鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【都響】都響スペシャル「第九」in サントリーホール

introduction

 今回は、都響都響スペシャ「第九」である。演目は下記の通り、ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」今年最後のコンサートでもある。久しぶりの東京都交響楽団による「第九」は実に2019年のレオシュ・スワロフスキー以来の「第九」である。
 今年は、東京都交響楽団桂冠指揮者エリアフ・インバル都響】第962回定期演奏会Bシリーズでは、非常に素晴らしいブルックナー交響曲第4番変ホ長調(1874年・ノヴァーク版)を演奏された。
 エリアフ・インバルは、グスタフ・マーラーアントン・ブルックナーの大家として世界的に有名であり、特にグスタフ・マーラー東京都交響楽団で2回のチルクスを達成しており、来年度は3回目のマーラー・チルクスを行おうとしているのである。86歳という高齢にも関わらず非常に精力的に音楽に取り組む姿勢は末恐ろしいものである。そのような中、インバルがベートーヴェンの作品を扱う。どのような音楽になるのか全く見当がつかない。

本日のプログラム

ベートーヴェン交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」

第1楽章:Allegro Ma Non Troppo, Un Poco Maestoso

冒頭、緊迫感のある雰囲気が漂う。そして、期待通りのインバルらしい重厚感のある迫力ある第1主題が奏でられた。やはり第1主題はこうでなくてはならない。ベートーヴェンの荘厳らしさが十分に発揮され、今後の音楽を大きく影響する。それにしても、弦楽器の音色が今回も素晴らしい響きをしていた。さらに、木管楽器を倍管(FlとCl)にしている影響か、あまり固くならずになっていた。第2主題は、穏やかな場面に移り変わる。この時、倍管による木管楽器が非常にまろやかな音色を奏でられており、素晴らしい大曲が磨き上げられたようだった。適度なアコーギクとインバルの熱気のこもったキレのある指揮が鋭さと荘厳さを醸し出す提示部だった。
 展開部に入ると、提示部第1主題の緊迫感が戻る。ここでも提示部同様の重厚さが発揮された。後のコントラバスとチェロの低弦楽器から始まる展開部の注目のポイントではしっかりとした重厚感ある音色を響かせ、その後の雄大なホルンの合いの手が見事な音色であり、荘厳なフーガを構築させていた。インバルの力強い指揮、たまらない。
 再現部においては、迫力十分の第1主題が再び戻ってくる。今回は、パワフルで圧倒的な第1主題を体感できた。恐るべしインバルの熱気がホール中に響き渡った。その後の第2主題では若干第1主題の熱気が残りつつも、雰囲気を変えて美しい木管楽器の音色が響き渡っていた。
 コーダでは再び緊迫感ある音楽が戻り、途中ホルンが雄叫びを上げるように吠えたのがとても印象的だった。2階席で聴いていたのだが、1階席で聴いていたらどれほどの音圧が体感し得たのだろう。

第2楽章:Molto Vivace

 迫力ある幕開け。テンポは標準的であり、あらゆる楽器が明るくキレのある音色を奏でられていた。インバルは繰り返す箇所を一切省略。そして、主部では首席ティンパニ奏者の久一忠之先生の熱き演奏が聴衆を惹きつけた。
 トリオあまり急がないテンポでオーボエが柔らかく美しい音色を奏でられていた。やはり、木管楽器を増強させているせいか、穏やかなトリオがより一層円やかさを醸し出していた。弦楽器に変わると徐々に込み上げてくる重厚さが素晴らしかった。インバルも楽しそうであった。
 第2楽章終了と、インバルは一旦舞台袖へ。その間に二期会合唱団とソリストが登場。毎度のことながら、どこで合唱団を登場させるか悩ましい部分があるのだろう。

第3楽章:Adagio Molto E Cantabile

 舞台整ったところで第3楽章の始まり。
 冒頭、ゆったりとしたテンポでファゴット木管楽器の音色によって第3楽章の幕を開けた。主題部に入ると、甘美な音色を響かせながら弦楽器が第1主題を奏でた木管楽器の厚みを活かした甘美で美しい音色もまた素晴らしい響きだった。第2主題に入るとより一層美しさが際立ち、チェロ等の重厚さがありながらも甘美な音色が非常に印象的だった。この第3楽章は非常に素晴らしいものである。激動の第1楽章を終え、第2楽章で楽しげに過ごした後に全てをクールダウンさせるかのような部分であるから、第4楽章に備えて落ち着かせることができるのである。そして、毎度のことながら、この第3楽章はいつも時が経つのを忘れる。
 そして、ホルンのソロ・パートの後、流れる弦楽器の第1主題変奏が登場する。
 第3変奏において、8分の12拍子による流れるような弦楽器が一直線のように進められいた。透き通るような弦楽器と甘美で厚みのある木管楽器のハーモニー、心地よいピッツィカート、そして適度なアコーギク。いや、本当に素晴らしいの一言。
 その後、金管楽器が伴うファンファーレはあまりうるさくならずに、ハリのあるトランペットの音色が響き渡った。豪快なインバルだが、非常に繊細な音楽作りであった。

