鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【都響】第962回定期演奏会Bシリーズ in サントリーホール

introduction

 今回は、都響】第962回定期演奏会Bシリーズ。そして、なんとも実に興味深いプログラムである。それは、後に取っておくとして、最初に前半のウェーベルン*1管弦楽のための6つの小品(1928年版)」について簡単に考察する。
 このアントン・ウェーベルンは、アルノルト・シェーンベルクに作曲を師事する。すなわち、十二音技法のパイオニアであるアルノルト・シェーンベルクのでしに該当することになる。さらに、アルノルト・シェーンベルク、アントン・ウェーベルンアルバン・ベルクの3人は、新ウィーン楽派の中核メンバーとなる。
 そして、ウェーベルン管弦楽のための6つの小品(1928年版)」は、1909年に完成し、4管編成の大管弦楽のために書かれたが、1928年にオーケストレーションと速度標語を変更した2管編成版が作られた。今回は、1928年版ということなので2管編成で演奏されることになる。個人的には大編成の方が好みなので、4管編成で聴いてみたい気もするがどうなるだろうか。
ちなみに、4管編成で演奏されているものとして、クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏がある。
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 一方後半は大目玉だろう。ブルックナー交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』(ノヴァーク版・1874年第1稿)」である。「第1稿」という極めて貴重な作品を実際に聴けるという唯一無二の体験をすることができるのだ。この上ない楽しみであろう。そして、指揮者はブルックナーを得意とするエリアフ・インバル。2019年3月17日にインバルの指揮でブルックナー交響曲第8番(それも第2稿)を聴いたのだが、この時の充実度は異様なものだった。


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 再びあの充実度を体感できるのだろうか。非常に印象に残る一日となりそうだ。なお、インバルは、hr交響楽団(旧:フランクフルト放送交響楽団ブルックナー交響曲第4番を演奏しているが、この時は「第2稿」で演奏されていた。さらに、都響との演奏で、「第2稿」の録音がある。

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 なお、同交響楽団の演奏で、ブルックナー交響曲第4番の「第1稿」を聴くことができる。 そして、東京都交響楽団公式チャンネルにおいて、エリアフ・インバルが語る ブルックナーウェーベルンという題目で本プラグラムについての解説を行なっている。

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本日のプログラム

ウェーベルン管弦楽のための6つの小品(1928年版)

第1曲:Etwas Bewegt

 フルートの音色によって始まるのだが雰囲気は暗く、弱音器をつけたトランペットがより一層不気味さと暗さを際立たせた。この時のインバルの指揮は、非常に切れ味が鋭くとても86歳には見えない指揮をしていた。約1分しかないのであっという間に第2曲へ。

第2曲:Bewegt

 いかにも新ウィーン楽派というべき音楽。さまざまな楽器が入り組み、強烈な金管楽器の強弱。都響は各々の楽器の音色をしっかり響かせており、複雑怪奇な作品であるが都響オーケストレーションの凄さをあらめて実感した。

第3曲:Zart Bewegt

 各弦楽器のソロパートの章。約1分弱しかないのであっという間に終わってしまった。

第4曲:Langsam

 本曲で一番長い部分。しかし、非常に小さい音量なので何か物音を立ててはならない。座り直すことも禁じられているようなほどの静寂感に包まれた。正直息が詰まる。しかし、少しずつ鐘の音が聴こえて徐々に音量が上がっていく。第4曲の後半になるとドラムロールが聴こえ始め、頂点部に達すればものすごい音量に圧倒された。2管編成でも凄まじいのに4管編成だったらどうなってたことやら。

第5曲:Sehr Langsam

 弦楽器のトレモロがより一層不気味さと暗さを示す。木管楽器のもの寂しげで繊細な音色が印象的だった。

第6曲:Zart Bewegt

 オーボエの音色が響き渡る。しかし、この第6曲も非常に小音な部分が多く気が付けば終わっていた。
 個人的な感覚であるが、第4曲〜第6曲までアタッカで演奏されていたような気がした。シェーンベルクベルクはある程度理解できるが、ウェーベルンはまだ難しい…。

ブルックナー交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』(ノヴァーク版・1874年第1稿)

