鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【大阪フィル】第54回東京定期演奏会 in サントリーホール

Introduction

 本日は、【大阪フィル】第54回東京定期演奏会である。そして、プログラムは、ブルックナー交響曲第5番変ロ長調(ノヴァーク版)
 ブルックナー大好き人間において、この交響曲第5番は聴き逃してはならない。そして、この交響曲第5番演奏至難な作品としても知られ、特に第4楽章は、金管奏者に超絶的なスタミナを要求することでも有名で、筋金入りのブルックナー指揮者のみが近づくことの許された作品と評されるほどである。何度も同じような主題が繰り返されたりと、聴く側も鍛錬が要求されるとも言えよう。
 さて、曲の内容はこの程度にして、本日はブルックナー好きにはたまらない組み合わせである。大阪フィルといったら、朝比奈隆先生を語らずにはいられない
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 朝比奈先生は世界的ブルックナー指揮者であった。朝比奈先生によって鍛え上げられた独特のサウンド「大フィルサウンドを響かせる。それを日本屈指の指揮者である尾高忠明先生によって奏でられるのである。
 これはもう楽しみでしかない!

本日のプログラム

ブルックナー交響曲第5番変ロ長調

第1楽章:Introduction. Adagio - Allegro

 冒頭弦楽器のピッツィカートによって幕を開ける。そして清らかで神聖な音色を響かせた。その後、金管楽器金管楽器のコラールが響くのだが、荘厳な音色を響かせた特にトランペット(おそらく高見 信行先生)の音色が目立っていた。早速尾高先生による大フィルサウンドを聴き、今後の展開が楽しみである。
 そして、第1主題の登場。朝比奈先生のような濃厚な音色ではなく、爽やかで温もりのある弦楽器が第1主題を奏でた。尾高先生は指揮棒を使わないで指揮をするため、尾高先生の動きに合わせて美しい音色が奏でられていた。そして、テンポは少し早めであって快速に進んで行った。朝比奈先生の独特な重厚感もありながら聴きやすい音色が響き渡っていた。第2主題はピッツィカートも含んだ静かな場面。テンポは遅くし、繊細さを引き出していた。演奏される楽器が少なく、繊細な響きに加え緊張感が漂っていた。尾高先生の緻密な音楽がそこにはあった。そして第3主題。第1主題の活発的で快速的なテンポが戻り、非常に溌剌とした演奏であった。そして、尾高先生の指揮は非常にわかりやすく、オケの方々との意思疎通も完璧であったためか物凄い充実しきった演奏が繰り広げられていた
 そして、ホルンの雄大な音色とフルートの繊細な応答を持って展開部を経る。随所の金管楽器の力強い響き、木管楽器の輝かしい音色が幾度と聴こえた。
 再現部も提示部と同様に迫力ある金管楽器の音色、物凄い充実ぶりであった。
 コーダに入ると充実さがさらに増していき、コンサートマスターの崔文洙先生は立ち上がってしまいそうなほど熱のこもったトレモロであり、すでにフィナーレを思わせる迫力がそこにあった

第2楽章:Adagio. Sehr langsam

 弦楽器のピッツィカート。これは3連符である。オーボエの哀愁漂う主要主題が奏でられ、ファゴットも加わって木管楽器特有の暖かさが響き渡った。そして弦楽器が加わると清廉な雰囲気にガラリと変わった。尾高先生の音楽作りに驚かされっぱなしであった
 そして、弦楽器の副主題は厚みもありながら清廉で美しい音色が奏でられていた。本当にお見事な音色であり、朝比奈先生の名残もあるのだろう。何かを祈る、そのような荘厳な響き恍惚とした。
 後半の弦楽器の6連符の箇所も一直線に美しくうねり、木管楽器の美しい主要主題が織り重なっていた。その後の金管楽器の加わると荘厳な響きとなり、音楽的建造物が垣間見えた。
 第2楽章は大体約15分〜18分と決して短くないのだが、この日はあっという間に第2楽章が終わってしまった。

第3楽章:Scherzo. Molto vivace (Schnell)

