鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【東響】名曲全集 第184回<後期> in ミューザ川崎シンフォニーホール

introduction

 先月、1月26日に秋学期の期末試験が終了した。そして、1月27日の授業をもって2年間在学した早稲田大学大学院法務研究科の授業が終了した。ここから本番だけども…。
 それはさておき、今回は【東響】名曲全集 第184回<後期>である。
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 期末試験が終わったのと全ての授業を終えたことに対する打ち上げ的なものである。指揮者はアレッサンドロ・ボナート。ピアノは、金子三勇士。どのような演奏を繰り広げるのだろう。そして、東京交響楽団の演奏を聴くのはなんと、昨年の7月以来のことだ。久しぶりに東響サウンドが聴けるのはとても楽しみだ。
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 この東京交響楽団「名曲全集」を聞くと思い出すのが、忘れもしない2020年3月8日に行われた「名曲全集第155回」である。

 日本にも新型コロナウイルスが流行し始め、数多くのイベントが中止したが、このコンサートも例外ではなかった。開催中止となっていたが、なんと、ニコニコ生放送によって日本国内のみならず、全世界へ配信することになったのだ。この時の私は実家でニコ生で見ていたのだが、あまりの壮大さと美しさに画面上で涙を流したことは今でも強く記憶に残っている。
 この演奏は、録音され販売中である。今まで以上にない「最高のサン=サーンス交響曲第3番」が聴くことができる。

本日のプログラム

ラフマニノフピアノ協奏曲第2番ハ短調

 前半は、超名曲ともいえるラフマニノフピアノ協奏曲第2番ハ短調だ。もうご存知の方が多いであろう。フィギュアスケート浅田真央選手のソチ五輪で使用された曲である。

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 第1楽章の悍ましい雰囲気の中、重厚な弦楽器の第1主題がすでにラフマニノフの圧倒的な音楽が感じられる。そして、なんといっても「第1楽章再現部の圧倒的スケールの第1主題」、あれは本作品の中でも注目すべき場面であろう。そして、美しい第2楽章、華やかで圧倒的なフィナーレの第3楽章と聴衆の心をグッと掴む作品である。尤も、ラフマニノフに通の方は第3番を好むのではないか(私は第3番が好き)。そして、新コーナである予習として聴いていたのは以下の演奏だ。


 尤も、私が一番好む演奏は、ヘルベルト・フォン・カラヤン(ピアノ:アレクシス・ワイセンベルク):ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏である。

 なぜ、この演奏を予習として聴かなかったのか?その回答は至って単純であり、カラヤンの演奏はあまりにも圧倒的な演奏であって、とてもこれを超えるような演奏はおよそ期待できないからである。やや非難を浴びそうな理由だけども、実際のところあまりに期待しすぎて残念な演奏となって青菜に塩の状態になる方が嫌だ

第1楽章:Moderato

 序奏部ピアノの音が鳴る前からすでにラフマニノフが始まっていた。ご存知の通り、本作品はピアノの独奏から始まる。演奏者・指揮者・ピアニストが揃い、ピアニストの金子三勇士先生がピアノに手を置いた。しかし、なかなか音は鳴らない。そう、これから始まるラフマニノフではなく、この独特の緊張感はすでにラフマニノフのコンサートが始まっているのである。
 やがて、重々しいピアノの和音が鳴り始めた。金子三勇士先生の低いF音は非常に力強い打音であり、ラフマニノフ特有の暗さと重厚さを十分に表現されていた。次第に大きくなるというクレッシェンドであるが、どこまで音が大きくなるのか、どこまで行くのかとハラハラさせるほどだった
 提示部。頂点部を形成したところで第1主題が流れる。なんと悲痛であり重厚な弦楽器の音色なのだろう!C音が鳴らされた時点で全身に鳥肌がたったのだ。初めてラフマニノフピアノ協奏曲第2番を生で聴いたのだが、ここまで感動するもなのだろう。重厚な弦楽器による第1主題が注目されがちであるが、金子三勇士先生の流れるようなピアノの音色はオケの音色にかき消されることなく、むしろピアノが主役であるかのような堂々たる音色を響かせていた。もっとも、東響の弦楽器の美しさも素晴らしいものだった。第2主題は、先ほどの力強いピアノを披露したものと対象に情緖溢れる優しく美しいピアノの音色をホール中に響かせた。すでに金子三勇士先生の世界である。この甘美さもまた、ラフマニノフの醍醐味の一つといえよう。
 展開部。目まぐるしい展開部だ。技巧ひかるピアノとオーケストラが聴きどころだ。金管楽器のハーモニーが展開部であることを告げる。第1主題の変形を奏でる低弦楽器の重厚さに加え、それに応えるかのように煌びやかなフルートの音色が印象的だった。しかし、ピアノの音色が聴こえるともう金子三勇士先生の主役へと一気に空気が変わった。そして、頂点部へ向かう!!!
 再現部非常に力強い打音と共に、陰鬱な弦楽器の第1主題と金子三勇士先生の力強いピアノの音色が非常に素晴らしかったカラヤンワイセンベルクのような再現部を期待したが、やはりあの速さで引くのは非常に難しいのだろう。力強さと共に、どこか慎重さも垣間見えたような丁寧な再現部第1主題であった。その後、すぐに再現部第2主題であったが、熱烈な展開部と再現部第1主題からは対照的に第2楽章の緩徐楽章へ向かう準備をしているかのような落ち着いた雰囲気へと様変わりした。
 コーダ。もう金子三勇士先生の美しいピアノが鳴り続け、完全に金子ワールドに引き込まれていた。しかし、その後低弦楽器の音色がじわじわと聴こえてくる。そして、あっという間に盛り上がって第1楽章を締め括った。

