鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【読響】東京芸術劇場マエストロシリーズ in 東京芸術劇場

introduction

 今回は、東京芸術劇場エストロシリーズ。そして、私の好きな作曲家グスタフ・マーラーである。やはり、何と言ってもわかりやすい構成と四管編成に基づく大編成のオーケストラによる迫力ある演奏が魅力的である。久しぶりのマーラーだなぁ…と思ったら、7月に東京交響楽団の演奏でマーラー交響曲第5番を聴いたのだった。
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 マーラー交響曲第5番も第5楽章の圧倒的迫力で豪華なフィナーレが印象的である。
 そして、今回のプログラムは、マーラー交響曲第1番ニ長調「巨人」はもちろんのこと、その作品の元となった歌曲集「さすらう若者の歌」である。実際に、交響曲第1番の第1楽章第1主題と第3楽章中間部に「さすらう若者の歌」の一節が引用されている。詳しくは以下の記事を参照されたい。
このように、原曲を引用した作品を後半で扱うという構成になっているのは、なかなか考えられた構成であるものといえよう。
 マーラーブルックナーといった後期ロマン派音楽作曲家による演奏はダイナミックな演奏が多く、素晴らしい音圧を体感することに醍醐味がある。そして、指揮者はトマーシュ・ネトピルであり、「近い将来、楽檀を担う」という極めて将来に対して期待を寄せる評価がされており、その指揮者によるマーラーを聴くことは非常に楽しみであり、どのような音楽になるか予想がつかない。オーケストラは、読売日本交響楽団であり、素晴らしい迫力のある金管楽器を響かせる印象があるオーケストラであるから、大迫力のマーラーが期待できるのではないか

本日のプログラム

マーラー:歌曲集『さすらう若者の歌』

第1曲:Wenn mein Schatz Hochzeit macht

 木管楽器の甘美な音色と共にヴァタリ・ユシュマノフの歌声が聴こえてきた。座席の関係上ユシュマノフの声量があまり届かず、オーケストラの音色に押されてしまったように聴こえた。それほど、読響サウンドは強力なのだろう。もっとも、第1曲において予習していたテンポより波があったので、この後の交響曲第1番『巨人』がどのようになるのか非常に楽しみであった。

第2曲:Hing heut' morgan übers Feld

 交響曲第1番ニ長調『巨人』第1楽章第1主題の原曲である。軽やかなフルートの刻みと美しいハープに加えて、ユシュマノフの穏やかな歌声が聴こえてきた主旋律を奏でるヴァイオリンの繊細な美しさと木管楽器が非常に透明度の高い音色を響かせており、非常に美しかった。後半に連れて少しずつ落ち着き、寂しくなっていくのだが、ユシュマノフの歌声が少しずつ切なげになり、ホール中に響き渡ったのが印象的だった

第3曲:Ich hab' ein glühend Messer

 荒々しい出だし。早速読響サウンドが鳴り響くがユシュマノフの歌声が少しかき消されてしまった。第3曲は始端と終端が激しくなる。後半ではシンバルが撃たれるほどの迫力になるが、読響のオーケストラは非常にダイナミックな音色を響かせていた

第4曲:Die zwei blauen Augen

 再び第1曲のような不穏な雰囲気に戻る。『さすらう若者の歌』は全体的に暗い作品なのである。その後、少しずつ交響曲第1番第3楽章中間部を彷彿させるような美しさが垣間見える。座席の関係上止むを得ないかもしれないが、ユシュマノフは静寂な場面の方が歌声と表現が非常に素晴らしかったように思う。そして、ヘ長調であるが交響曲第1番第3楽章トリオの原曲が登場するのだが、ユシュマノフの甘美な歌声が響き渡り、それを彩るようにオーケストラの美しい音色が響き渡っていた。そして、冒頭のフルートが不穏な雰囲気を残しながら静かに曲を閉じる。

