SymphonikerのOrchepedia

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【緊張感と魅力】ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調を聴く(その5)

introduction

 いよいよ、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー@ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を取り上げよう。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との演奏で一番有名なのは、1947年5月27日の録音であろう。しかし、今回取り上げる演奏は、1954年5月23日の演奏である。
 私は現在、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との演奏はこの①1954年5月23日②1947年5月27日③1943年6月27~30日の3つを所有している。したがって、この順番に記事を連載することにした。感が鋭い人はどのような評価になるかおおよその予想はつくだろう。
 さて、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーという指揮者であるが、あちこちの記事で述べているように私が一番好きな指揮者なのである。やはり他の指揮者にはない独特の雰囲気と間合い、強烈なクレッシェンド、そして、度肝を抜くほどの圧倒的な爆速コーダである。このベートーヴェン交響曲第5番ハ短調の演奏も例外ではない。
 まずは、晩年のフルトヴェングラーベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏について聴いてみることにする。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラーベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

評価:7 演奏時間:約35分

第1楽章:Allegro Con Brio

 提示部。冒頭はフルトヴェングラーらしい重々しい雰囲気で始まる。第1主題はフルトヴェングラーらしい独特の間合いも目立っており、緊迫感あふれる演奏が展開されている。第2主題は当時のベルリン・フィルが奏でる清涼感ある弦楽器の音色が非常に印象的である。提示部繰り返しあり
 展開部。第1主題を基調としており、提示部同様に緊迫感ある演奏が展開されている。この展開部ではどの指揮者やどのオーケストラでも比較的緊迫感を与える演奏が多いが、やはりフルトヴェングラーは言葉に表現するには難しい雰囲気がある
 再現部。迫力十分の第1主題であるし、独特の間合いも凄まじい変態っぷりだ。私が第1楽章の中で最も好きなのがこの再現部第2主題である。録音の関係かヴァイオリンと木管楽器が若干ヨボヨボしているが、短いながらも「暗→明」を体感できる。張りのある弦楽器が颯爽と第2主題を奏でているところはやはり素晴らしい。展開部以上に指揮者の腕の見せどころのような気がする。
 コーダ。コーダの第1主題も相当の迫力である。第1楽章からフルトヴェングラーの独特の世界が広がっている。

第2楽章:Andante Con Moto

 A-B-A'-B-A"-B'-A'"-A""-codaから成る緩徐楽章かつ、変奏曲である。
 やはり、弦楽器は独特の雰囲気が広がる。フルトヴェングラーの指揮は非常に困難とされており、団員たちは常に緊張しっぱなしのようだという。そのようなスリルを味わえるのもこのフルトヴェングラーだからこそなのだろう。そして、第2主題はトランペットの音色が十分過ぎるように聴こえてくる。相当の音量が出ていることが推測できる。その後の弦楽器が流れるように奏でる箇所はじっくりと遅いテンポで優雅に奏でている。
 2回目の第2主題は、1回目同様に迫力あるトランペットが十二分に音が出ており、ヴァイオリンの32分音符の箇所はかき消されてしまっている。その後の弦楽器の箇所はスイスイと流れるよう演奏するかと思いきや、意外とじっくりとしたテンポで進められている。音質も比較的良好であるし、弦楽器の緊迫感のある音色もしっかりと聴くことができる。

第3楽章:Allegro

 主部。かなり遅いテンポで幕を開ける。主部に入ってもしっかりとしたテンポで重々しく主題を奏でている
 トリオ。テンポは速めることはなく重厚感あふれる低弦楽器が「象のワルツ」を奏でている。
 そして、第3楽章から第4楽章へアタッカで移行するところは相変わらずの引き伸ばしである。

第4楽章:Allegro

 提示部。堂々とした音色で第1主題を奏でている。じっくりとしたテンポで進んでいく第1主題は非常に格調高く、本格的な演奏であることを実感させられる。その後もホルンが頑張って勇壮に奏でている。第2主題に入ると多少落ち着いて、ベルリン・フィルの弦楽器が美しく清澄な音色を響かせている。しかし、どこかしらにフルトヴェングラー独特の緊迫感が漂っているし、展開部前には強烈なクレシェンドが掛かっている提示部繰り返しなし
 展開部。多少の揺らしもあって、トロンボーンも強烈な音色を響かせており迫力ある演奏が展開されている。途中強烈なクレッシェンドもかかっておりコーダに向けてものすごい演奏が展開されるのではないかと期待を抱く
 再現部。再び堂々とした第1主題を奏でる。そして、ホルンが勇壮に奏で、再現部第2主題を経過して期待のコーダへ移行する。
 コーダ少しずつテンポが加速してく。加速していくにつれて徐々に熱気を帯びてきている。もっとも、他の演奏に比べると十分速い演奏であり、狂気じみたところもあるが他のフルトヴェングラーの演奏に比べるとやはり晩年ということもあって狂気さが足りない。そうすると、このような評価になってしまっても致し方がないという部分もある。