第1楽章:Bewegt, Nicht Zu Schell

 冒頭部分。弦楽器のトレモロが鳴り響き、やはり幻想的な雰囲気で幕を開けた。途中、チェロやコントラバスが小刻みにアクセントをつけて演奏されていた。インバル独自の解釈だろう。何よりも、都響ホルン首席奏者の西條貴人氏のホルンが非常に美しく雄大な音色を響かせ、これが大変素晴らしかった。この時点で、これは名演になると確信した。そして、提示部。第1主題は唸る弦楽器が鳴り響き、後から荘厳な金管楽器のコラールが鳴り響いており壮大な音楽が響き渡った。座席の関係か、金管楽器が抑えめに聴こえてきたが、むしろ誇張せずに荘厳さをもたらしていた。第2主題は、テンポは多少早めであり、流れるように穏やかに演奏されていた。第3主題は、豪快な場面であるが弦楽器の音色がやはり唸りを挙げていた。とてつもない唸り具合だった。裏で金管楽器が壮大で柔らかい音色を響かせていた点はまさにパイプオルガンのような立体さを感じた展開部では、再び冒頭部分を解雇するかのような緊張感と美しさだった。それにしても、この日の都響は弦楽器が非常に繊細ながらも素晴らしい音色を奏でていた。その後、ブルックナー・リズムも非常に複雑な対位法となるが、インバルの気合いの入った指揮によって生み出される音楽は非常に力強く、86歳という年齢を感じさせないものがあった。一旦収まり、再び勇ましい場面が登場する。力強い低弦楽器と主に美しい木管楽器にひしひしとトレモロがかかった弦楽器が徐々に熱気を帯びていく。第1稿で欠かせない一つの注目する場面であろう。再現部であるが、弦楽器の美しい上下の動機とともにホルンが再び第1主題を奏でるのだが、これは鳥肌だった。あまりにも美しすぎる!格好良すぎる!。次第に楽器が増えていき、銀河系のような美しく光る星々が集まった様子が想像できた。その後の全合奏も壮大な音色とともに弦楽器が唸る唸る。再現部第2主題は、軽快な音色と主に明るく美しい弦楽器の音色によって奏でられていた。再現部第3主題は、金管楽器が荘厳な音色を響かせていたが、それよりも弦楽器のトレモロが勝った。凄まじい熱気を帯びていたのだコーダも弦楽器が唸りをあげるような熱気を帯びつつ、金管楽器が荘厳の雰囲気を醸し出していた。
 第1楽章が終わった時点でものすごい衝撃を受けた。

第2楽章: Andante Quasi Allegretto

 プログラム・ノートと同様に「A-B-A1-B1-A2」で感想を述べる。
 Aでは早速チェロが甘美な音色を響かせつつ力強さがあった。その後、ヴァイオリンに移行するのだが、そのヴァイオリンの音色も芯がありつつも美しく繊細な音色を響かせていた。第2楽章では弦楽器と木管楽器が主役となるのだが、木管楽器の音色も美しく、クラリネットも甘美な音色を響かせていた。その後、Bに入るのだが、ホルン首席奏者の西條貴人氏のホルンのソロ・パートが非常に素晴らしかった!その後に追いかけるように奏でるチェロも力強さがある低音を響かせていた。その後盛り上がるのだが、チェロの勇ましい低音によって始まる。この場面も勇ましくて格好良かった。A1は楽器が多少加わり、木管楽器も加わって複雑さもありながら美しい音楽が広がる。多少変形されたヴァイオリンの主題や木管楽器が主部を見頃に彩ったB1ではかなり変形されている。ヴィオラによる主部の変形も非常に美しく厚みのある音色を響かせており、非常に素晴らしかった。第2楽章の中でも注目してほしい一場面である。A2が非常に素晴らしかった。まるで交響曲第7番第2楽章第177小節目へ向かうような美しさと金管楽器の荘厳な響きがホール中に響き渡り、頂点部に達すると金管楽器の壮大なコラールが響き渡り、とてつもない壮大さに銀河や宇宙が存在していた。ここまで壮大に演奏できるのか…。
 その後、嵐が去ったかのようにそのまま静かになり、第2楽章閉じた。あの頂点部に圧倒されたまま。

第3楽章:Scherzo & Trio

 ホルンの断片的なファンファーレによって幕を開ける。ホルン首席奏者の西條貴人氏のホルンであったが、第3楽章のファンファーレも素晴らしかった。荒々しい金管楽器が鳴り響くのだが、抑えめに聴こえてきたため、非常に荘厳な響きでパイプオルガンのような立体さを感じた。それにしても、格好良かったな。典型的な複合的三分形式であるから主部の中でも(A-B-A)となるのだが、Bの部分も弦楽器の激しい動きの音色も熱気を帯びており、木管楽器の美しい音色も響き渡っていた。やはり、第1稿の第3楽章の方が格好良い。トリオは、木管楽器の甘美で繊細な音色に加えて、重厚な弦楽器の音色を響かせていた。改めて、都響の弦楽器の素晴らしさに感動した。
 そして、再びAを繰り返す。やっぱりこの第3楽章は第2稿よりも格好良い。