第4楽章:Presto, "O Freunde, Nicht Diese Tone!", Allegro Assai

Presto。第3楽章の後、アタッカで幕を開けた。第4楽章の幕開けに相応しい堂々たる音色であったその後のチェロとコントラバスによるレチタティーヴォは本当に素晴らしかった!図太い重厚感ある音色に押し倒されるかのようであり、物凄い存在感を示した。そして、第1楽章〜第3楽章を回想する。
Allegro assaiレチタティーヴォの後、少し間をあけてコントラバスとチェロによって超有名な主題が奏でられた。少しだけ快速的なテンポで流れるように演奏されており、改めてベートーヴェンの素晴らしさを体感した。やがて、都響ファゴットが甘美な音色を響かせる箇所に代わるが誇張しすぎず、ヴィオラの音色と見事調和された美しい響きを堪能した。そして、金管楽器が登場するのだが木管楽器の倍管によって円やかで包み込むような音楽に感動した
Presto; Recitativo "O Freunde, nicht diese Töne!"; Allegro assai。いよいよ合唱の登場である。バス歌手(妻屋秀和先生)のソロ・パートに合わせて登場し、いよ合唱が伴う。何よりも、妻屋先生の声量がとてつもないものであり、まるでオペラを見てるかのような仕草にもう目が釘付けとなった。合唱は先日の新国立劇場合唱団には多少劣るものの、オーケストラと調和された合唱が非常に印象的だった。各々のソロ・パート→合唱と交互に演奏されるのだがやはりいつ聴いても良いものだ。毎年のように聴いているのに毎年感動するのはなぜだろう。
Allegro assai vivace (alla marcia)。6/8拍子だけども行進曲的な場面へ移る。図太いコントラファゴット音色が響く。軽快なテンポで可愛らしいピッコロが響いてきた。それにしても、木管楽器を倍管にしている関係でフルートや木管楽器の高音の存在感が非常に大きかった。その後の緻密なオーケストレーション都響の素晴らしいオーケストレーションとインバルの熱気の相乗効果によって張り詰めるようなパワーがあった。その後に控える壮大な合唱に向けて備えるのである。そして、超有名な合唱部分では標準的なテンポながらも二期会合唱団の超絶素晴らしい合唱が華々しく歌い上げられていた。インバルの壮大な音楽作りも十二分に発揮されており、堂々たる合唱に圧倒された
Andante maestoso。壮麗なトロンボーンの音色と迫力ある男声合唱が印象的。その後、ソプラノが加わると教会にいるかのような壮大さであり、あまりの美しさ度壮大に瞳が潤んだ。第九は何度も聴いているので聴き慣れているはずであるが、ここまで感動したのは初めてかもしれない。
Allegro energico e sempre ben marcato。ここも素晴らしかった。やはり女性合唱のどこまでも響きそうな素晴らしい声量が印象的。インバルの熱量に都響が応える!!もう素晴らしいことではないか。その圧倒的な音楽に全てが酔いしれており、ここでも瞳が潤んだ。一通り終わって静寂になった途端、先ほどの素晴らしい音楽を体感したことを再認識したのか鳥肌が立ちまくりだった。
Allegro ma non tanto男声合唱と女声合唱が交互に歌う。これが聴こえるともう終わってしまうのか、といつも思う。前二つの合唱とオーケストラがあまりにも凄かったので余韻に浸っていたところ、もう終盤に差し掛かっていたのだ
 ここでもインバルは熱量を抑えることなく、このまま突っ切るつもりだ。
Presto; Prestissimo。いよいよ最終版となる。先日の読響とは異なり、随所に打楽器によるアクセントが加わっていた。やはりアクセントがなければフィナーレに勢いがつかない。テンポもそこそこの速さであったが、なんといっても大迫力であった。
 そして、壮大に合唱した後、バーンスタインを彷彿させるようなかなりの速さのテンポで今までよりも熱量を上げて締め括った。全てが終わった時、この世とは思えないような衝撃が走った

総括

 この最後のコンサート。それに相応しい充実感たっぷりのコンサートとなった。
 先日の都響の時もそうだったが、とても86歳とは思えないような熱量たっぷりの指揮にはもう驚きでしかない。参考程度であるが、カール・ベームが1980年にウィーン・フィルとのベートーヴェン交響曲第9番を残しているが、最晩年のベームだけあってテンポは遅く、枯れかかっている部分も否めない。その時のベームは86歳であった。とても同じ86歳とは思えないある意味バケモノのような指揮者、それがエリアフ・インバルだ。ブルックナーマーラーの世界的な大家で知られているようにその演奏も豪快なもの。そして、来年度からインバルは都響とともに3回目のマーラー・チルクスに挑むという。
 音楽に対して精力的に取り組む姿勢は本当に尊敬に値するヘルベルト・ブロムシュテットともにこれからも元気で多くの人々に感動と音楽を届けてもらいたい。
 なお、今年の妻屋秀和先生は普通に登壇だった。去年の読響の時はソロ・パートギリギリまで引きつけてから、舞台袖からダッシュで登壇というハラハラドキドキを含んだものだった。去年の読響の様子は以下の記事から。
law-symphoniker.hatenablog.com
law-symphoniker.hatenablog.com
 この点、妻屋先生はどのように感じたのかな…。





 今年も、そこそこコンサートに行くことができた。
 それでは良いお年を。

前回のコンサート

law-symphoniker.hatenablog.com