第2楽章:Adagio

 本楽章は、序奏付き複合三部形式であるため「A-B-A'」とする。
 序奏。美しい東響の弦楽器が鳴り響く。この美しさは、東響サウンドのものであり非常に清らかで美しい音色だった。
 A。金子三勇士先生の優しく美しいピアノの音色が響き渡る。もっとも、それと見事に調和するかのようなフルートの音色、そしてクラリネットの甘美な音色が非常に美しかった。優しい世界とはこのような雰囲気のことをいうのだろうか。その後、フルートとクラリネットの主題をピアノが奏でる。非常に柔らかくて美しい音色だった。嗚呼、なぜピアノ協奏曲の緩徐楽章はこう美しいのだろうか。
 B。高らかで美しいピアノが鳴り響く。ピアノが主となって奏でられるのだが、ここでも金子三勇士先生のピアノが冴え渡り、時には力強く時には美しくといった緩急自在のピアノが非常に素晴らしく、金子ワールドを展開した。この時私はすでにその世界にのめり込んでおり、川崎ではなく、別のカワサキに引き連れていかれたかのようなものだった。ただ、金子三勇士先生の美しいピアノと東響サウンドに酔いしれていたのだ。それにしても、盛り上がった直後のカデンツァは素晴らしかった
 A'。再び繊細で美しい東響の弦楽器の音色が戻ってきた。そして、美しい金子三勇士先生のピアノが鳴り響いてきた。最後の高音の和音のピアノは非常にドラマティックで瑞々しく、透き通るような美しさと低音の力強さの相乗効果によってホール全体を潤わせた。そして、優しく第2楽章を締め、アタッカで第3楽章へ。

第3楽章:Allegro

 決まりきった形式がないが、変則的なロンド形式の方がわかりやすいかと思われる。
 行進曲風な弦楽器が鳴り響く。そして、盛り上がってシンバルも加わるのだが、シンバルはやや控えめだった。そして、第1楽章を思わせるような第1主題は弦楽器の重厚な音色によって幕をあける。そして、技巧的なピアノが冴え渡り、あくまでも主役は金子三勇士先生であるかのように金管楽器等は控えめであった。第2主題は非常に美しく、東響の素晴らしい弦楽器の音色が響き渡っていた。その後の金子三勇士先生のピアノも非常に美しく、素晴らしい音色を響かせていた。
 そして、再び第1主題へ。若干変則的となったオーケストラの力強さが素晴らしかった。高低差が激しい旋律であるが、低音楽器の重厚さが引き込まれるかのような音色であって非常に満足である。技巧的なピアノと力強い弦楽器の音色が素晴らしく、ラフマニノフの醍醐味を感じた。若干荒々しくなるがあまり激しくなく、自然体にような場面も伺えた。再び第2主題へ。先ほどの第1主題のような大きな変化はないが、弦楽器の甘美な音色とピアノの美しい音色が再び登場する。その後、第1主題とはこのなる盛り上がりを見せる。
 いよいよ華々しいコーダなのだ。金子三勇士最後のカデツァの後に壮大なフィナーレが始まった。熱い演奏を繰り広げた金子三勇士先生を称えるかのように美しく壮大なオーケストラがそれに応えるような感動的フィナーレであった。最後の最後まで金子三勇士先生の華麗なるピアノが鳴り響くというピアノ好きには堪らないようなピアノ協奏曲であった。最後の音が鳴り終わると拍手の嵐だった。

