鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」を聴く(その1)

Introduction

 期末試験が終わり、1日中自分の時間が取れるようになった。しかし、やりたいことだらけであり、四六時中音楽のことについて考えるわけにもいかない。勉強しつつも、やはり音楽のことについて書きたくなるものだ
 そこで、今回は、ブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」を取り上げることにした。久しぶりにブルックナーについての記事を書くことにしたブルックナーの作品は長大であり、宗教性も高く、なかなか短時間で書くことが難しい。今だからこそ、少しでも多くの記事が書ければいいかなと思っている。
 さて、このブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」であるが、他の作品に比べて、わかりやすく、美しいことを理由にブルックナーの中でもかなり人気の作品であるといえよう。もっとも、筋金入りのブルックナーファンは、圧倒的に第5番や第8番を挙げることに違いないだろう。私もそのうちの一人である。
 また、この作品は、ブルックナー交響曲全体的に散見される特徴がたくさん織り込まれている。例えば、第1楽章冒頭の弱音で弦楽器のトレモロが鳴り響く原始霧、2連符+3連符のブルックナーリズムが挙げられよう。また、この作品は、第5番に引けを取らないほどの重厚感ある音色が鳴り響くのも魅力的である。
 なお、この作品は大きく改変されており、第1稿と第2稿とで大きく異なる。現在、もっとも多く演奏されているのは第2稿である。そして、もはや毎度お馴染みになろう、ノヴァーク版とハース版であるが、聴く分にはあまり大きな違いは見受けられない。もっとも、以下の点が大きな相違点となっている。

  • 第3楽章トリオ冒頭の管弦楽法(主旋律を演奏する楽器が違う)
  • 第4楽章最後(練習番号Z)で回想される第1楽章第1主題の管弦楽法(ノヴァーク版ではホルンが明確に主題を再現する。ハース版は複数の楽器群の組合せで主題が暗示される)

 第3楽章トリオはわかるにしても、第4楽章の練習番号Zは手許にスコアがないと確認できない。スコアを持ちながら聴くのも醍醐味の一つであると再確認される
 そして、ブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」を聴く!(その1)」として、最初に取り上げる演奏は、クラウディオ・アバドウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏である。その理由として、アバドブルックナーはあまり、ブルックナー臭さがなく、入門に相応しい演奏であるからだと考えている。

ブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」

クラウディオ・アバドウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

評価:8.5 演奏時間:約79分


第1楽章:Bewegt, Nicht Zu Schell

 冒頭部分。早速耳を澄ませないとよく聴こえないほどの最弱音による弦楽器のトレモロによって始まる。そして、第1主題が、ホルンの柔らかくて雄大な音色が響き渡り、薄暗く霧に覆われている中、ホルンとフルート等の木管楽器が加わって、少しずつ朝日が差し込む情景が浮かんでくる。大変美しい音楽である。アバドの長い指揮棒によって生み出される音楽はダイナミックで美しい音楽である。そして、全合奏によって奏でられるブルックナーリズムは、あまり力まず雄大で柔らかい音色が響き渡っている。第2主題は、落ち着いて弾むように軽快な音楽が繰り広げられている。テンポも標準的であり、音の強弱も自然で素晴らしい演奏である。壮大な第1主題とは対照的な音楽である。しかし、その後発展していき、豪快な第3主題が鳴り響くも、金管楽器は前面的に奏でられず、柔らかく調和された重厚な音色が響き渡る展開部に入ると、ソロ・パートが非常に大きくなり、緊張感が一気に増していく。再び序奏部のような弱音のトレモロ雄大なホルンの音色が戻ってくる。しかし、フルートの下降音階とオーボエの上昇音階が非常に美しい音色で奏でられており、もう一度幻想的な風景が思い起こされる。やがて盛り上がってき、やや暴力的な音色でブルックナー・リズムを何度も演奏され、非常にダイナミックな展開部を構築している。これぞ、これぞ、ブルックナーの魅力である!その後は、煌びやかなヴァイオリンのトレモロに加えて、トランペットが非常に輝かしい音色でコラール風なハーモニーを響かせている。どこまでも届いていきそうなほどの輝かしい音色は素晴らしい音色である。再現部第1主題も、ホルンの音色ともに、軽やかで美しいフルートが上下する。繰り返される冒頭部分の再現であるが、毎度思い浮かぶ情景が異なるのである。その後の全合奏も壮大な音色によってブルックナー・リズムが何度も何度も演奏されている一切力んだ様子もなく、自然体な音色であるにもかかわらず、壮大な音色が広がっていく、アバドの音楽作りに圧倒される。再現部第2主題も、軽快な音色と主に、多少厚みがかかった弦楽器の音色が美しい。その後の、再現部第3主題は、非常に迫力ある音色が広がっていき、どこまでも横に広がっていきそうな音色が響き渡るアバドのダイナミックさがブルックナーではこのように表現されるのかと思うと感銘を受ける。コーダでも、迫力ある音楽が繰り広げられており、ホルンが勇壮に冒頭部分の主題を繰り返し、迫力をもって締め括る

