鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【読響】第634回定期演奏会 in サントリーホール

introduction

 今回は、【読響】第634回定期演奏会である。前回聴きに行ったのが第633回定期演奏会であったので、2回連続の定期演奏会となった。そして、何よりも、私にとって今年最初のコンサートでもある。
 そして、ドイツ音楽を好む方にとっては実に素晴らしいプログラムであろう。リヒャルト・ワーグナールートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンリヒャルト・シュトラウスドイツ作曲家のオンパレードである。どれも私が興味ある作品ばかりなのである。
 そして、指揮者は読響常任指揮者であるセヴァスティアン・ヴァイグレ。ドイツの名匠であるヴァイグレの指揮によるドイツ音楽はいかなるものか。随分と前に、ヴァイグレと読響の演奏でブルックナー交響曲第9番を聴きに行ったことがあるが、迫力十分の重厚なブルックナーであったと強く記憶している。
 いつもなら早大図書館で各作品についての解説や文献を参照するのであるが、今回はその時間が十分に確保できなかった
 今回のプログラムで注目すべきものは、やはりリヒャルト・シュトラウス交響詩ツァラトゥスラはかく語りき」だろう。有名な序奏部のみならず、後期ロマン派音楽特有の4管編成による迫力ある圧倒的な音楽はやはり実際に体感してみたい

本日のプログラム

ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲

 冒頭部のトランペット・ソロのA音の幕開けはやはり緊張する。しかし、気がつけばノーミスであることに気がついた。何度かソロパートがあるがその間に木管楽器の音色が入る。トランペットの円やかな音色と木管楽器の艶やかで美しい音色が響き渡る幻想的なファンファーレだった。その後の弦楽器の主題も申し分ない美しさであった。その後、全合奏の中トランペットが主題を奏でる場面は実にワーグナーらしい荘厳さが際立っていた。1曲目から欲しかった読響サウンドが響き渡る。さすがにテンシュテットのような強烈さは無いが引けを取らない壮大な音楽であった。
 後半からは少しテンポをあげる。幾度と鳴らされる金管楽器の壮麗なコラールは感動した。スネアドラムといった打楽器が加わる行進曲風な場面もしっかり打楽器が聴こえた。やはり、この『リエンツィ』のひとつの注目すべき場面だろう。うるさ過ぎない程度のシンバルや金管楽器の音色、しかし、迫力十分。終盤に向けて徐々に熱を帯びており、かなりのテンションの高さで締め括った
 序曲から既に満足である。

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調

 十分な予習を積むことができないまま当日を迎えてしまった。したがって、楽章ごとの項目に分けて執筆することができなくなってしまい、申し訳ない。
 冒頭の木管楽器による第1主題は瑞々しく透き通るような美しい音色だった。そして、第1主題から雰囲気が一変して弦楽器が力強く第2主題を奏でたが、すぐに第1主題に戻る。このニ長調による第1主題は穏やかで優しい雰囲気に包まれた
 提示部が終わり、いよいよダニエル・ロザコヴィッチのヴァイオリンが登場する。繊細な音色が響き渡り美しいヴァイオリンの音色が響き渡っていた。尤も上位のように完全なる予習不足であったので、プログラム・ノートの解説を手掛かりに聴いていた。この協奏曲は、独奏の気ままな演奏に管弦楽が寄り添うものでもなく、華麗な独創の妙技を存分に見せつけるものでもなく、独創楽器と管弦楽を緊密に組み合わせ、アンサンブル型の協奏曲を実現したとされている*1。個人的にヴァイオリン協奏曲は疎いのだが、確かにシベリウスバルトークのヴァイオリン協奏曲を聴くとどちらかというと後者のスタイルに属するものかと思われる。
 確かに、ダニエル・ロザコヴィッチのヴァイオリンの音色は素晴らしかったが、時には管弦楽の音色に溶け込んでおり穏やかな音楽を展開したりしていた。さらに、プログラム・ノートには「この作品には多くの美しさが認められるものの、月並みの箇所の果てしない繰り返しによってくたびれてしまう」*2との記述が引用されていたが、私ものその聴き手の一人になってしまった。
 第1楽章だけでも相当提示部第1主題を繰り返しているように思える。実際に第1楽章だけでも約25分という長大な作品である。
 全体と通すとやはりベートーヴェンらしい愉快さ・美しさ・繊細さを兼ね備えた傑作であると認識した

