鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【書評】『鳴門の渦潮を見ていた女』西村京太郎

本の簡単な紹介

本のタイトル・出版社

  • 『鳴門の渦潮を見ていた女』(新潮社、2023年)

作者

  • 西村京太郎(1930 - 2022)

 (1930-2022)東京生れ。1963(昭和38)年『歪んだ朝』で「オール讀物推理小説新人賞、1965年『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞をそれぞれ受賞。1981年に『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞を受賞する。2004(平成16)年には日本ミステリー文学大賞を、2019年には「十津川警部」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞。鉄道ミステリー、トラベルミステリーに新境地をひらき、常に読書界の話題をさらうベストセラーを生み出した。
 新潮社掲載より引用(西村京太郎 | 著者プロフィール | 新潮社

あらすじ

 警視庁捜査一課の刑事・佐々木は、余命半年の病に冒されたひとり娘のために職を辞して、二人で渦潮を見ようと、徳島の鳴門に旅に出た。しかし、訪問先の渦潮観望施設「渦の道」で、娘は何者かに誘拐されてしまう。大会で優勝したこともある射撃の名手・佐々木に課せられた犯人からの解放条件は、四十八時間以内に警視総監を射殺すること! 権力の陰に潜む闇に十津川警部が挑む長編ミステリー。(西村京太郎 『鳴門の渦潮を見ていた女』 | 新潮社

なぜこの本を読んだのか

 ふと思った時に西村京太郎先生の作品を読みたくなった。しかし、西村京太郎先生が亡くなって新刊がなかなか出ない…。
 個人的に光文社文庫のレイアウトやフォントが好きなのでよく光文社文庫のコーナーに立っては西村京太郎先生の作品を眺めていた。しかし、ほとんど読んでしまったのでどこか寂しい気持ちだった。そして、スピンが入っている文庫本として有名な新潮文庫のコーナーに立ち寄ったら帯に新潮文庫の新刊」という文字が入っていた。私にとってその文字が非常に輝いて見えた。
 また、西村京太郎先生の物語の中で十津川警部と共に事件を追いかけることができた。やはり嬉しいものだ。

感想(ネタバレ注意)

 本作品の帯に「警視庁vs. 警察庁とあった。西村京太郎先生の作品には政治関連が多く絡んでいる。怪しい人物の背景には政治界の大物がいることが多い。
  1日であっという間に1冊読んでしまった。主人公である佐々木圭は元警視庁捜査一課の刑事である。佐々木には妻がいたが新種の癌で亡くしてしまう。そして、たった一人の娘であるさくらも妻と同じ癌の症状であることが発覚した。さくらの残りの人生を共にするため、渦潮を見に徳島へ旅行をする。しかし、その場所でさくらが誘拐され、犯人は佐々木は警視総監である三村を殺害することを要求する
 元刑事である佐々木は三村警視総監を追いつつ、佐々木を監視している人物を原口という人物に情報を提供するように依頼する。この原口も元刑事であり、十津川の後輩なのだ。途中、十津川が原口を取り調べるシーンがあるのだが、読んでいて半ば複雑な心境となっていた。原口は幹部候補と言われていた優秀な刑事なだけあって、佐々木を庇うために敢えて嘘を十津川に話すのである。しかし、十津川はそれを嘘だと見抜いているのも優秀な警部なのだろう。
 さて、先ほど「警視庁vs. 警察庁について掲げた。当初は十津川が所属する警視庁と警察庁が衝突して捜査をするかと思いきや全く違っていた。三村警視総監は「市民のための警察」ということとを掲げていた一方で、警察庁の黒田長官は「国のための警察」と主張(失言)した。この対立が佐々木を三村警視総監を狙撃を早め、娘のさくらの危機も早める。
 しかし、結末は悲しい。十津川は佐々木、そして犯人グループは誰も死なせなかった。ただ、佐々木の娘のさくらと原口が両方とも殺されれしまった。佐々木が監禁場所を追いかけてさくらを発見した時にはすでに亡くなっていたのだ。この酷い結末は少々トラウマ要素がある。
 そして、題名の『鳴門の渦潮を見ていた女』の正体は、おそらく娘のさくらを攫った小西あかりのことだろう。佐々木はこの小西を覚えていたのだ。しかし、最後の場面で大変興味深いことを十津川が三上刑事部長に対して以下のように問いかける。

 「今、ふと考えたんですが、小西あかりと佐々木の娘は、よく似ているとは、思いませんか?

まとめ

 やはり西村京太郎先生の作品は素晴らしい。
 しかし、西村京太郎先生の作品には誘拐犯も含まれているがどうもバッドエンドが多いように思う。実際問題として誘拐事件を何なく解決することは相当難しいのだろう。
 今回の十津川警部は第四章で登場した。開幕早々で登場することもあるが、作品半ばで登場することもある。十津川警部の名前を見ると「待ってました!」という気にさせる。
 また、十津川警部ととともに事件解決の道筋を一緒に歩んでいきたい。