第3楽章終えた後の休みがここまで生きていくとは、ただの「休み」ではない
 中間部の階段を上がるような旋律は、どこまで高く行くのだろうか。天へ届きそうな美しさの音色に加えて、抑揚をつけた演奏は引き込まれるばかり。ノット先生の音楽にはいつも驚かされる。
 そして、第5楽章へ…。

第5楽章:Rondo: Finale

Rondo-Finale
 冒頭ホルンによって幕を開けるのだが、失敗しないか不安になるが、全くそのようなことはなかった。このホルンの音色によっていよいよ華やかな第5楽章が始まると思うともうワクワクが止まらない。
 そして、ホルンや木管楽器が軽やかに第1主題を奏でていった。第3楽章の名残があるかのようだった。
 低減楽器が第2主題を奏で始める。冒頭の方は第3楽章のように穏やかで楽しげに演奏していた。それにしても、ホルンの音色が雄大で迫力のある音色には圧倒された。。
 恐らく、展開部。大きな波を描くように弦楽器が奏でられる場面は大変素晴らしく、ノット先生の大きな指揮にのって壮大な音を奏でた
 第5楽章では、何度か木管楽器がベル・アップをする箇所があるのだが、木管楽器の音色もしっかり届いてた。あの場面のたびに感動していた
 後半になると、迫力あるホルンと共に力強いティンパニが鳴り響いていた。トロンボーンも登場して重厚ある音色を響かせた。
Nicht Eilen. A Tempo
 フルート等の木管楽器が下降して、第2主題と第1主題が対位的に進んでいく。さまざまな場面に移り変わるので、何か映画を見ているようだった。その後、フィナーレを思わせる場面へ。強いティンパニの音色と共に、弾けるような迫力に移り変わる。もっとも、トランペットの音色は乏しく、他の楽器に埋もれてしまった。しかし、弦楽器の美しさと、力強いトロンボーンの音色は数さまじい音色だった
 その後もトランペットの音色はあまり存在感はなかった。やはり最初のミスが響いているのだろうか…。
Grazioso
 木管楽器がリズミカルに奏でていく。2拍子で行進曲風ではあるものの、スラーによって非常に滑らかに演奏されているのである。東響の木管サウンドは軽やかで美しかった。
 やがて、楽器が増えてコーダへ。ここでやっとトランペットの音色がしっかりと聴こえてきた。「なんだ、鳴るじゃん!」。ノット先生はもう燃え盛っており、迫力ある堂々たるフィナーレを奏でていた。そう、この華やかで壮大な音楽があってこそのフィナーレである。
 そして、快速的テンポでホルンが素晴らしい音色を響かせ、あらゆる楽器がフィナーレを彩った。最後の最後ではノット先生の強烈な熱量に圧倒され、見事に曲を締め括ったのだ
 すぐに拍手の嵐となった。コロナ禍でなければブラボーの嵐であったであろう。

総括

 ここ最近、1曲や2曲のプログラムが多いが、今回は3曲もあった。なかなか思い出して書くのが大変だった。特に、最後がマーラー交響曲第5番という長い曲だったので大変だった。
 前置きはこの辺りにして、やはりノット先生と東京交響楽団は素晴らしい!!期待を裏切らない。時には伝統的なスタイル、時には思いっきり美しく、時には思いっきり燃え盛る。これがノット先生の魅力ではなかろうか。それに応える東京交響楽団も素晴らしい。
 もっとも、今回の定期演奏会ではマイクスタンドが何本も立っていたため、録音される可能性があるかと思われる。ノット先生のマーラー交響曲第5番は必聴に値しよう。実際に、今回の定期演奏会は完売したようである。




 そして、鳴り止まぬ拍手と(毎度お馴染み)一般参賀の様子も。


 私はこの時スタンディングオベーションをした。いつものことだ。
 なお、この曲の解説等について、プログラム冊子「Symphony」7月号で読むことができる。

 いつもは、コンサート行った後に記事を書いているのだが、私情が重なったのと期末試験を控えているためなかなか書けなかった。
 期末試験頑張るか…

前回のコンサート

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