Encore

 名曲「J.S. バッハ:管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068』の第2曲『エール (Air)』」だった(写真撮り忘れて申し訳ない)。弦楽器で演奏されるもので有名であるが、ピアノに編曲したのは、金子三勇士先生によるもののようだ。非常に美しく優しい音色だった。

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リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」

 後半は、リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」である。これも名曲だ。コンサートマスターのヴァイオリン・ソロが目立つ作品。実は、昨年私の誕生日のコンサートでも同一の曲を扱っている。その時の様子は以下の記事を参照されたい。
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 前回は読売日本交響楽団の演奏で聴いたが、今回はベルリン・フィルと比肩するほどの美しい音色を奏でる東京交響楽団の演奏である。どのような物語になるのか非常に楽しみである。そして、予習として聴いていたのは以下の演奏だ。


第1楽章《海とシンドバッドの船》(Largo e maestoso—Allegro non troppo)

 力強いも柔らかい音色のユニゾンでシャリアール王の主題を奏でる。その後、一旦落ち着いてフルート等の木管楽器が奏でるのだが、非常にゆったりとしたテンポだった。
 そして、本日のコンサートマスターである小林壱成先生の美しいヴァイオリン・ソロのパートであるシェヘラザードの主題を繊細な音色で奏でられた。今まで聴いた中で最も遅いテンポであり、小林先生の描くシェヘラザードの主題は静かな大海原でゆったりとした波を描いてるかのようだった
 主部に入る。標準的なテンポでヴァイオリンが何度もシャリアール王の主題を繰り返す。そして徐々に盛り上がっていくにつれ、熱が入る演奏が多いのだが、今回は非常に自然な流れであった。しかし、この自然な流れたのちに私の中でとある理解が浮かび上がってきたのだ。
 その後、何度か小林先生のソロ・パートがあるのだが、冒頭同様に繊細で美しい音色を響かせた。その後、シャリアール王の主題が再び繰り返され、金管楽器も加わるが柔らかく弦楽器の音色をかき消してしまうようなことはなかった。もっとも、私の席からはピッコロのトリオの音色がしっかりと響いてきた。頂点部を形成すると全ての楽器が相乗効果によって壮大で美しい音色を奏でていた。これまた素晴らしい演奏であった。そして、アタッカで第2楽章へ。

第2楽章《カランダール王子の物語》(Lento—Andantino—Allegro molto—Con moto)

 シェヘラザードの主題で始まる。第1楽章同様に超スローテンポによる小林先生の音色は美しかった。そして、ファゴットがカレンダー王の主題を奏でるのだが、絶妙なテンポによるファゴットの音色は甘美な音色をして素晴らしかった。ただ、美しい音色を奏でるのではなく、ある物語を語りかけるような音楽だった。そして、弦楽器も加わり東響サウンドの美しい弦楽器が流れるように進められていった。
 断片的に不穏な雰囲気へ変わる。トロンボーンのソロがあるのだが、とてつもない音量だった。とても一人で鳴らしているような音ではなかった。あまりにも強烈でその後トランペットの音色のことは忘れてしまった。これには驚いた。
 その後、快速的なテンポで弦楽器のピツィカートに乗せてクラリネットの完備な音色を響かせていた。そして、随所かなりテンポを速くしたりとかなり揺らして演奏されていいた印象を受けた。さまざまな場面へと移りかわる第2楽章において、これまた一つの物語を形成されていた。特に後半部の弦楽器が力強くカレンダー王の主題を奏でる場所は非常に勇ましく格好良かった。聴いてるこちら側がつい力が入ってしまうかのようだった

第3楽章《若い王子と王女》(Andantino quasi allegretto—Pochissimo più mosso—Come prima—Pochissimo più animato)

 非常に美しい第3楽章。美しい東響サウンドに期待が高まる。
 主部の弦楽器は非常に滑らかで期待通りの美しい音色を響かせていた。高音の場面では弦楽器の繊細な音色を奏で、低音の場面では重厚ながらも弦楽器特有の甘美な音色が響き渡っていた。そして、大きく上下にするクラリネットの音色もこれまた非常に美しかった
 中間部では、若干行進曲風の場面となる。ここではテンポを速めて場面が変わることを告げるような印象だった。随所主部の場面があるがそこは主部と変わらないテンポで演奏されていた。中間部ではスネアドラムとトライアングルが可愛らしく、華やかさを齎す。第3楽章の中間部で打楽器等のパーカッションが活躍する。この中間部と主部のテンポを変えていた点に感銘を受けた。聴きながら非常に納得させられたことがあったのである。
 再び、主部に戻る。そして、第1楽章・第2楽章で登場したシェヘラザードの主題が登場する。再び小林壱成先生の繊細なヴァイオリン・ソロのパートとなる。そして弦楽器で主部を奏で頂点部を形成するのだが、ド迫力ではなく壮大な頂点部であった

