introduction
概要
今日という日をどれほど待ち侘びていたことか。
そう、あの世界的に注目を浴びている天才指揮者クラウス・マケラのコンサートである。それも、手兵オスロ・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演である。
公演チラシにもあるが辻井伸行さんのピアノが組み込まれているプログラムもあるが、苦渋の決断により、シベリウスの交響曲を選択した。もっとも、チケット販売時はサイトになかなか繋がらず、あっという間に格安席が完売となった。クラシック音楽でもそのようなことが起こるのだと震撼した記憶がある。それほどクラウス・マケラは評判と期待が高いのだろう。
そして、なぜシベリウスのプログラムを選択したのか。その理由は、クラウス・マケラがフィンランド🇫🇮出身であり、ジャン・シベリウスと同じ出身国なのである。私自身、作曲家の作品と指揮者やオーケストラはそれぞれ同国の演奏を聴きたいというポリシーがある。もっとも、オスロ・フィルはノルウェー🇳🇴のオーケストラであるが同じ北欧系であるから興味がある。
そして、何よりも私自身が司法試験を終えて初めてのコンサートとなる。チケット販売が5月ごろであり、司法試験に向けて頑張った自分へのご褒美としてこのコンサートのチケットを購入したのである。この日のために数あるコンサートを我慢し続けたと言っても過言ではない。
久しぶりの海外オーケストラ、そして天才指揮者クラウス・マケラによるシベリウス、それを生で実感する時がようやくきたのだ!
クラウス・マケラという指揮者
さて、クラシック音楽ファンの方なら特に説明するまでもなかろう。しかし、この天才指揮者クラウス・マケラがどれほど凄いのかその経歴を簡潔に紹介しよう。
クラウス・マケラは、上記の通り2020年からオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めている。歴代の音楽監督には、ヘルベルト・ブロムシュテット、マリス・ヤンソンス、アンドレ・プレヴィンらがいる。
さらにそれだけではない。2021年より名門パリ管弦楽団の首席指揮者を務めている。歴代首席指揮者には、シャルル・ミュンシュ (1967年 - 1968年)、ヘルベルト・フォン・カラヤン (1969年 - 1971年) 、ゲオルク・ショルティ (1972年 - 1975年)、ダニエル・バレンボイム (1975年 - 1989年)、セミヨン・ビシュコフ (1989年 - 1998年)、クリストフ・フォン・ドホナーニ(1998年 - 2000年) 、クリストフ・エッシェンバッハ (2000年 - 2008年)、パーヴォ・ヤルヴィ(2010年 - 2016年)、ダニエル・ハーディング(2016年 - 2019年)と錚々たる指揮者が名を連ねている。この時点で、クラウス・マケラは世界的指揮者として認められているのである。
さらに、米ニューヨークタイムスにより、2027年から世界三大オーケストラの一つであるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者に就任することが発表された。
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それも、私より二つ年上の27歳という若さである。その若さで、世界名門オケの首席指揮者を務めているのであるから実力は申し分なかろう。
端正な顔立ちから生み出される表情豊かな演奏は心の底から音楽というものを愛してやまないのだろう。
本日のプログラム
シベリウス:交響曲第2番ニ長調
第1楽章:Allegretto
髪をオールバックにして登壇したクラウス・マケラ。オールバックの姿からセルジュ・チェリビダッケの風格が感じられた。
冒頭の提示部第1主題から別格だった。弦楽器の音色と木管楽器の音色が輝いていた。眩しいくらいだった。クラウス・マケラの音楽を堪能する時間の始まりである。それにしても、驚くほど弦楽器がよく鳴るのである。美しいだけでなくものすごい勢いのある音色に圧倒されるのだ。北欧の雪景色が広がるようなシベリウスの作品において、眩しいほどの美しい音色には本当に驚いた。強く印象に残っている。木管の第2主題も美しいものだった。
展開部。随所に荒々しい部分がある。第2主題に基づくクライマックスは相当の迫力であり、血の底から湧き上がるような音楽には圧倒された。何かが切れてしまいそうなほどの迫力は凄まじいものだ。しかし、これはまだ序の口に過ぎなかった。再現部前の強烈な金管楽器のファンファーレはギュンター・ヴァントのような汚さがあった。しかし、その音色はひどいものではなく、より一層迫力さを増したのだ。
