鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【読響】第658回名曲シリーズ in サントリーホール

introduction

 今回は、【読響】第658回名曲シリーズである。演目は下記の通り、ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」年末を感じさせる一つの風物詩といえよう。昨年も読響の演奏を聴きに行った。もはや毎年恒例行事となりつつあろう。今年は「第九」2回聴きに行く予定である。
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 今年は、大人気指揮者である鈴木優人先生の登壇である。音楽の為に生まれてきたのかと思うほど、多彩な方であり、指揮者、作曲家、ピアニスト、チェンバリストオルガニスト、演出家、プロデューサーの活動を行なっている。父は同じく指揮者で鍵盤楽器奏者の鈴木雅明先生。そして、鈴木雅明先生の弟は、チェリスト、指揮者である鈴木秀美先生。まさに音楽の血筋を引いている。
 尤も、鈴木優人先生を生で見るのは今回が初めてではない。記憶が正しければ、現在の音楽監督であるセヴァスティアン・ヴァイグレが就任した最初のコンサート(2019年5月19日)に居られたのだ。その時は驚いた。
 音楽の秀才である鈴木優人先生による「第九」はどのようなアプローチになるのだろうか。豪快な音色を響かせる読売日本交響楽団はどのような音色を響かせるのか、バロック音楽的なアプローチを施すのだろうか。
 それを考えただけで、もう楽しみしでしかない。

本日のプログラム

鈴木優人先生のオルガン演奏

 第九の前に鈴木優人先生によるオルガン独奏があった。曲目は以下の2曲。

 さすがは鈴木優人先生といえよう。ある程度予想はついていたが、ヨハン・セバスティアン・バッハの作品だった。

J.S バッハ:トッカータとフーガ ヘ長調 BWV540

 「たらり〜」という有名なフレーズではない。それは、ニ短調
 トッカータでは、荘厳なパイプオルガンが響きわたり、天国へ導くかのような音階が非常に印象的であった。途中、両足で演奏する箇所があるのだが、その技巧さは後部座席からもしっかりと見ることができた。パイプオルガンが使用された演奏は何度か聴いたことあるが、独奏は初めてだったのでどのように演奏するのか、その疑問に答えられたのは非常によかった。そして、しばらく「F」の保持音が続くのだか頭の中はずっと「F」しかなかった笑
 フーガは荘厳な音色が響き渡った。「いかにもバッハ」という荘厳な響きが非常に印象的だった。
 私の座席は後ろから3列目かつステージほぼ正面であったので、鈴木優人先生がパイプオルガンを弾いている様子がしっかりと見えた。途中足のみで演奏する箇所があるのだが、あれはただただ凄い…

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J.S バッハ:全能の神をたたえん BWV602

 非常に短い作品。あまりバッハについて詳しくないので、この程度の感想を記すことしかできない…申し訳ない…。

ベートーヴェン交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」

第1楽章:Allegro Ma Non Troppo, Un Poco Maestoso

 冒頭、緊迫感のある雰囲気が漂う。そして、大変力強い第1主題が奏でられるのだが、ティンパニの爆発的な音色に驚いた。冒頭部から圧倒的パワーで幕を開けた。しかし、いつも聴いている音と違う…。昨年、ジョン・アクセルロッドの指揮で聴いた時に比べて違和感があった。また、どれだけ知っている曲でもあらかじめ予習をしていくのが私のセオリーでもある。弦楽器の音色が非常に鋭く、シャープな響きをしていた。しかし、この違和感はのちになって解決する。第2主題は、穏やかな場面に移り変わる。この時、木管楽器が非常に清涼な音色を響かせており透き通るような美しい音色を響かせていた。それにしても弦楽器の音色と独特な抑揚に違和感があった。鈴木優人先生…。
 展開部に入ると、提示部第1主題の緊迫感が戻る。テンポもゆったりとせずにサッパリと進められていた。後のコントラバスとチェロの低弦楽器から始まる展開部の注目のポイントでは切れ味がありかつ重厚な音色と共に、ホルンの合いの手の音色が雄大な音色を響かせていた。やっぱり格好良かった。
 再現部においては、再び爆発的なティンパニが打ち鳴らされ唸る低弦楽器のトレモロがしっかり響いてきた。しかし、圧倒的な音圧を体感できるかと思いきやそこまで激しいものではなかった。その後の第2主題は非常に穏やかであり、今まで聴いた中で一番美しく、穏やかな演奏だったニ長調に転調するため、明るさと共に前半のパイプオルガンの余韻が残ってたせいか、非常に神々しく感じた
 コーダでは随所にアクセントが目立つ弦楽器、激しくなっても乱暴にならずに非常に丁寧な音楽で締め括った。

