Symphonikerのひとりごと

クラシック音楽を趣味とする早大生

ブルックナー:交響曲第8番ハ短調を聴く(その1)

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はじめに

 今回は、ブルックナー交響曲第8番ハ短調。私の中でも、最も好きな交響曲の1つである。演奏時間が80分(CD1枚分)を越えることもある長大な曲で、後期ロマン派音楽の代表作の一つに挙げられる。
 おそらく、この交響曲第8番がブルックナーの中でも最も充実した内容を持つ交響曲ではないだろうか。宇野後功芳先生も同様の旨を述べている*1「二連符+三連符」というブルックナー・リズムに加えて、悲痛な叫びを上げるような壮大な第1楽章。圧倒的ない美しさと迫力を兼ね備えた第3楽章。最後の「闇に対する光の完全な勝利」というほどの第4楽章coda。第1楽章アレグロ、第2楽章スケルツォ、第3楽章アダージョと、ベートーヴェン交響曲第9番の楽曲構成とほとんど同じであり、この点からも、ブルックナーベートーヴェンを尊敬していたことが窺われよう。

 「朝比奈隆のようなブルックナーを得意とする指揮者が「第八」を指揮する、という前日の晩は、遠足へ行くような前の小学生のように胸が弾む。もう嬉しくてたまらないのだ。」*2

 私も同様である。2019年3月17日のエリアフ・インバル東京都交響楽団のコンサートは本当に楽しみで、ワクワクしていた気持ちを思い出した。実際に、その時のコンサートは凄まじいものであり、全観客が全集中して聴いていた。サントリーホールが緊迫感に満ち溢れた空気であったことは今でも鮮明に覚えている。

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ブルックナー交響曲第8番ハ短調

セルジュ・チェリビダッケミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団

評価:7 演奏時間:約106分 ノヴァーク版(1890年・第2稿)
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 今回取り上げる演奏は、セルジュ・チェリビダッケミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団の演奏である。
 セルジュ・チェリビダッケは、ブルックナーを代表する指揮者であり、1回目ということで取り上げることにした。
 チェリビダッケについては、以下の記事を参照されたい。
law-symphoniker.hatenablog.com

 さて、1回目ということで平均的な相場がわからない方にとっては違和感ないかもしれないが、この交響曲第8番は平均的に。約80分程度で演奏されている。それに対して、チェリビダッケは、約106分と規格外のスケールで演奏している。一部始終聴くには体力と時間が必要になりそうだ(後々面倒くさくなりそうだから、一発目に取り上げた可能性も否定はできない)。

第1楽章:Allegro Moderato

 第1楽章のみで約21分!大抵15分〜17分程度なのであるが、20分越えは同曲を27枚所持している中でも、この演奏のみである。
 さて、中身であるが予想通りかなり遅い。低弦による第1主題の次の音がなかなか出てこないチェリビダッケの世界がすでに始まっているのである。全体的にスローテンポであり、濃厚な第1楽章が奏でられている。
 展開部の頂点部分はものすごい迫力であり、声は入っていないものの、チェリビダッケの気迫が十分に伝わってくる。迫力あるトランペットの音色がより一層力強さを増し、カラヤンの豪華絢爛な迫力よりも上回るほどの力強さを齎す。しかも、テンポが遅いから尚更。
 再現部を経て、最後のクライマックスへ。展開部の頂点部の繰り返しのような迫力であるが、トロンボーン等の低音楽器の重厚さが実に素晴らしく、鳥肌が立つほどの壮大さを表現しているチェリビダッケの恐ろしい底力を見せつけられたようだ。
 そして、静かなコーダを経て第1楽章を締める。

第2楽章:Scherzo, Trio

 主部のみ普通のテンポ。これも遅かったらどうしよう…。実際に第2楽章は全体で約15分程度である。晩年のカラヤンだと約16分の演奏時間である。
 トリオに入ると遅い。個人的にこの第2楽章と、マーラー交響曲第5番第3楽章は類似している要素が多いと思っている。実際にホルンが登場するシーンも多く、ゆったりとしたテンポであるからだろうか。弦楽器の柔らかく美しい音色とともに、煌びやかなホルンとトランペットが奏でられており、まさに癒されるような音楽である。随所のハープも美しく奏でられており、聴きどころの一つであるいえよう。

第3楽章:Adagio, Feierlich Langsam, Doch Nicht Schleppend

 驚異の約35分!チェリビダッケのスタイルをこれでもかと注ぎ込んだ長い長いアダージョ。しかし、この美しく、神聖な宇宙を描いたような第3楽章は遅いテンポでじっくりと演奏される方が好み
 第1主題早々から、ミュンヘン・フィル特有の温かく、柔らかい弦楽器が聴く耳を包み込む。もちろん遅いのだが、より一層潤いが齎され、神聖な雰囲気を構築していく。
 中間部に随所に見られる盛り上がりの部分は、弦楽器の音色はもちろんのこと、金管楽器の伸びやかな柔らかい音があたり一面に響き渡り、美音のシャワーを存分に浴びることができる。これ実際のホールで聴いたらどれほどすごいのだろうか…。音量の幅が広いチェリビダッケの解釈はいつ聴いても感銘を受ける。第3楽章は、何回か同じ主題を繰り返して演奏する構成なのだが、何回繰り返されても飽きない。それにしても、トランペットの音色がよく響いているのだが、あのスローテンポでよく崩れないな…肺活量が凄いのだろう
 そして、頂点部分(第239小節)であるが…シンバルの音が少し小さい上にテンポが速い。今まで超絶スローテンポで演奏してきたのであるから、そのテンポで頂点部を奏でて欲しかったな…。期待していただけにちょっと残念であった。
 しかし、その後のCodaは弦楽器が非常に美しく、繊細な響きで静かに第3楽章を締める。

第4楽章:Finale: Feierlich, Nicht Schnell

 驚異の約32分!スローテンポで重々しく低音金管楽器が重厚に奏で、荘厳な第1主題を奏でていく。その後の第2主題は第3楽章を思わせるようなゆったりとしたテンポで、美しく奏でていく。第3主題もジグザグとした主題が印象的たが、ここまでスローテンポだと1音1音ずっしりとくる。迫力ある「死の行進」もティンパニが1音1音どっしりと響き渡っており、非常に重々しく、迫力満点である。
 その後展開部に入り、美しい弦楽器と力強い金管楽器のハーモニーが随所に見られている。
 再現部に入り、第1主題が勇壮に奏でられる金管楽器が圧倒し、迫力満点で非常に格好良いチェリビダッケも、鬼のような厳しい表情を奏で、熱く指揮をしているだろう。その後の再現部第2主題、第3主題もゆっくりとしたテンポで演奏し、迫力ある第1主題を金管楽器が奏で静まるといよいよ、Codaである。
 じわじわとくる上昇音型。これが聴こえると、本曲の終わりの合図であり、濃厚な音楽も終わりとなる。チェリビダッケは前述同様遅いテンポで奏でるため、いよいよ最後か…と思う。ハ長調となり、大迫力の最終部はお馴染みのスローテンポで奏でられており、全ての楽器が壮大に響き渡り、果てしなく広がる宇宙を再現しているかのようである。そして、最後の音が鳴り響き、数秒後に拍手。
 終始、ミュンヘン・フィルの柔らかく温かい音色が響き渡ったブルックナー。このようなぬくもりのある壮大な音楽も悪くないだろう。
 106分と長時間のブルックナーであるが、意外と一部始終聴けてしまうのは何故だろうか。

*1:宇野・前掲51頁

*2:宇野・前掲52頁