鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【広島原爆の日】ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌を聴く

Krzysztof Penderecki [1933 - 2020]

Introduction

 今回はペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌を取り上げる。本日8月6日は広島市への原子爆弾投下である。したがって、本日にこのペンデレツキの作品を取り上げることの意味には大いなるものがあろう。尤も、所要が重なり執筆の時間が遅くなったことは非常に申し訳ないながらも今日中に書き上げることを目標としていた。
 クシシュトフ・ペンデレツキは、ポーランドの作曲家、指揮者であり、ポーランド楽派の主要作曲家の1人である。2020年3月29日に86歳で亡くなっており、私がペンデレツキの作品に興味を示し出した後に訃報が飛び込んできたことに驚いたことを記憶している。ポーランド楽派のパイオニア的存在であるヴィトルト・ルトスワフスキの音楽を継承したような作曲家である。
 さて、この「広島の犠牲者に捧げる哀歌」は、ペンデレツキが1960年に作曲した52の弦楽器群による弦楽合奏である。したがって、木管楽器金管楽器は登場しない。弦楽合奏と聴くと、モーツァルトハイドンのような小規模で優雅な音楽が想像されよう。しかし、この「広島の犠牲者に捧げる哀歌」戦争の悲惨さをこれでもかと伝えるような非常に恐ろしい曲である。弦楽器のみでこれほど恐ろしい作品を描けるペンデレツキの才能には驚愕を隠せない。その理由として、トーン・クラスタという特殊奏法を用いている。本作品のスコアに合わせて演奏されてるものがある。また、クシシュトフ・ウルバンスキの指揮によって実際に演奏されている(オーケストラは、シンフォニア・ヴァルソヴィア)ものがあるのでそれも引用する。

www.youtube.com

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ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌

クシシュトフ・ペンデレツキ:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

演奏時間:約9分


 今回はいつものように詳細な評価・分析はしない。時間がないとかそういったつまらない理由によるものではない。
 本作品は原爆被曝国民である私、日本人にとって、音楽的な要素のみを抽出して評価することは非常に困難であるからである。私は平成生まれであり戦争の悲惨さを目の当たりにしたわけではないが、数多の原爆被害についての資料等によって原爆の悲惨さを学んだ。本作品を聴くときは音楽的・芸術的観点のみで聴くことはできず、原爆の被害状況のエピソードや映像・写真と重ねて聴いている。したがって、最初から最後まで演奏の観点から聴き通すことがどうしてもできず、評価することも相応しくないということで評価もつけなかった。
 強いていえば、作曲者自身によるクシシュトフ・ペンデレツキの指揮と、世界的オーケストラであるロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の最新録音によって聴くことができる重要な演奏資料であることだろう。

 今回は、広島原爆を対象とした作品があることを知ってもらいたくて記事を書いた。音楽は、自分に勇気を与えてくれたり、テンションをあげたり、楽しい気持ちを齎すようなプラス要素を与えるものではない。時には、生死に関わる思い、争いに対する皮肉、戦争の悲惨さを伝えるなどマイナス要素を全面的に押し出し、後世に残すことも音楽が果たす重要な役割であると私は考える。そのような意味で、クシシュトフ・ペンデレツキ新垣隆先生について私は敬意を払っている。
 現代音楽であるから難しいということで敬遠せず、興味本位も結構であるから一度は聴いてほしいと強く願う作品である。音楽を通じて戦争の悲惨さを身をもって体感することができる。

 私は人生で一度は必ず「広島」「長崎」に訪れたいと思っている。被爆地に行くことで新たな知識・悲惨さを実感するために。そして、世界平和を祈念し…

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