マーラー交響曲第1番ニ長調「巨人」

第1楽章:Langsam. Schleppend - Immer sehr gemächlich

Langsam. Schleppend
 いつ聴いてもこの冒頭部分は息を呑むほどの緊張感が漂う。何一つ物音を立ててはいけないのだ。繊細な響きが聴こえる。繊細で美しいヴァイオリンの音色に伴って軽やかでこれまた美しい木管楽器が軽快な音色で冒頭部分を彩った。まるで、朝露が残り、煌びやかな朝のような雰囲気であった。舞台裏のトランペットの音色も自然でホール全体を美しい音色で彩っていた。第1楽章序奏部においてネトピルは楽譜に忠実だったようで特異な場面特になかった。
Immer Sehr Gemachlich
 提示部に入る。若干キレを齎しながらチェロが小刻みに第1主題を奏ではじめる。ネトピルの柔らかく弧を描くような指揮法によって生み出される音楽は美しくも、非常に弾むように楽しげな雰囲気をもたらした。少しずつさまざまな楽器が加わって盛り上がっていく過程において、序奏部のような美しさがまだ残っているかのようなヴァイオリンと甘美なフルートの音色が非常に印象的だった。提示部の最高潮に達すると8本いるホルンのそうだな音色が壮大に鳴り響いており、今後の盛り上がりが大いに期待できた繰り返しあり。2回目のチェロの第1主題は1回目とは異なって若干流線を描くように穏やかな音色を奏でていた。単なる繰り返しとは異なるのである。
 展開部に入る。冒頭の部分のような雰囲気に戻り、再び美しさの中に緊張感をもたらす。そして、再び繊細で美しいヴァイオリンの音色に伴って軽やかでこれまた美しい木管楽器が軽快な音色で冒頭部分を彩った。この展開部はいつ聴いても息を呑む。美しさの裏面には緊張感が備わっている。ホルンの斉奏が雄大に音色を響かせ、その後のチェロの甘美な音色が大変美しいかった。ここまで幸福感を味わう第1楽章もそうそうないだろう。敢えて、スローテンポで指揮をしているマゼールだからこそ生み出される美しさであろう
 再現部に入り、再び第1主題を演奏するのだが、ホルン・ヴァイオリン・チェロといった様々な楽器がそれぞれ美しい音色を奏で、非常に緻密な音楽が構築されていた。さらに、随所のトランペットの上昇音階も柔らかい音色がながらも伸びやかな音色が非常に印象的だった
 コーダでは、早速とてつもない迫力であり第4楽章のフィナーレを彷彿させた。しかし、その後すぐに抑えめに演奏しており第4楽章前に完全燃焼させない。この強弱は見事だった。非常に華やかな第1楽章フィナーレであり、途中のホルンのトリオは非常に強烈だった。極端にテンポを早めることなく、自然なテンポで奏でる華やかなフィナーレは非常に壮大であった。

第2楽章:Kräftig bewegt, doch night zu schnell (Ländler Scherzo)

Kraftig Bewegt, Doch Nicht Zu Schnell
 第2楽章の冒頭は少し遅いテンポであり、力強いチェロが早速主題を奏でた。しかし、その後木管楽器やヴァイオリンの音色が奏でると力強さは影を潜め、まるで舞踏会のような楽しさと明るさに包まれた。聴いていてここまで楽しい第2楽章は初めてだ。途中の木管楽器のベルアップは非常に素晴らしく、しっかりと2階後の席まで届いてきた。途中のホルンは、ステージ正面左側のホルン団からも非常に雄大な音色を響かせた。もっとも、トリオに入る前の盛り上がりの燃焼度は凄まじいものであった。
Trio: Recht Gemachlich
 少し前の燃え盛るような盛り上がりからいっぺん落ち着いた雰囲気となった。主部の舞踏会のような雰囲気が残り、ヴァイオリンの穏やかな音色と共に木管楽器の軽快な音色が非常に印象的だった。弦楽器と木管楽器が大活躍したトリオであった。
Tempo Primo
 再び主部に戻る。圧倒的音量を誇る読響ホルンが加わり、凄まじい迫力をもたらした。ここで再び熱が入り、シンバルも加わってスケールの大きな第2楽章を形成する。

第3楽章:Feierlich Und Gemessen, Ohne Zu Schleppen

Feierlich Und Gemessen, Ohne Zu Schleppen
 ティンパニの小さな打音と共にコントラバスのソロが静かに聴こえてくる。ファゴットの低音も響いてきて若干不安な雰囲気をもたらす。少しずつ楽器が増えて厚みが増していく。ネトピルは楽器の音色を尊重し、幾つもの楽器が折り重なって構築する第3楽章は不気味な雰囲気ながらもどこか込み上げてくる何かがあった。途中の小さなシンバルが加わる行進曲風の部分は、少しテンポを上げて若干明るさをもたらすようであって。少しだけシンバルの音が大きかったように思う。
Sehr Einfach Und Schlicht Wie Eine Volksweise
 ハープの音色が聞こえると美しい中間部。非常に美しい弦楽器がさすらう若人の歌』第4曲「彼女の青い眼が」の部分をの引用部分を見事に奏でていた。ネトピルの穏やかな指揮法によって生み出される音楽は非常に美しい音色であった。途中のヴァイオリン・ソロが活躍する場面は林先生の美しいヴァイオリンの音色が響き渡った。
Wieder Etwas Bewegter, Wie Im Anfang
 再び主部に戻る。重厚感ある音色とともにクラリネットの弾むような音色が響き渡り、良いアクセントでった。その後のトランペットの音色が柔らかい音色で響いていた。改めて読響サウンドを堪能するとともに、ネトピルの自然な音楽作りに感銘を受けた。

