鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調を聴く(その2)

Introduction

 いつもは作品の解説という位置付けであり、内容を記した「(その1)」を参照されたいのでその記事を貼るだけで済ませている。
 しかし、ただ記事を貼り付けるだけではもの寂しいので、なぜこの演奏を取り上げたのかという理由を最初に記すことにした。
 さて、今回取り上げる演奏は、オイゲン・ヨッフムロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団である。この演奏は音楽評論家の中野雄先生の推薦盤でもある*1Wikipediaでもこの演奏についても決定盤という旨が記載されているが、この記載は本演奏について言及されたものではない。

最晩年の1986年にはかつて首席指揮者を務めていたアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮して、交響曲第5番で自身のブルックナー演奏の総決算とも言える演奏を遺している。

 恐らく、1986年の録音について言及されたものと考えられるが、本演奏は1964年に録音されたものであるから注意されたい。
 さて、このオイゲン・ヨッフムという指揮者であるがブルックナーにおいて非常に名声の高い指揮者である。しかし、私自身このオイゲン・ヨッフムという指揮者は苦手なところがある。その理由が厳しすぎる金管楽器の音色と不自然な急加速とクレッシェンドである。フルトヴェングラーを彷彿させるがその違いは一目瞭然であり特にブルックナーのような重厚さが醍醐味の作品に厳しい金管楽器の音色は似合わないというのが私の持論である。
 しかし、オイゲン・ヨッフムロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は多くで高い評価を得ており、私自身も聴いてみようと思い取り上げた。
law-symphoniker.hatenablog.com

ブルックナー交響曲第5番変ロ長調

オイゲン・ヨッフムロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

評価:6 演奏時間:約76分


第1楽章:Introduktion. Adagio - Allegro

 序奏部。遅いテンポで下降音階を奏でる。かなり遅いテンポでありこの後に何か巨大な何かが襲いかかるような予感である。その後、ヨッフムらしい厳しい金管楽器のコラールが鳴り響く。コンセルトヘボウ管のせいか、アメリカらしいドライなトランペットの音色である。
 呈示部。序奏部と比較してかなりテンポを上げている。前回のマゼールのテンポよりも快速的である。しかし、随所に気になる強烈なクレッシェンド。これが一体何を意図しているのか…。その後のピツィカートによる第2主題はテンポを一気に遅めて慎重に演奏しているようだ。そして、第3主題であるが、第2主題の流れをそのまま引き継ぐように大きう流れるような壮大さである。ただし、頂点部に近づくにつれてテンポを速めていく。このテンポを速める動きが演奏自体に勢いを齎している
 展開部。録音の影響かホルンやフルートの掛け合いよりも弦楽器のトレモロがはっきり聴こえる。しかし、金管楽器のコラールは迫力があるのだがどうも重厚さに欠けるのが気になってしょうがない。厳しい音色はヨッフムらしいのだが、どうもこの音は好きになれない。もっとも、トロンボーンといった低音金管楽器の音色は重厚感あって素晴らしい
 再現部。勇ましい第1主題はいつ聴いても壮観である。ただ、やや単純な第1主題であり、あまりに速いテンポで演奏すると実にあっけなく聴こえるものである。呈示部同様に第1主題と比較してゆったりなテンポで第2主題を奏でている。第3主題も相当速いテンポで演奏されている。
 コーダ。呈示部第1主題よりも速いテンポで一気に畳み掛けるような勢いである。あまりの速さに圧倒される。

第2楽章:Adagio. Sehr langsam

 第1楽章のように遅いテンポで幕をあける。ゆっくりと進んでいく主要主題である。弦楽器の音色も優しく穏やかな第2楽章を彩っている。第1楽章の時もそうだがコンセルトヘボウ管の弦楽器の音色は澄み切るようなサウンド
 第2主題も非常に遅いテンポで美しく弦楽器が清澄な音色を響かせている。どの交響曲もそうだがブルックナーアダージョは美しいものだ。その後の何回か第2主題が繰り返され、金管楽器が登場する箇所もあるのだが非常に硬質な音楽である。
 上記のように私自身がオイゲン・ヨッフムについて肯定的な立場ではないのでどうしても気になるところは気になる。しかし、前向きに聴いてみると硬質な金管楽器のコラールこそがブルックナーの重厚感ある音色に相応しいのではないかと再考することもある。
 第2楽章の中で注目すべきところは3回目の第1主題である。なんと、チェリビダッケを彷彿させるような極めて遅いテンポである。非常に息の長い第1主題が奏でられており、頂点部を形成すると厳しい金管楽器の音色であるが壮麗なコラールが鳴り響いている。この遅いテンポによって奏でられる頂点部はやがて朝を迎えるような輝かしいものである。
 そのまま静かに第2楽章を終結する。