再現部。再び美しく幻想的な第1主題が戻ってきた。しかし、再現部は短く第2主題の再現も短かった。この時のマケラはオールバックはすでに解けていた。
短いコーダを経て第1楽章を閉じた。
第2楽章:Tempo andante, ma rubato
休む間もなく、アタッカで第2楽章へ。
陰鬱な雰囲気の部分であるが冒頭のティンパニの迫力ある音色によって第2楽章の始まりを告げる。静寂の中ピツィカートの音色が響くが聴衆のものすごい深い集中力に包まれる中の音色は独特のものがった。ファゴットの重厚な音色による第1主題は一気に注目を浴びるような存在感だった。オスロ・フィルは木管楽器の音色も素晴らしいものであった。弦楽器のトゥッティも重厚な音色に圧倒された。特に金管楽器が加わると、上記のようなギュンター・ヴァントのような厳しい音色によってものすごいエネルギーが伝わってきた。
第2主題は一気に安らかな雰囲気となり、マケラとオスロ・フィルの音楽を十分に堪能する時だ。しかし、チェロといった低弦楽器が旋律を奏でる箇所はものすごい加速であり、あっという間に過ぎ去ってしまった。時には強い推進力を魅せるのだ。
第3楽章:Vivacissimo
第2楽章と第3楽章の間は流石に間を空けた。
しかし、十分生を空けずに第3楽章の荒々しい主題を奏でられた。やはり弦楽器の音色が素晴らしく、全体を通してものすごい存在感を示していた。クラウス・マケラの指揮にオスロ・フィルが全力で応える音楽には見ていて感動を超える何かがった。
オーボエの主題が鳴ると一気に落ち着いた雰囲気に変わる。荒々しい場面はどこへやら。第1楽章のような幻想的な場面に戻ったような感じだ。その時のオーボエの音色は美しく、どこか寂しげな雰囲気を醸し出していた。そして、同様の場面を繰り返しコーダへ。
この時のコーダは凄まじいものがあり、テンポを自在に操って第4楽章へなかなか突入させなかった演奏は流石にずるいものだ。思う存分焦らしてくれた。
第4楽章:Finale: Allegro moderato
アタッカで第4楽章へ。提示部。第1主題の弦楽器の音色が素晴らしいことはもちろんだが、1オクターブ上げられた時の第1主題は本当に素晴らしかった。あたり一面の銀世界が広がる音色にも関わらず、燃え盛るような熱気を帯びた第1主題は本当に素晴らしいものだった。蠢く低弦楽器に乗せられて幻想的な第2主題を木管楽器の音色によって奏でられる。この第2主題がコーダになると恐ろしいほどの変化を見せた。そして小さいコーダとなるが、あたり一面の雪景色を月光によって照らされた銀世界が見えた。大コーダではどのような世界が広がるのか、期待が膨らんだ。
展開部。第1主題と第2主題を混在させた部分である。第3楽章のような荒々しさがあり、若干汚らしい金管楽器の音色がやはり冴える。そして再現部へ移行する途中の盛り上がりはクラウス・マケラの圧倒的パワーによって凄まじい迫力だった。
熱気を帯びたまま再現部へ。やはり第1主題が素晴らしすぎる。こんなに美しくて迫力のある弦楽器は初めて聴いた。やはり、クラウス・マケラは天才指揮者なんだな…。弦楽器で一気に押すんだもの。そして、私は再現部第2主題が一番好きなのである。蠢く低弦楽器にフルートが加わり、その中で弦楽器が第2主題を奏でるのである。しかも、それが徐々に盛り上がりを見せ、あたり一面銀世界で美しかったはずが強風に煽られ吹雪の中、勇ましい第2主題が演奏される。しかも、クラウス・マケラのものすごい熱量によって演奏され、ヴァントのような厳しい金管楽器によって奏でられるものだから言葉には言い表せないほどの厳しさと充実差がそこにはあった。
コーダ。吹雪は一気に収まり、再び幻想的な銀世界へ変わった。しかも、より一層壮大に演奏されており、圧倒的なフィナーレを形成する。さらに、厳しい金管楽器の音色によって奏でられる第1主題の讃歌は実に壮大だった。
最後は指揮者の指揮棒が下されるまでフラ拍やフラブラは一切なく、最後の最後まで凄まじい集中力だった。指揮棒が下された時、嵐のような拍手が巻き起こった。
シベリウス:交響曲第5番ニ長調
第1楽章:Tempo Molto Moderato
長大な第1楽章が始まった。
牧歌的なホルンの音色と木管楽器の美しい音色が幻想的な朝を感じさせた。交響曲第2番での美しい木管楽器の音色は交響曲第5番でも引き継がれていた。静寂な雰囲気が続くなか、冒頭から凄まじい集中力だった。そして第2主題も美しい木管楽器によって奏でられた。しかし、第2主題が途切れた後の小結尾の盛り上がりはやはりすごいもので地の底から湧き上がるような音に圧倒され、厳しい金管楽器の音色の後の弦楽器の旋律は熱気を帯びていた。しかし、落ち着いた後に穏やかな提示部が反復されるのだが、マケラの穏やかで丁寧な音楽作りはやはり素晴らしいものであった。
