本の簡単な紹介
本のタイトル・出版社
- 『馬を売る女』(光文社、2021年)
あらすじ
星野花江は社長秘書をしている。社内ではケチで通っており、小金を貯めていると評判だった。実際、社員に金を融通していて、利子まで取っていた。彼女にはそれ以外にも、競馬の予想を流すという副業があり、その情報の出所に、彼女の秘密がかくされていた──。
光文社掲載より引用(馬を売る女 松本清張 | 光文社文庫 | 光文社)
なぜこの本を読んだのか
law-symphoniker.hatenablog.com
この作品に引き続いて松本清張の「プレミアム・ミステリー」のシリーズを探していたところ、この作品を見つけたので読んでみることにしました。
自分の考えや本への想い(以下、ネタバレ注意!!!)
まず、この本は『馬を売る女』の表題がある作品であるが、長編推理小説ではない。いわゆる推理小説集であり、短編の推理小説が複数収録されている。もっとも、この『馬を売る女』のみでも200頁を超える量であり、1冊のうち約半分を占める。
まず、この作品全体について驚くべきことは見事な構成である。最後の最後になって冒頭部のシーンが役立つのだ。読み始めた当初は良くわからない冒頭部分であったが後々になって事件の解決に結びつくのである。
この作品の主人公は星野花江であり社長米村重一郎の秘書をしている。そして、社長米村重一郎が経営する日東商会の婦人服部が持っている下請の縫製会社に平和服飾がありその下請である城東洋裁店を経営する八田永吉が登場する。星野花江は社長秘書を行っている傍ら、競馬情報のアルバイト(副業)をしている。それが八田を通じて社長米村重一郎に発覚される。
その後、八田は星野花江から金を借り、その額は600万円を超えた。しかし、八田は星野花江を殺害する計画を企て実行するに至る(後述するように「相模湖湖畔OL殺人事件」と呼ばれるようになる)。その結果星野花江は殺されるのだが、その後の八田の行動や考え方は冴えており、捜査官は八田を逮捕する情況証拠すら与えなかった。その結果、捜査機関は八田を諦めざるを得なくなり、八田は警察との勝負で完全なる勝利を遂げた。
しかし、その状況が一変する。「相模湖湖畔OL殺人事件」に関する目撃者が現れたのだ。その目撃者が冒頭部分で登場した画家の石岡寅治である。石岡の発言により、所轄署は高速道路の非常駐車帯での殺人を興味を抱き、扼殺する手段も合理的であるとして再度調査を進める。事件が起きた2月14日に八田が乗っていたであろう車が青山方面へ向かったという石岡の発言に基づき、青山付近で何かなかったか交通部で調べたところ、八田の車と一致する情報が出てきたのだ。
八田は《2月14日は夜8時半ごろから丸の内のR新聞社付近の屋台店でのみ、その後近くの路上に車をとめて眠り、11時半ごろに久松町の自宅に帰った。》と明言しているが真っ平な嘘である。八田の車は外苑で12時頃に存在したのであるから…。
八田が星野花江の殺害の被疑者として逮捕されるのはもはや時間の問題である。
この結末を知った時に、冒頭部分の石岡虎治とその恋人(不倫相手)のシーンが最後の最後で唯一の目撃者として活きてくるのだから読んだ時には驚いた。
まとめ
松本清張先生の『点と線』もそうでしたが、何かしらの事件が起きるまでの前置きが長いように思います。ただ、悪くいえばそうであって、冒頭でなんらかの事件が起きて、それを捜査官がさまざまな推理を企てて犯人逮捕に至る過程ではなく、最初から物語が始まり、それぞれの関係性を明らかにした上で事件が起き、犯人を捕まえることができるのか、というサスペンス的要素が多くあるように思います。本作品である『馬を売る女』でも、八田英吉が星野花江を殺害し、最終的には八田英吉を逮捕できる証拠が手に入る。また、『湖底の光芒』でも最後の最後で心中事件となる。
このように、ひとつの物語がはっきりした中で事件が起きます。さらに、松本清張先生のミステリーは犯罪小説に尽きないです。ミステリーとは一体何か…。それを考えさせるのも松本清張先生の文学の一要素なのでしょうか。