鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」を聴く(その3)

ブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」

クリスティアンティーレマンウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

評価:8 演奏時間:約70分

第1楽章:Bewegt, Nicht Zu Schell

 冒頭部分。お馴染みの原始霧。そして、第1主題が、ホルンの柔らかくて雄大な音色が響き渡り、フルートと繊細な弦楽器のトレモロが美しい。ただし、多少テンポが速めであり、ぐいぐいと力強い印象を与える。全合奏によって奏でられるブルックナーリズムは、強い推進力を生かしながらダイナミクスな印象である。ティーレマンらしいおおらかな音楽である。第2主題は、テンポも標準的であり、非常に活発的である。特に弦楽器と共に木管楽器の音が意外とはっきりしている。しかし、豪快な第3主題は非常に勇ましい。尤も金管楽器が全面的に鳴り響くようなものではなく、柔らかく重厚な音色が包み込むようである。自然ながらもどこかパワーが溢れるブルックナーは私好みである。
 展開部は繊細な場面となる。微かなヴァイオリンのトレモロ雄大なホルンの主題や鳥の囀りのようなフルートや木管楽器が非常に美しい。やがて盛り上がると、暴力的なブルックナー・リズムが繰り返されるが聴き苦しくない。むしろ、もっと暴力的に演奏しても良いくらいだ。血の底から湧き上がるような強烈な音色がより一層、ブルックナー・リズムを強調され、重厚感が増すように思える。その後は、煌びやかなヴァイオリンのトレモロに加えて、トランペットが非常に輝かしい音色でコラール風なハーモニーを響かせているのだが、美しいよりも華やかさが際立つように思うアルプス交響曲の頂上のような美しさと壮大さが垣間見えるのだ。
 再現部第1主題も、ホルンの音色ともに、軽やかで美しいフルートが上下する。その後の全合奏も壮大な音色によってブルックナー・リズムは自然体な音色であるにもかかわらず、重厚な音色が広がる。再現部第2主題は微妙にテンポを速めており、より軽快さと明るさが増したように思える。やはり速めのテンポの方が良いのだろうか?その後の、再現部第3主題は、重厚でパワフルである。しかし、耳が痛くならない重厚さであり、ミュンヘン・フィルのような柔らかい包容力のある音色が広がっている。
 いつ聴いても上下する弦楽器の旋律に木管楽器が主題を奏でる構成はいかにもブルックナーらしい。そして、堂々たる第1楽章第1主題のホルンは堂々と鳴り響いて堂々と締めくくる。約20分ある第1楽章であるが不思議とあっという間に終わってしまった。

第2楽章: Andante Quasi Allegretto

 主要主題の部分である主題は、チェロによる主題はやや哀愁漂いながらも甘美で重厚な音色を響かせている。木管楽器によっても主要主題が奏でられるのだが、美しい音色と共に思わず恍惚とする。尤も弦楽器は比較的に重厚な音色を響かせている。中間部分においては、一つ一つの音をしっかりと鳴らしており、確実に頂点部へ向かっている。決してテンポを速めないところが良い。その後、再び主要主題が奏でられ、ソナタ形式では無いが再現部に位置付けられるものといえよう。
 コーダに入る前に、最後の主要主題部では大きなクライマックスが形成される。金管楽器が登場してもギラギラとした耳が耳が痛くなるような音ではなく煌びやかな音色を響かせている。頂点部ではティーレマン独特のタメが入って壮大な頂点部を形成している。やはり、煌びやかで壮大な音楽である。圧倒的パワーで演奏をしないのもまた一つのブルックナーの音楽なのだろう。
 コーダは静かに終わる。

第3楽章:Scherzo & Trio

 冒頭、ホルンとトランペットの勇ましいファンファーレが鳴り響き、Aを奏でる。決してテンポを速めず、標準的なテンポである。特筆することもないほど標準的なものである。
 トリオ(B)。販売情報を確認すると「ハース版」となっているが、トリオの冒頭はフルートの音色が聴こえるからノヴァーク版であると思われた。しかし、ハース版とはいえ、1936年のハース版を使用しており、ノヴァーク版と同様の演奏となっている。尤も、ティーレマンのトリオは弦楽器が美しくロマンあふれる演奏となっている。時にはフルヴェンを彷彿させる強烈な揺らしもある。やはり一直線の演奏よりも多少の揺れがあった方が良かろう。
 そして、再びAを繰り返す。

第4楽章:Finale: Bewegt, Doch Nicht Zu Schnell

 テンポは標準的より若干遅めか。したがって爽やかさはない。そして、提示部に重厚感の第1主題を奏でるがティーレマン特有の揺らしが相まって濃い第1主題となっている。尤も全体的なパワーは抑えめである。各々の楽器の自然体が相まった壮大な第1主題である。第2主題は、落ち着いた雰囲気であるが弦楽器が重厚な音色を響かせているのが印象的だ。可愛らしさよりも美しさの方が優っているように思える。第3主題は若干テンポを速めて勇ましい印象を与えている。しかし、本当に耳が痛くならない金管楽器の演奏には驚きだ。もちろん、重厚さは欠けるところはない
 展開部に入ると、冒頭の雰囲気に戻ってくる。再びホルンが第1主題のコラールを奏でるのだがその後も通して重厚感は存在するのだが音が押し寄せる感覚はない。若干物足りないといえば物足りない演奏といえよう。展開部の頂点部かわからないが金管楽器が主役となる場面では荘厳なコラールが鳴り響く。そして上昇する弦楽器の音色が地の底から押し寄せるような重厚な響きが湧き上がる。強烈な演奏が多い中、優しい方の頂点部の形成方法である。
 なお、再現部は第1主題は提示部に比べると遅めであり、引き摺り込むような重圧さがある。遅めのテンポの三連符に私は興奮が止まらない。第2主題は美しい弦楽器によって演奏されるもあっという間に片付けられてしまう。
 いよいよコーダである。緊張感が漂い、圧倒的なクライマックスへと導く。チェリビダッケに近しい遅さのテンポで弦楽器がリズムを刻んでいく音楽にはより一層緊張感と焦燥感に駆られる。頂点部を形成した後は遅めのテンポで堂々たるフィナーレを形成するも、特に一番最後の音は音はこれでもかというほど伸ばして締めくくる
 これは今まで聴いたことがない!好みが分かれそうであるが、私はこの終わり方に一気に惹かれたといっても過言ではない。