第4楽章:Stürmisch Bewegt

 冒頭の強烈なシンバルによって第4楽章の幕を開ける。の音は少し小さめ、そして、シンバルの後のティンパニの間が驚くほど短い。第1主題はやはり読響サウンドが炸裂し、何度も圧倒的な音圧が私の体に響いてきた。ここでも、ネトピルの音楽は非常に精緻であり、各楽器の音色がかき消されることなく自然な音色で響いてきた。もっとも、随所のティンパニ等の打音は非常に強烈なものであり、やはり第4楽章第1主題はこのような迫力さが必要である。そして、第2主題へ入る。激しい第1主題とは対照的に非常に美しかった。第3楽章トリオのように非常に大きくうねるヴァイオリンと繊細な響きが非常に印象的であった。ネトピルのスケールの大きい指揮法によって生み出されるのだ。ティンパニのおどろおどろしい音色が響きが聴こえた後、展開部にうつる。
 展開部何よりもティンパニを含んだ打楽器が非常に強烈な音色を響かせていた。さらに、トランペットやトロンボーンが鳴り響き、それに負けなじとヴァイオリンがうなりをあげていた。やはり激しい展開部の後、ハ長調ニ長調へと迫力ある頂点部を形成した。トロンボーンを含め柔らかい音色と共に迫力ある音色の後、ホルンが堂々と4度の動機が誇り高く奏でていた木管楽器の高らかな音色やホルンの音色も自然でハッキリと聴こえているのだ。遅めの厳格なテンポによって奏でられる展開部もじっくりとマーラーの作品を味わうことのできる演奏だ。途中ハ長調ニ長調となり、有名な4度動機が勇壮に奏でる場面はかなりの爆発性であった。この時点で既にネトピルの世界にのめり込んでいた。ホルンの4度動機と共にトランペットの繊細で伸びやかな音色が響き渡っていて非常に素晴らしかった
 そして、再現部。第4楽章第2主題→第1楽章第1主題と再現する。この第4楽章第2主題の再現は弦楽器は非常に美しく再び大きな弧を描くようなスケールの大きさであった。第1楽章第1主題の再現をすることから、振り出しに戻ったようなものであるがいつも第4楽章のフィナーレが近づいていると考えるとワクワクする。そしてじわじわとくるフィナーレへの道。
 コーダ爆発的なシンバルと共に打ちなされる堂々たるの幕開けであるすべての楽器が鳴り響く圧倒的なフィナーレ、木管楽器、特にピッコロが負けじと美しいトリルを響かせていた。華やかなトランペットが非常に素晴らしい音色を響かせていた。やはり何といっても、ホルンの起立であろう。8本の読響ホルンの音色が響き渡るととも、何とホルンの補強のためにトランペットとトロンボーンが1本ずつ追加されていた。あまりにも豪華すぎる金管パート。圧倒的なフィナーレを形成している時、私は完全にネトピルの世界に入り込んおり、ネトピルのパワーに完全にノックアウト状態であった。そして、最高潮のフィナーレを形成し力強く締め括った。
 指揮棒が下される前に拍手が湧き上がった。聴衆も非常に熱狂的だったことに違いない。もしコロナ禍でなければブラボーの嵐であったことに間違いない。

総括

 大変素晴らしかった!!!迫力ある読響サウンドによるマーラー交響曲第1番「巨人」ですから、非常にダイナミックな演奏になることを期待してた。しかし、ここまで充実した演奏になるとは期待を遥かに超えた演奏であった。そして、冒頭でも述べたように、プログラム前半の作品が後半の原曲となっている面白い構成であった。
 何よりも、「近い将来、楽壇を担うであろう」というワードが完全に惹きつけられた。トマーシュ・ネトピルこの名前はしっかり覚えておこう。何よりも、演奏が始まった時に一気にネトピルの世界に引き込まれ、交響曲第1番第4楽章が終わって拍手が鳴り響いた時に我に帰ったような気がした。これほど熱中してシテ聴いていたのも久しぶりであろう。
 行ってよかった。

前回のコンサート

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