第2楽章:Molto Vivace

 迫力ある幕開け。テンポは標準的であり、すべての楽器がバランスの良いハーモニーが響き渡ってきた。鈴木優人先生は驚くことに、主部の部分の繰り返す箇所は全て繰り返した。私の好きなトリオが遠い遠い(笑)。
 トリオ。待ってました私の好きなトリオ。快速的テンポで流れるような弦楽器が非常に美しく、途中のホルンは面白いことに強→弱→強という抑揚がつけられていた。もちろん、音色も非常に素晴らしかった。穏やかな場面において、鈴木優人先生の指揮は非常に穏やかで美しい演奏ばかりだ。あまりの美しさに鳥肌がたった。

第3楽章:Adagio Molto E Cantabile

 冒頭、かなり早いテンポで木管楽器によって幕を開ける。なぜ美しい第3楽章なのにテンポを早める必要があるのか…。主題部に入ると、シャープで美しい弦楽器が第1主題を奏でた。それに加えて、木管楽器の甘美で美しい音色もまた素晴らしい響きだった。第2主題に入るとより一層美しさが際立ち、あらゆる楽器が輝かしい音色であった。洗練し尽くされた音色による第2主題はこの世のとは思えないような非常に美しい音色、世界に引き込まれたようである
 そして、ホルンのソロ・パートの後、流れる弦楽器の第1主題変奏が登場する。
 第3変奏において、8分の12拍子による流れるような弦楽器がシャープで美しい音色を響かせ、それに伴ってこれまた美しい音色を奏でる木管楽器が合わさり、相乗効果によって非常に美しい第3変奏が奏でられた。しかし、これ目を瞑ると気がついたら寝ている(笑)
 最後まで一直線に…。