第4楽章《バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲》(Allegro molto—Vivo—Allegro non troppo maestoso)

 シャリアール王の主題がテンポ違いで示される。そして、やや変形されたシェヘラザードの主題が登場する。一つのヴァイオリンで様々な旋律を奏で、その技巧さは一層高まる。そして、激しく冒頭のシャリアール王の主題が奏でられる。堂々たる迫力のある音色を響かせたトロンボーンが印象的であった
 主部となり、バグダッドの「祭り」となる。打楽器も加わって賑やかになる。若干遅めのテンポで奏でられており、フルートの軽快な音色が弾むような音であり明るさと華やかさが増している印象であった。快速的テンポでも良いが、主旋律を刻むピツィカートがある程度しっかりと刻まれている方が私好みだ。随所金管楽器とシンバルが加えられるのだが、かき消す程度のものでもなくあくまで壮大に。そして、少しずつ熱くなり、頂点部へ向かう。
 その後頂点部を形成した後に「海」に入る。トロンボーンとホルンが壮大で迫力ある音色でシャリアール王の主題を勇壮に奏でる。読響ほどのサウンドではなかったが、東響サウンドによる頂点部もこれはまた違った素晴らしさがった。十分に荒波を表現されていた。トランペットの音色の後の銅鑼も十分な音量であった。
 そして、再びシェヘラザードの主題が奏でられる。小林壱成先生最後のソロ・パートである。途切れてしまいそうなほどの高音でもしっかりと鳴り響いており、スローテンポによって歌い上げられるシェヘラザードの主題はどこか寂しく、美しいものだった。そして、その背景にはチェロ等の弦楽器が厳かにシャリアール王の主題を奏でている。なんとも言い難い終結を迎えるのだがとてつものない充実感と緊張感が漂った。本当にすごい演奏であった。
 そして、最後は消えゆくように本曲を閉じた。

総括

 私にとって約2年ぶりとなったミューザ川崎シンフォニーホールあのすり鉢のようなホールが印象的だった。そして、最上階であっても音が遠くなく、しっかりと響いてきた。また、今回は私一人ではなく(基本的に一人でコンサートに行く)、同じ早大の友人とコンサートに足を運んだ。
 まず、ラフマニノフピアノ協奏曲第2番ハ短調。感想から分かる通り、金子三勇士先生のピアノが非常に素晴らしかった。初めてラフマニノフピアノ協奏曲第2番ハ短調を聴いたのだが、ここまで充実感に浸れるとは正直予想外だった。やはり、ラフマニノフは素晴らしい作曲家である。そして、挫折から立ち直った作品でもあり、曲中にある陰鬱さはどこか挫折の時の様子も残っているかのような作品であると認識している。それにしてもいつ聴いても異彩なオーラを放つ作品である
 そして、アンコールもこれまた「名曲全集」に相応しい曲目だった。上述した通り、弦楽器で演奏されるのが通常である。

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 それをピアノで演奏するとこれまた違う美しさになるのだから。もっとも、友人とアンコールについて何を演奏するのか予想したところ「ラ・カンパネラ」が登場したが、金子三勇士先生のピアノで聴いてみたかった。ということで、おまけ。

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 最後に、リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」は、読響とはまた違う内容の演奏であったが、非常に壮大だった。何よりも、巧みなテンポの揺らしによって音楽ではなく、「シェヘラザード」と言う一つの物語を見ているかのようだった。したがって、「ここはこのような音楽で」というようなものではなく、「ここはこのような物語でこのような場面が想像できた」というのが率直なところである。それが、同曲第1楽章のところで述べた「今回は非常に自然な流れであった」ということが起因したのである
 「名曲」ということもあって内容が充実したコンサートだった。
 そして、嬉しいことにインスタ上でアレッサンドロ・ボナートから直接DMで私の撮影した写真を送ってくれないかというメッセージをいただいた。こんなことがあるのだな…。

交響組曲「シェヘラザード」終演後のカーテンコールの様子

前回のコンサート

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