鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【書評】『弱気の蟲』松本清張

introduction

 新年明けましておめでとうございます!!

 「今年のことは今年のうちに」という言葉があるが、実は以下の記事は年末に投稿する予定だったものである。なんだかんだ年末が予定が立て込んでしまって年を跨いでしまった。
 さて、年末の風物詩の一つである箱根駅伝。毎年母校である早稲田大学を応援しているが今年は総合7位という結果に終わった。総合5位以内という目標であったが、昨年に比べて順位を一つ落としてしまった。
 来年は城西大学のように飛躍して強い名門早稲田大学を名を轟かせていただきたい
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本の簡単な紹介

本のタイトル・出版社

  • 『弱気の蟲』(光文社、2019年)

作者

 福岡県小倉市(現・北九州市小倉北区)生れ。給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷札』が直木賞候補となり、1953(昭和28)年、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。1958年の『点と線』は推理小説界に“社会派”の新風を生む。生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、その守備範囲は古代から現代まで多岐に亘った。
 新潮社掲載より引用(松本清張 | 著者プロフィール | 新潮社

あらすじ

 二十年近く地道にある省の役人を勤めてきた川島留吉は、ふとしたきっかけで役人仲間と麻雀を始める。麻雀が弱い川島は負けが込み続けるが、ある日、川島の官庁に出入りの外郭団体の職員から自宅での麻雀に誘われる。そこから川島の地獄の日々が始まった――。(表題作)俳句仲間と野鳥の声を録音しに行った軽井沢での殺人事件を扱った「二つの声」も収録。。(弱気の蟲 松本清張 | 光文社文庫 | 光文社

なぜこの本を読んだのか

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 引き続き、松本清張プレミアム・ミステリーより。このようなシリーズ化していると片っ端から読みたくなるものだ。

感想(ネタバレ注意)

 本作品は「二大長編推理小説であり、『二つの声』と表題である『弱気の蟲』の二つの作品が収録されている。結論から述べるとどちらも清澄先生の醍醐味がつまり、いかにも推理小説といえるような作品で非常に面白かった

『二つの声』

 俳句を趣味とする妻我富夫、越水重五郎、進藤敏郎、原沢規久雄、そして、福地嘉六が野鳥の声を収録するために、長野県軽井沢に訪れる。私自身が長野出身ということもあり、非常に親近感が湧くし嬉しいものである。
 夜山奥で録音機を設置し、野鳥の声を収録する。そんな中、男女のアベックが現れる。妻我らは野鳥の声よりも男女の会話の内容が気になるが、収録範囲からやや遠いようで精確に聞き取れない。しかし、これが後にとんでもないことに発展するのである
 東京に戻り、バーの「青い河」のマチ子が出勤していない。それも出勤しなくなったのは妻我がら軽井沢に行った頃だったという。まさか、野鳥収録した時に現場にいたのはマチ子ではないか…。そんな偶然性あるかと思うが、現場付近から腐乱状態のマチ子が発見されたのである
 さて、マチ子を殺害した犯人は誰なのか。それは思わぬ人物だった。
 それよりも、警察を介さないで情報を収集する原沢は一体何者なのだろう。随分と詳しいことまで知っているのである。福地嘉六の息子である福地嘉一郎妻我富亭(富夫)の奥さんが逮捕されたことも原沢は知っていたのである。
 このように意外な人物が犯人だとわかって終わる結末は推理小説の醍醐味の一つと言って良いだろう。

『弱気の蟲』

 役人である川島が麻雀に嵌まり、鴨のように扱われて借金を拵える。その時の心情は極めてリアリティであるし、つい同情してしまう描写は清張先生ならではの表現力。そして、もはやお決まりと言って良い男女の絡れ。川島は麻雀屋を営む浜岡の奥さんに好意を抱く。そして、浜岡の麻雀屋の常連客とも言えようか、田所・近藤・鶴巻は役人とは違い、正統な麻雀を指す。しかし、レートは役人達のも麻雀より3倍近く高い。最初は川島は勝っていた。というよりも、あえて勝たせていたように思える。やがて、川島は勝てなくなり、、田所・近藤・鶴巻らに借金を背負うことになり、複数の金融機関から借金のための借金をすることになり、地獄のような日々を送ることになってしまう。さらに、近藤や鶴巻から借金の取り立てにもやってくる
 そして、川島は浜岡の細君である加代子に会うために浜岡宅兼麻雀屋に訪れる。しかし、そこで思わぬ人物と遭遇する。田所だ。さらに田所と川島が浜岡宅に訪れた時点で、加代子が殺害されていたのである。当然現場にいた田所が犯人であると思われる。川島も警察も新聞社もそう思っていたし、私もそう思っていた。
 しかし、犯人は思われる人物だった。夫の浜岡だ。夫の浜岡が田所に濡れ衣を着させるために、田所の仕業のように仕向けたのだ。
 実際には、川島も田所も無実である。しかし、川島も新聞社や雑誌社の記事によって田所の共犯者や重要参考人として扱われた挙句、国家公務員を辞めざるを得なかった
 川島は麻雀を始めたことにより、財産を失い、国家公務員の課長補佐という地位も退かなくてはならないという地獄の日々を送ることになってしまったのだ

まとめ

 松本清張先生の「プレミアム・ミステリー」シリーズはマイナーな作品も収録されている。中には、「これミステリー」と疑問を抱くようなものもあるが、この『弱気の蟲』はどちらも推理小説というような王道な内容だった。
 最後の最後で思わぬどんでん返しがあるという王道のスタイルは分かっていても衝撃が走るものだ。

 本年度もよろしくお願いいたします!