鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

〜備忘録〜【都響】第851回定期演奏会Bシリーズ in サントリーホール

プログラム

マーラー交響曲第3番ニ短調

 グスタフ・マーラー(1860~1911)の第3交響曲は異様な機成の作品である。冒頭楽章と終楽章はどちらも演奏時間30分前後、優にヨーゼフ・ハイドン(1732~1809) の交響曲一つ分くらいの長さがある。その間には2つのスケルツォ楽章(第2・第3楽章)、そして2つのリート楽章(第4・第5楽章)が挟まる。
 ハンガリーの哲学者ジェルジ・ルカーチ(1885~1971)は近代小説のことを、「神なき世界の叙事詩」と呼んだ。古代のギリシャ悲劇は、世界の最も本質的な法則を抽出しようとする。それに対してホメロス古代ギリシャの吟遊詩人)らの叙事詩は、世界のすべてを描き尽くそうとする。だが近代において世界はもはや、神が皆られる調和したそれではない。既に壊れている世界を、それでもなお統一的なものとして提示するには、その矛盾に満ちた森羅万象を網羅し尽くし、内部に無数の矛盾と他裂を抱え込みつつも、それらを「一つの」世界とする以外にやり方はない。マーラーはこの第3交響曲を「世界がそこに投影される巨大な交響曲」と語った。それはまさに、ルカーチのいう近代の叙事詩であり、マーラーが大好きだったジャン・パウル(1763~1825)的な意味での近代小説である。
 折に触れてマーラーは、この交響曲の構成を比喩的に説明している。例えば第1楽章は「夏が行進してやってくる」、第2楽章は「草原の花々が私に語ること」、第3楽章は「森の戦が私に語ること」、第4楽章は「夜が私に語ること」、第5楽章は「天使が私に語ること」、第6楽章は「愛が私に語ること」。そして当初の構想では、このうえにさらに第7楽章として、「天国の生活」または「こどもが私に語ること」が来る予定だった。とはいえ、さすがのマーラーも第7楽章まで一つの交響曲に含めることは最終的に断念し、それを第4交響曲として分けて作曲することとなる。
 いずれにせよマーラーが意図したのは、「一段ずつ上り詰めていく発展のすべての段階を含み」、「自然の無生物状態から始まり、ついに神の愛へ高まっていく」一つの巨大な叙事的プロセスを描くことであった。

(プログラムの曲目解説、岡田暁生先生の記述を引用・抜粋)

 マーラーを得意とする東京都交響楽団で、マーラーの大曲交響曲第3番。そして、大野先生もマーラーも得意のレパートリーの一つ。相思相愛のマーラー交響曲第3番は壮大であり、かつ、美しさを兼ね備えた名演だった。

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大野先生が語るマーラー交響曲第3番。