 早いテンポのピッツィカートで第3楽章の幕を開け、迫力ある金管楽器が第1主題を奏でる。そして、第2主題は一気にテンポを落として厳格に3拍子を刻んでいった「Bedeutend langsamer(テンポをかなり落として)」と指示があるため、第1主題と第2主題にかなりのテンポの差がある方が望ましい。尾高先生もテンポに差を設けられていた。この荒々しいスケルツォはいかにもブルックナーらしい。
 トリオも第2主題と同等のテンポであり、しっかりとした3拍子を刻んでいた。思わず体が動いてしまった。途中のホルンの雄大な音色も素晴らしかった。この第3楽章のトリオも好きなのである。

第4楽章:Finale. Adagio - Allegro moderato

 いよいよ第4楽章。第1楽章冒頭と同様に神聖さがこもった幕開けであった。そして、第1楽章第1主題、第2楽章第1主題が回想され、ベートーヴェン交響曲第9番のフィナーレに通じるものである。
 そして、チェロとコントラバスによる第1主題が奏でられるが、やや快速的テンポで颯爽と進んでいく。力強さもありがなら強い推進力のある第1主題は聴いていて新鮮であった。その後の軽快な第2主題は清らかで美しく、大きな音楽を築き上げていた。尾高先生が作り上げる緻密で美しい音楽は驚くばかり。そして、力強い第3主題。これはテンポを快速的に戻し、力強い推進力を齎すと共に、ブルックナー特有の荘厳さが際立った。その後、金管が荘重なコラールを奏でられる。解説にはこれを「第4主題」としていた。トランペットの音色が際立ち、荘厳テンポで何かのファンファーレを思わせるような美しさであった
 展開部に入ると複雑なフーガに入る。遅くないやや早めのテンポで颯爽と奏でられるフーガは聴いていて実に爽快であった。朝比奈先生のような超濃厚な演奏ではなく、サッパリとしながらもブルックナー特有の重厚さを失わせない音楽作りは流石は尾高先生。日本を代表する巨匠である。
 再現部も同様に力強さもありながら繊細さもある緻密な音楽が奏でられていた。
 そして、長大なコーダである。全ての楽器が奏でられ、伸びやかなトランペットが音楽的建造物の頂点を建設する。弦楽器のトレモロが神聖さを際立たせ、演奏者の方々の気合もものすごかった。尾高先生の気合もものすごく、熱のこもった指揮の姿は目にしっかりと焼き付けた。頂点に達したところで、最後の締めくくりとなるがぐっとテンポを落とした事に驚きと猛烈に惹かれる何かがあった。そして最終音が鳴らされた後、約10秒近く静寂な時間が続いた。
 …これがブルックナーの終わり方である。フラ拍もなく、聴衆全員ブルックナー付きであったであろう。そして拍手喝采となった。

総括

 ずっと楽しみにていたブルックナー交響曲第5番。筋金入りのブルックナー好きならば、必要不可欠の作品である。
 私は大阪フィルということで、朝比奈先生の演奏で予習をしていた。個人的にブルックナー交響曲第5番は朝比奈先生の右に出るものはいないと認識している。あのチェリビダッケカラヤンよりも、あの独特の重厚さ、柔らかさ、荘厳さは朝比奈先生にした生み出すことはできない。そして、約50年近く朝比奈先生は大阪フィルの監督を務めていた。そのオーケストラを日本を代表する巨匠指揮者である尾高忠明先生が本作品を指揮することになり、どのような音楽を奏でるのかとても楽しみであった。
 今日、尾高先生のブルックナーを聴いたのだが「朝比奈先生の音楽を承継するものではなく、尾高先生のブルックナーであった。随所朝比奈先生と大阪フィル特有の重厚感溢れる音色があったものの、テンポは朝比奈先生の厳格なテンポとは異なり、やや快速的テンポで駆け抜けるのは尾高先生ならではの解釈であった。
 朝比奈先生とは違った充実さに非常に満足であった。尾高先生はカーテンコールの途中、自らスコアを持ち帰った。
 そして、鳴り止まぬ拍手に一般参賀が行われた。尾高先生とコンサートマスターの崔文洙先生と一緒に…。

前回のコンサート

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