第4楽章:Presto, "O Freunde, Nicht Diese Tone!", Allegro Assai

Presto。第3楽章の後、アタッカではなく間をおいて幕を開けた。いよいよ第4楽章であると言わんばかりの堂々たる音色。その後のチェロとコントラバスによるレチタティーヴォはハリのある音色が響き渡っており、生糸のような筋の通った音色が印象的だった
Allegro assaiレチタティーヴォの後、間を空けずにすぐさまコントラバスとチェロによって超有名な主題が奏でられた。これには驚いたが、紙芝居のように一気に場面が変わった。やはりこの主題は単純だけどもいつ聴いても感動する。チェロとコンロバスしか奏でられていないのに十分美しく、また壮大さも垣間見えた。やがて、ファゴットが甘美な音色を響かせる箇所に代わるが誇張しすぎず、ヴィオラの音色と見事調和された美しい響きを堪能した。そして、金管楽器が加わるのなんと非常に神々しく、壮大さよりも天国にいるかのような幸福感に包まれた。快速的テンポで奏でられる主題は非常に堂々としており、明るさをもたらす。この時点で、新国立歌劇場合唱団の方々が登場した。
Presto; Recitativo "O Freunde, nicht diese Töne!"; Allegro assai。いよいよ合唱の登場である。バス歌手(クリスティアン・イムラー)のソロ・パートに合わせて登場し、いよ合唱が伴う。このパートにおいて「anstimmen und freudenvollere.」という歌詞があるのだが、その部分で音が上がったのだ。この時に、使用している楽譜が「ベーレンライター版」であることがわかった。今までの演奏で違和感があった点は青文字にしていたのだが、全て使用楽譜がベーレンライター版であることが発覚してから全てが解決した。バスのソロが終わると合唱団の合唱が登場するのだが、これが最もすごかったコロナ禍の影響によって人数は決して多くないにもかかわらず、オーケストラに負けないほどの圧倒的な声量に驚かされた。特にソプラノの声が後方部座席でもしっかりと響いてきたのは本当に驚きだった
Allegro assai vivace (alla marcia)。6/8拍子だけども行進曲的な場面へ移る。遅くもなく早すぎることもない標準的なテンポで可愛らしいピッコロが響いてきた。座席の関係か、テノール櫻田亮)の声が遠かった。盛り上がって男声合唱が加わるとすごかった。圧倒的声量に基づく男声合唱は非常に迫力があり、時にオケの音色をかき消してしまうほどのものだった。
 ベーレンライター版であることが発覚すればもう大丈夫。その後の緻密なオーケストレーションは鈴木優人先生の丁寧な解釈によって非常に鮮明でありながらも熱気を帯びていた。その後に控える壮大な合唱に向けて備えるのである。そして、超有名な合唱部分では標準的なテンポながらも新国立劇場合唱団の超絶素晴らしい合唱が華々しく歌い上げられていた。そして、鈴木優人先生の堂々としたテンポは生命力を感じ座せるものがあり、ベートーヴェンの素晴らしい作品をより一層磨き上げられた素晴らしい音楽がそこに存在した
Andante maestoso。荘厳なトロンボーンによって始まる。やはり新国立劇場合唱団の超絶素晴らしい!!教会のような荘厳さがあった。そして女性合唱が入り込み、美しく生糸のように繊細な音色を響かせるヴァイオリンが素晴らしい音色を響かせていた。
Allegro energico e sempre ben marcatoやはり女性合唱のどこまでも響きそうな素晴らしい声量が印象的。弾むように進められているのだが、鈴木優人先生の熱のこもった指揮から生み出される音楽はどこか才知を感じさせる。私は、この箇所がとても好きな部分であるが非常に幸福感に包まれた。
Allegro ma non tanto男声合唱と女声合唱が交互に歌う。これが聴こえるともう終わってしまうのか、といつも思う。それにしても圧倒的な合唱団に押され、オケの印象があまりない…。けれども、とても素晴らしい音楽であったことは間違いない
Presto; Prestissimo。いよいよ最終部。凄まじい早さではないが疾走感のあるテンポで最後をかける。大太鼓やシンバルといった打楽器は控えめ(合唱にかき消された可能性もある)だったが、鈴木優人先生の熱気のおびたフィナーレは非常に素晴らしいものだった。ここでも、ベーレンライター版を推測させる特異なアクセントがあった。一瞬トスカニーニを思わせる加速があったが、多くの指揮者と同様にゆったりとしたテンポから加速し、最後も力強く締め括った
 

総括

 鈴木優人先生の第九ということで非常に楽しみにしていた。しかし、どうも初めてという気がしない。そして思い出した。2017年12月22日の神奈川フィルの「第九」で本来鈴木秀美先生が指揮することろ、代役で鈴木優人先生が指揮を務めたのだ。私はそれを聴きに行っているので、鈴木優人先生の指揮及び第九は、これで2回目ということになる。
 神奈川フィルの演奏はベーレンライター版であったかは記憶してない(多分、その頃の私はベーレンライター版の存在すら知らなかった)が、今回はベーレンライター版の楽譜を使用していた。CDでは、サー・サイモン・ラトルヘルベルト・ブロムシュテットが代表的であるが、実際にベーレンライター版を聴いたのは本当に違和感しかなかった。しかし、良い体験となったし、鈴木優人先生のパイプオルガンの独奏も非常に良い体験となった。



 そして、今回の公演は元俳優の成宮寛貴氏が来ていたようだ。これはびっくり。

前回のコンサート

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