第2楽章: Andante Quasi Allegretto

 繊細な幕開け。第2楽章は色々な見解があるものの「A-B-A-B-A-Coda のロンド形式と捉えるのが妥当ではないかと思われる。何回か冒頭のチェロの主題が繰り返し使われるからである。
 主要主題の部分である主題は、チェロによる主題はやや哀愁漂う音色を響かせており、美しい。各々の楽器のソロパートに加えて、ピッツィカートで刻んでいく描写はブルックナーではよく見られる構造である。副主題の部分も、美しくも重厚感ある弦楽器に加えて、木管楽器の鳥の鳴き声を再現しているかのような優しい音色が印象的である。アバドの自然豊かなアプローチが冴え渡っていることがよくわかる。後半のクラリネット等の木管楽器の応答もまた繊細な響きで美しい。中間部分においては、クライマックスを形成するかのような盛り上がりを見せる。力強い弦楽器に加えて壮大なホルンの音色と低音が勇ましく奏であげるのだが、アバドの演奏は非常に力強く、非常に勇敢な演奏を展開しているベートーヴェン交響曲第3番第2楽章の中間部のような勇ましさである(尤も、本演奏は長調)。その後、再び主要主題が奏でられ、ソナタ形式では無いが再現部に位置付けられるものといえよう。コーダに入る前に、最後の主要主題部では大きなクライマックスが形成される。アバドのクライマックスは、中間部でも述べたが非常に迫力ある演奏なのである。しかし、カラヤンのようなガチガチの力感ではなく、自然豊かな音色と自然体として壮大に鳴り響いているのである。まさに、この曲のテーマである「ロマンティック」の表題にふさわしい内容であり、裏として、森林が描かれているのでは無いだろうか。コーダは繊細な響きを残して締める。

第3楽章:Scherzo & Trio

 俗に「狩のスケルツォとしてよく知られている。
 冒頭、ホルンとトランペットの勇ましいファンファーレが鳴り響き、Aを奏でる。ここでも金管楽器は自然な音色であるにも関わらず、自然体を貫いている。キビキビとした非常に勇ましい楽章である。その後、少し穏やかんで滑らかな旋律が鳴り響くが、その穏やかさ一瞬にすぎる。しかし、小刻みに音が上下するので、奏者としてはかなりの技術を要するのだろう。トリオ(B)は、冒頭フルートによって奏でられているので、ここでノヴァーク版であることが確認できるアバドのトリオは、あまりテンポを落とさずに、勇敢な主部を維持しているかのような印象を受ける。しかし、アバドらしい巧みなアゴーギクによって穏やかなトリオを彩っている
 そして、再びAを繰り返す。

第4楽章:Finale: Bewegt, Doch Nicht Zu Schnell

 機械的なリズムを起点に、弦楽器の波打つような演奏によって幕を開ける。そして、提示部において凄まじい重厚感の第1主題を奏でている。この第1主題の部分は重厚感ある音色が繰り返し登場し、ブルックナーの醍醐味である重厚感が何度も味わえる。アバドの第1楽章は第4楽章早々から凄まじい演奏であった。強烈である。第2主題は、第1主題とは対照的に落ち着いた雰囲気である。アバドは、しっかりとテンポを落として優しく、第2楽章のような優しく落ち着いた演奏を展開している。若干弾むような場面も非常に可愛らしい。第3主題は、第1主題のような強烈な演奏が戻ってくる。ここでもアバドは自然体を貫きながら非常に壮大で力強い重厚感ある音色を響かせている。この重厚感こそがブルックナーなのである。
 展開部に入ると、冒頭の雰囲気に戻ってくる。第2主題を回顧するかのような演奏だが、再びホルンが第1主題のコラールを奏で、その後に弦楽器がトゥッティで力強く奏でる。いつ聴いても壮観だ。そして、第3主題が登場する。コーダ前の非常に大きなクライマックスである。何度もブルックナー・リズムが繰り返され、金管楽器の重厚感ある大迫力の演奏が非常に素晴らしく、決して遅くないテンポがより一層明るさと、荘厳さを齎している。その後、第1主題の冒頭部分をもう一度繰り返されるのだが、その後の第1主題の再現もまた強烈な迫力である。なお、再現部は短め(第1主題と第2主題の再現のみ)。静まり返ると、弦楽器の3連符と木管楽器の第1主題冒頭部分を奏でる。緊張感が漂い、圧倒的なクライマックスへと導く。このじわじわくるクレッシェンドがたまらない。ここでも、アバドの知的なアプローチが光り、自然体を意識しながら重厚感ある音色を徐々に盛り上げている。そして、最高潮に達した時、凄まじい迫力さであり、身体に何かが走ったかのような壮大さに圧倒される。最後の最後の、締め括りも大変力強い、何もかも持ち去っていってしまうかのような終わり方にはもう体が動かない
 これはすごい。
 なお、朝比奈先生やギュンター・ヴァントといった本格的なブルックナー指揮者と比べると、ややブルックナーらしさが欠けている印象を受ける。十分な重厚さであるが、もっと厳格さ、荘厳さがあるのが本格的なブルックナーであるとと考えるのが自論である。
 しかし、あまりブルックナー臭さが無いにもかかわらず、ブルックナーの醍醐味である重厚感がしっかり演奏されている点を考慮すると、この演奏はブルックナー初心者にはおすすめの演奏なのでは無いかと思っている。
 したがって、評価の部分を「8.5」としてある。

ブルックナー:交響曲第4番

ブルックナー:交響曲第4番

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