鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【書評】『点と線』松本清張

本の簡単な紹介

本のタイトル・出版社

作者

 福岡県小倉市(現・北九州市小倉北区)生れ。給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷札』が直木賞候補となり、1953(昭和28)年、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。1958年の『点と線』は推理小説界に“社会派”の新風を生む。生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、その守備範囲は古代から現代まで多岐に亘った。
新潮社掲載より引用(松本清張 | 著者プロフィール | 新潮社

あらすじ

 九州博多付近の海岸で発生した、一見完璧に近い動機づけを持つ心中事件、その裏にひそむ恐るべき奸計! 汚職事件にからんだ複雑な背景と、殺害時刻に容疑者は北海道にいたという鉄壁のアリバイの前に立ちすくむ捜査陣……。列車時刻表を駆使したリアリスティックな状況設定で推理小説界に“社会派”の新風を吹きこみ、空前の推理小説ブームを呼んだ秀作。

新潮社掲載のあらすじを引用(松本清張 『点と線』 | 新潮社

なぜこの本を読んだのか

 前の記事には「introduction」という項目をつけていたのに、今回は何故なかったのか。それは単純明快で、introductionの項目とこの項目とで内容が被り、書く内容がなくなってしまうからです。
 さて、言い訳は別として、「なぜこの本を読んだのか」ということですが、その理由は、新たな推理小説を読んでみよう!と思い、社会派推理小説のパイオニアである松本清張先生の作品を読んでみようと思ったのがきっかけです。
 さらに、なぜ数ある松本清張先生の作品から『点と線』を選んだのか。その理由は、文芸評論家の細谷正充先生のおすすめの読書コースに従ったからです*1

自分の考えや本への想い(以下、ネタバレ注意!!!)

 今まで西村京太郎先生の作品を多く読んできましたが、今回は初めて松本清張先生の作品を読みました。時代設定が大きく異なり、当時の昭和の風景(映像で見る戦後のような…)を想像しながら読みました。
 松本先生が執筆していた時代にはスマートフォンはともかく、携帯電話すらない時代。当時の警察官はどのように捜査をしていたのでしょうか??それを表したのが、松本先生の作品であると思いました。都道府県を跨いだ警察署のやり取りは電報です。

「フタバシヨウカイノカワニシノシヨウゲンニヨレバ、一ガツ二一ヒ、サツポロエキニテヤスダニアツテイル。二二ヒ、二三ヒ、ヤスダハ◯ソウニトマツテイル」(149頁)

 と、当時の電報のやり取りが記されています。そして、この心中事件(正確には心中事件ではない)の真犯人は、あらすじを知ればすぐわかる、安田辰郎です。この安田辰郎のアリバイを、福岡署の鳥飼十太郎刑事と警視庁捜査二課の三原紀一警部補が懸命に崩そうというストーリーです。
 同書の後部に解説があり、平野謙先生によると、『点と線』は推理小説の中ではいわゆる「アリバイ破り」というジャンルに属する*2、と述べています。また、平野先生は「アリバイ破り」という推理小説について、最初からあるいは途中から完璧なアリバイを持つ人間が真犯人たることは暗々裡に提示されている*3、と述べています。
 本作品は、冒頭から、安田辰郎が登場するため、あらすじさえ知っていれば真犯人は最初から知っている状態で読み進めることになります。
 何より、本作品のポイントは、東京駅の十三番ホームから、十五番ホームを見渡せるのが、一日に四分しかないという事実であり、しかも、本作品の時間は、昭和32年のダイヤによるものとされており、実際の事実を物語に織り込んでいる点には驚きです。

まとめ

 本作品は、時代設定が大きく異なるため、読み進める上では結構苦労する部分がありました。安田は九州から北海道までと幅広く移動しており、それに伴って、三原もあちこち捜査をするわけですから、どこのどのような場面を読んでいるのかたまにわからなくなってしまいました。また、「アリバイ破り」というジャンルと、よく読んでいた西村京太郎先生の物語とは若干異なる点も、私にとって混乱を招いたようです。
 本作品を読み終えた後、解説等を読んで本作品についての理解が深まったように思います。その理解を生かし、もう一度この『点と線』を読んで、松本先生の文学に再度立ち入って見たいと思います。

 時には、時代を遡って昭和の推理小説を堪能するのもいかがでしょうか??


*1:新潮文庫編『文豪ナビ 松本清張』(新潮文庫、2023年)20頁[細谷]

*2:松本清張『点と線』(新潮文庫、1946年)254頁

*3:前掲注2・254頁