第3楽章:Scherzo. Molto vivace (schnell) - Trio. Im gleichen Tempo

 第2楽章の頂点部とは対照的に速いテンポで一気に駆け上がる。一方で第2主題に入った途端に楽譜通りに急激にテンポを落としてしっかりとした三拍子を形成している。
 第1主題は快速的テンポで一気に駆け抜けて野生的さを全面的に押し出して演奏する方がよかろう。ブルックナースケルツォは些か野生的な方が望ましい。そのような意味でヨッフムのような強烈な第1主題はうってつけの演奏といえよう。そして、舞踏会の優雅さも垣間見える第2主題は第1主題とは真反対の演奏の方が良いように思う。この第1主題と第2主題は実に対照的に捉えた演奏の方が私好みである
 トリオ。主部の第2主題を継承したような演奏である。優雅さもあるのだが張り詰めた弦楽器の音色街印象的なのである。トリオ後半部の金管楽器の場面は今までの演奏と比較して若干抑えめの演奏である。

第4楽章:Finale. Adagio - Allegro moderato

 第1楽章同様に緊張感のある序奏部を演奏する。
 呈示部。第1主題(フーガ主題)はどっしりとしたテンポで勇ましく奏でられているブルックナーの対位法が駆使された第1主題である。その後、第2主題も比較的ゆったりとしたテンポで穏やかに演奏されている。それにしても何度も繰り返し述べているが張り詰めた弦楽器が印象的である。そういった意味でこの第2主題はコンセルトヘボウ管の弦楽器を堪能できる箇所でもある。そして、再び厳しい第3主題が奏でられる。思ったよりも金管楽器が前面的に出されておらず、それよりも緊迫した弦楽器の音色が印象的である。しかし、第3主題全体と通してかなりの急加速であり、勢いを与えている。その後、金管楽器のコラールは教会のような荘厳さに近しいところがある。しかし、厳しい音色である。第3主題〜展開部前はヨッフムの繊細な音楽作りが垣間見える場面でもあった。
 展開部。上記金管楽器のコラールの主題と第1主題(フーガ主題)の二重のフーガとなっており、複雑さを極めている。ヨッフムとコンセルトヘボウ管はこの複雑な二重フーガをじっくりとしたテンポで進められている。張り詰めた弦楽器の折り重なる第1主題と厳しい音色を響かせる金管楽器が折り重なった複雑なフーガだ。しかし、なんとなく立体的構造が見出せないのだが…。
 それもしても、急激なテンポの変化がなく直線的な展開部である。急激なテンポの変化で目まぐるしい演奏を展開する演奏もある*2のだが、やはり直線的な演奏の方が似合っている。
 再現部。第1主題は極めて短く、気がついたら第2主題の再現となっている。再現部第2主題も呈示部同様に軽快に奏でられている。そして再び厳しい第3主題の再現が始まる。少しずつテンポを速めて第3主題に突入。厳しい金管楽器が吠えるような強烈な音色と強烈なテンポによって一気に追い上げるヨッフムの強烈な煽りが印象的である。今後そのままかなり速いテンポで続いていく。
 そして、いよいよコーダとなる。テンポを緩めることなく壮大なコーダを展開する。尤も、コーダに入った後はテンポを落として(標準的)壮大で厳しい金管楽器のコラールが鳴り響く。しかし、金管楽器の中d目おトランペットの音色が強烈な音色だ。ギンギラギンとしたコーダを形成し終えた後に、強烈にテンポを落として締めくくる。最後のティンパニのクレッシェンドも強烈だ

*1:宇野功芳ほか『クラシックCDの名盤』(文春新書、1999年)116頁〔中野〕

*2:例えばペータ・マーク指揮・東京都交響楽団の演奏。