Encore:J. S. バッハ:ヴァイオリンのためのソナタ第1番 より 第1楽章


リヒャルト・シュトラウス交響詩ツァラトゥスラはかく語りき」

 かの有名な「Einleitung(導入部)」トランペットの「自然の動機」は申し分ない音色だった。もっとも私は、テンポを早めて打点を打つのが好みだが一音丁寧な打点であった。その後の盛り上がる場面は実に壮大で美しく、パイプオルガンの音色も響き渡った。そして新たな発見であったが、有名な「自然の動機」はトランペット・ソロではなく、4本で演奏されることを初めて知った
 後の「Von den Hinterweltlern(世界の背後を説く者について)」はまるで、メタモルフォーゼンを聴くかのような極めて精緻な弦楽器のパートである。迫力ある導入部から一変して精緻な音楽を描き出すリヒャルト・シュトラウスの表現力はとてつもないものだ。実際、読響は精緻で繊細な弦楽器の音色を響かせていた。その美しさは「Von der großen Sehnsucht(大いなる憧れについて)」にも引き継がれた。その後盛り上がると、大編成の楽器構成と読響の圧倒的なサウンドによって「Von den Freuden und Leidenschaften(喜びと情熱について)」へ移った。迫力ある弦楽器の音色に強烈なトロンボーンの「懈怠の動機」が聴こえた時は鳥肌がたった。この音が聴きたかったのだ。ヴァイグレは、ドゥダメルブーレーズのように速いテンポで演奏されていた。私はマゼールカラヤンのように遅く演奏される方が好みであるが、どちらの演奏スタイルも好みである。
 そして一旦落ち着いて「Das Grablied(墓場の歌)」に入り、その後は超小音の「Von der Wissenschaft(学問について)」 の場面はちょっとした雑音を立たせることさえ許されないような緊張感が漂った。
 いよいよ大きな場面である「Der Genesende(病より癒え行く者)」に入る。私はこの場面が一番好きなのだ。何度か「自然の動機」が繰り返されるのだが、その盛り上がりが頂点に達した後の怒涛の「自然の動機」が最も好みであり、今回の演奏でも十分に期待していた。実際のところは予想を遥かに上回る大迫力であり、ステージから何か悪魔の力を借りてきたかのような圧倒的音量と重厚さが押し寄せてきたのである。さすがはヴァイグレ、さすがは読響の言葉に尽きる。後半は、少し穏やかになり、ワルツのような優雅さが漂う。様々な楽器が鳴り響くリヒャルト・シュトラウスの精緻な音楽作りを実感した。その雰囲気のまま「Das Tanzlied(舞踏の歌)」に入る。随所にヴァイオリン・ソロがあるのだがコンマスの林悠介先生の繊細な音色はしっかりと響いてきた。この「Das Tanzlied(舞踏の歌)」も私が好きな場面であるのだが、特に素晴らしかった。大編成の楽曲を思う存分に発揮しており、後半部は超絶ダイナミックな音量で圧倒されたそう!このダイナミックな音に圧倒されたくて今日の読響に期待してきたのである!
 最高潮に達して「Nachtwandlerlied(夜の流離い人の歌)」に突入するが、最初の鐘の音が目の覚めるような一発であった。最初の1発から一気に静寂な雰囲気となり、林先生の繊細で美しいヴァイオリンの音色と木管楽器の音色しか残らなくなる。フラブラはもちろんのこと、最後の音が鳴り終わっても指揮者のタクトが下されるまでは静寂で緊張感のある雰囲気に包まれた。
 その後、熱狂的な拍手に包まれた。

総括

 全体を通して私の期待していたような内容であり素晴らしかった。特にリヒャルト・シュトラウス交響詩ツァラトゥスラはかく語りき」は強く印象に残った。やはり、N響都響とは違う迫力さダイナミックさが読響にはある。時には度肝を抜くほどの圧倒的音量を容赦無く鳴らすものであるから私はすっかり虜になってしまっている。もはや日本のオーケストラの中で一番好きなオーケストラなのかもしれない
 高円宮妃久子殿下を名誉顧問として設えている読売日本交響楽団。その存在からイギリスのロンドン交響楽団のような印象を受けるのは私だけであろうか。
 会員に入るか否かは定かではないが、いずれにしても読響のコンサートは色々と追いかけていきたいと思う。
 今年初のコンサートは幸先の良いスタートを切った
 

前回のコンサート

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*1:公益財団法人読売日本交響楽団編『月刊オーケストラ11号』(読売日本交響楽団、2024年)13頁[澤谷夏樹]

*2:公益財団法人読売日本交響楽団編『月刊オーケストラ11号』(読売日本交響楽団、2024年)13頁[澤谷夏樹]