本の簡単な紹介
本のタイトル・出版社
- 夕木春央『方舟』(講談社、2022年)
作者
2019年、「絞首商会の後継人」で第60回メフィスト賞を受賞。同年、改題した『絞首商會』でデビュー。
近著に『サーカスから来た執達吏』がある。
講談社掲載より引用(『方舟』(夕木 春央)|講談社BOOK倶楽部)
あらすじ
「週刊文春ミステリーベスト10」&「MRC大賞2022」堂々ダブル受賞!
9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。
講談社掲載より引用(『方舟』(夕木 春央)|講談社BOOK倶楽部)
なぜこの本を読んだのか
今回は、夕木春央『方舟』です。前の記事でも述べた通り、私はミステリーものが大好きですが、ジャンル問わずに「本屋大賞」の受賞作やノミネート作は読むようにしています。
新たな本を探しに本屋に立ち寄ったところ、本作品が平積みされていたのです。そして、私が購入した本の帯には以下の記述がありました。
・「これまで読んだことないようなもので、とてもゾクゾクした。」(朝井リョウ)
・「極限状況での謎解きを楽しんだ読者に、驚きの〈真相〉が襲いかかる。この衝撃は一生もの。」(有栖川有栖)
これは読むしかない…。そんな思いで直ちに購入して早速読み始めました。
自分の考えや本への想い(以下、ネタバレ注意!!!)
さて…読み始めたはいいものの、どこで区切りをつけていいのやら…。全体を通して後が気になって気になってしょうがない。
本作品に登場する地下建築「方舟」であるが、出口は塞がれて脱出できず、さらに地下水が徐々に水嵩が増してい木、閉じ込められた登場人物たちはやがて死ぬという想像を絶する極限状態に追い込まれる。さらに、殺人も起きてしまう。
登場人物は脱出方法を考える上で、犯人も探し出さなければならない。そんな極限状態に追い込まれているのであるから、果たして全員脱出できるのか?また、犯人は誰なのか?気になり過ぎて早く続きが読みたいという気持ちを加速させていく物語だ。
「5 選別」(253頁以下)から、ついに殺人犯の犯人がわかる。254〜278頁にわたって、登場人物である翔太郎が極めて緻密で一貫した論理によって犯人を特定する。3人を殺害した犯人は…女性の麻衣だったのだ。特に2人目の被害者は、殺害後に頭部を切断するという凄惨な方法を行なっている。したがって、女性である麻衣が犯人であることは大きな驚きだった。
しかし、それだけではなかった。
本作品には「エピローグ」がある。これがあまりにも恐ろし過ぎた。
上記の通り、地下建築「方舟」の出入り口は岩によって塞がれていると述べた。そして、「方舟」は非常口があるが、「方舟」にあるモニターによって、地震によって土砂崩れが発生し、その非常口は塞がれていることを確認できている。したがって、岩によって塞がれている出入り口しか脱出口はない。
しかし、殺人犯である麻衣は柊一に恐ろしいことを告げる。
「今から地下で死ぬことになるのは、私じゃなくて、柊一くんたちなの。」
そう。非常口の様子と出入口の様子が映し出されているモニターの配線を入れ替えており、実際に塞がれているのは出入口であったのだ。したがって、殺人犯である麻衣はダイビング機材を用いて地下水を潜り、非常口から脱出できるのだ。
殺人犯の犯人である麻衣のみ「方舟」から生きて帰れる。そして、麻衣以外の者は全員死ぬ。こんな結末、誰が想像できるだろうか。
そして、本作品の一番最後の文が一気に恐怖を呼ぶ。
そのとき、前触れもなく、視界が真っ暗になった。
タイムリミットが来たのだ。発電機は運転を停止した。
数瞬後。五人の、絶望の絶叫が遠く聞こえた。
(301頁)