展開部。若干不穏な雰囲気へ変わる。蠢く弦楽器の不安さに怯えると共に不穏な雰囲気を醸し出す木管楽器の音色が印象的だった。特に絶筆すべき箇所はスケルツォ主題に入る前の箇所である。マケラが両腕をゆっくりと上げるとともに地の底から湧き上がる強大な音色とパワーには圧倒された!なんだこのエネルギーは!?。
スケルツォに入ると穏やか雰囲気へ一変。尤もコーダに進むにつれて徐々に加速しながら盛り上がっていく。マケラが髪を振り乱しながら強い推進力と共に構築する圧倒的フィナーレは厳しいトランペットの音色が非常に勇ましい格好良いフィナーレを構築した。
圧倒的な第1楽章だった。
第2楽章:Andante Mosso, Quasi Allegretto
変奏曲。幻想的な木管楽器のハーモニーが素晴らしい。
弦楽器にトゥッティによる変奏部は美しく滑らかな音色が響いた。様々な楽器が形を変えて主題を奏でていく。マケラは巧みなテンポによってメリハリをつけながら様々な場面へと移行していく。途中ホルンが登場する箇所はかなりの速さで突き進んだ。
マケラは本当に楽しそうに指揮をしていた。指揮をすることが非常に楽しいのだろう。
第3楽章:Allegro Molto
いよいよ最終楽章。少し遅めのテンポで第1主題を奏でており、少し慎重さが見られたがこれもマケラの音楽なのだろう。ホルンが二分音符からなる響きが雄大に奏でられると、再びマケラ独特のスケールの大きい音楽が展開されていた。この時の木管楽器の第2主題の高らかで輝かしい音色は非常に美しく、感動した。さらに、私はステージ正面で右端に座って聴いており、コントラバスが「バチバチン!」と叩きつけながら演奏している箇所は目が釘付けになった。このようなテクニカルな部分をしっかり見ることができるのもコンサートならではの楽しみだ。
後半に移ると第2主題がメインとなる。冒頭の第2主題とは雰囲気が異なり、テンポもゆったりとして幻想的な場面に変わる。やがてトランペットも二分音符からなる響きが奏でられるといよいよフィナーレも近い。やはり、マケラは天才だ。ただ楽器を鳴らすだけではなく、どこから湧き上がるのかわからないほどのエネルギッシュな強大な音楽を作り上げていたのだ。
そして、最後の6つの和音は凄まじい集中力であり、一音一音確かな和音を6発打ち鳴らした。
Encore:レンミンカイネン組曲:第4曲:レンミンカイネンの帰郷
交響曲第2番や交響曲第5番とは全く違う雰囲気の作品。
映画音楽のような要素があるのでは無いかと思い、ジョン・ウィリアムズのような世界観に引き込まれた。第2番や第5番には用いられていないタンバリンといった打楽器が用いられており、非常に勇ましい雰囲気となっている。
特に中間部においてピッコロとホルンが主題を奏でる箇所は非常に格好良い。低音で勇ましいホルンと高らかに鳴り響くピッコロの相性がこんなに良いとは…。
最後の厳しい金管楽器のハーモニーによる圧倒的なフィナーレは圧巻の演奏だった。
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総括
やはりクラウス・マケラは凄かった!!
やっとの思い出チケットを取った。そして、司法試験を終えて初のコンサートとなった。そして8月下旬に運よく仕事先が見つかり、脱ニートとなったわけで色々と自分への大きなご褒美となった。
クラウス・マケラが登壇した際はオールバックできっちりと髪型が整えられていたが、マケラは自ら思いっきり指揮を楽しんでいるように指揮をするため髪が乱れ狂う。その姿はまさにセルジュ・チェリビダッケの姿と重なった。尤も、マケラはスマートな体質であり羨ましい青少年だった。とても私より2つ上には見えない。
天才指揮者クラウス・マケラの音楽はエネルギッシュであり、聴衆もその熱気に有無を言わさず巻き込む。音楽界のみならず、ホール内の聴衆もマケラの巻き起こす旋風に巻き込む。
そして随所に記述したが、金管楽器の音色が非常に厳しい音色だった。ギュンター・ヴァントのような厳しさがあり、通常のピストン・トランペットも用いていたということもあったが迫力ある音色が響き渡り、より強大な音楽を作り上げていた。
見ていても素晴らしい指揮者であった。そして、音楽の内容も非常に素晴らしいものだった。
間違いないく、私にとって強く記憶に残るコンサートとなった。