第4楽章:Finale: Bewegt, Doch Nicht Zu Schnell

 快速的テンポでオーボエとホルンが第1楽章第1主題を奏でる。やはりホルンの音色が非常に素晴らしく、絶好調であった提示部第1主題はトゥッティで演奏するのであるが、圧倒的な音圧と緊張感で既に鳥肌もの。給付を挟む第1主題は一気に緊張感が増すのである。金管楽器は抑えめであるせいか非常に教会的な音色が響き渡っていた。第2主題は、快速的テンポでどんどん進んでいく。小刻みなピッツィカートとともに軽快に第2主題をヴァイオリンと木管楽器が奏でられれいた。これに慣れてしまうと、第2稿には戻れない(笑)。その後の、半音階の第3主題も第1主題と同様に凄まじい音圧と緊張感に包まれた。が非常に印象的である。その後のトゥッティによる半音階の上下は非常に強烈な音圧である(これが第3主題か?)。展開部に入ると、冒頭の雰囲気に戻ってくる。そして、あのジグザグした下降音階や、やや変形されいた第2主題が木管楽器と弦楽器によって繰り返される。聴いていてやはり面白い。次第に盛り上がって頂点に達したところで再現部に入る。やはりトゥッティで奏でられ、かつ休符を挟んだ第1主題は緊張感が爆上がりするし、荘厳さも際立つ都響の柔らかくて壮大な金管楽器の音色は非常に素晴らしかった。そして、第2主題・第3主題と提示部内容を繰り返す。第2主題の名残が終わった後、コーダに入る。快速的テンポで強烈な第1主題が断片的に繰り返されるのだが、唸りをあげる弦楽器とともに荘厳な金管楽器の音色が恐ろしいほどブルックナー特有の荘厳さを際立たせる。さらに、ティンパニが加わると言葉には言い表せないほどの熱狂さと音圧に圧倒される。勇ましいテンポが非常に格好良い。そのまま熱狂的な音楽を保ちつつ、圧倒的なフィナーレを形成して力強く締め括った!
 その時、私の全身に何か衝撃的なものが走った。

総括

 前半のウェーベルン管弦楽のための6つの小品(1928年版)は正直難曲。終始暗く静かな場面が多いので感想書くにも書きにくい(笑)。私自身、大編成な曲を好むのでシェーンベルクの方が得意なのだが、ウェーベルンはミニチュアな作品が多い作曲家だから肌が合わなかったのであろうか。もっとも、「新ウィーン楽派」については深く知っておきたい興味深い分野であるので嫌いなわけでもない。今後の一つのテーマとなろうか。
 後半のブルックナー交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』(ノヴァーク版・1874年第1稿)。これは強烈だった!素晴らしかった!!圧倒的だった!!!この日のために色々と頑張ってきたと言っても過言ではない。実際、今日という日が来るまでどれだけ待ち侘びていたことか、さらにコンサート前はここまでワクワクしたのも久しぶりの感覚だった。演奏中、ブルックナー特有の圧倒的なハーモニーが随所にあるのだが、何度もその場面の後、数秒後に身体中に何か衝撃的なものが来たり、感動のあまり鳥肌が立つことも何度もあった。聴衆の方々も非常に集中力が高く、物音等はほぼなかった。充実したコンサートとはこのようなことをいうのだろうか。
 ブルックナー交響曲の初稿についての世界的パイオニアであるエリアフ・インバル彼の指揮で交響曲第4番の初稿を生で聴けたことは今後の人生で二度とないだろう。本当に良いコンサートだった。そして、絶対に忘れられない体験をした
 インバルも86歳。もう決して若くはないのに堂々たる指揮を見るととても86歳には見えない。86歳のお爺さんに扮した40歳〜50歳くらいの熱血指揮者が指揮をしているかのようだった。そして、ステージに向かって挨拶した際の笑顔も非常に素晴らしいものだった


 トレモロが多いから弦楽器の演奏者の皆さんお疲れ様でした!

前回のコンサート

law-symphoniker.hatenablog.com

*1:「アントン・ヴェーベルン 」と表記されることもある