鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

ブラームス:交響曲第1番ハ短調を聴く(その3)

ブラームス交響曲第1番ハ短調

ヘルベルト・ブロムシュテットライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

評価:12 演奏時間:約50分【当方超推薦盤】

第1楽章:Un Poco Sostenuto, Allegro

 優しく、柔らかい中に響きの中、シャープで美しい弦楽器が登場する。早速ブロムシュテットの丁寧であり、緻密な音楽が作り出される。独特のクレッシェンドは底から湧き出る泉のような美しさである。2度目の盛り上がりは1度目とは大きく異なり、非常に情熱的である。提示部に入ると、ブロムシュテット独特のシャープな弦楽器の響きが顕著にみられる。年齢を感じさせない爽やかな雰囲気の第2主題は聴きどころである。幸福感が満載の第1楽章は非常に素晴らしい内容となっている。一方、力強い第1主題は厳格な雰囲気で引き締まった印象である。提示部繰り返しあり展開部に入ると、提示部と同様の厳格な雰囲気の中に笑みを浮かべながら指揮をするブロムシュテットの姿が容易に想像できる。唸るようでもありながら、大海原のような壮大な音楽はブロムシュテットならでは。朝比奈先生とは対照的にスッキリと爽やかな美しさに満ち溢れている再現部入ると壮大さを増していくも、自然体を失うことなく美しく、かつ力強い演奏が繰り広げられている。随所にキレのある演奏もみられる。ブロムシュテットの鋭い音色は、全く年齢を感じさせない音楽の一つの要因になろう。コーダは第2楽章に続くように高らかに弦楽器が奏でられ、繊細な響きをもって安らかに締めくくる。

第2楽章:Andante Sostenuto

 繊細な弦楽器の音色を持って第2楽章を幕を開ける。動きのある音色であり、非常に美しい幕開けである。あまりビブラートをかけないため、シャープな音色が生まれるのだが、それによって織り成す弦楽器の音色は実に美しい。その後のオーボエも爽やかな音色であり、それを支える弦楽器も重厚さもありながら美しいミルフィーユのように形成されているブロムシュテットの丁寧な音楽作りがよくわかる。爽やかさもありながら、ブラームス特有の重厚さも失われていない点が極めて重要な点である。後半のホルンとヴァイオリン・ソロは、ヴァイオリン・ソロの音色が美しくハッキリ聴こえる。それを支えるように柔らかいホルンの音色もしっかりと聴こえる。何よりも、背後にオーケストラの美しい音色が聴こえてくるのである。この3つが見事に重なり合って、圧倒的な美しさの大海原が広がっているのだ。実に幸福感に満ち溢れた第2楽章である。

第3楽章:Un Poco Allegretto E Grazioso

 柔らかいクラリネットの音色で第3楽章を幕を開ける。木管楽器のハーモニー、弦楽器のハーモニーもまた美しい。ブロムシュテットも笑みを浮かべながら指揮をしているに違いなかろう。盛り上がる中間部においては、鋭い弦楽器の音色が冴え渡り、圧倒的な美音を響かせる。この点も、ブラームス特有の重厚さも失っていない。カラヤンのような圧倒的な音楽とは異なる、ブロムシュテット特有の圧倒的美音が襲いかかってくる

第4楽章:Piu Andante, Allegro Non Troppo, Ma Con Brio, Piu Allegro

 多少早めのテンポで壮大かつ悲痛な幕開けとなる。序奏部第1部は、ゲヴァントハウス管の壮大な弦楽器の響き、重厚な響きは実に素晴らしい音色である。第2部は堂々としたアルペン・ホルンが鳴り響き、第1部の不穏な雰囲気を一気に晴らす。
 そして提示部第1主題。精錬し尽くされたシャープな弦楽器が折り重なる第1主題は極めて美しい。そして、ブロムシュテットの笑みが浮かび上がるような自然な強弱が一気に魅了するブロムシュテットブラームスは天国にいるかのような優しく、明るい音楽が展開される。また、年齢を一切感じさせない明るさはまさにブロムシュテットの魅力の一つである。再現部第1主題も引き続いて、重厚感もありつつ、美しい弦楽器が鳴り響く。提示部に比べて少し抑えめであるせいか、より一層繊細さが際立っているように思える。カラヤンのような圧倒的な音量による迫力ではなく、時には迫力十分に、時には繊細な響きをというメリハリのついた演奏は聴いていて飽きない。また、他の演奏では気が付かなかったその作品の背景、構造が明らかになることもある。ブロムシュテットの繊細な音楽作りは新たな一面をお届けしてくれることもある。そして、コーダに入る。当時92歳のブロムシュテットであるが、強烈な加速には度肝を抜かれた!!まさかの加速には驚いた。年齢を重ねるごとにテンポが遅くなる傾向にあり、カラヤンクレンペラーもそのような演奏が見られるが、ブロムシュテットは年齢を重ねるごとに若返るような元気ある演奏を響かせる。その後のコラールでは流石にテンポを落とすが、迫力は継続している。迫力がありながらも自然な音色が響き、十分な音量を持って締め括る
 こんなに幸福感のあるブラームス交響曲第1番は初めてだ!!

 先日、ブロムシュテットライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団ブラームス交響曲が全部発売されることになった。私は、やがて交響曲全集が発売されるのではないかと予想しているため、しばらく待ってみることにしている。
 しかし、その他の演奏も期待が大きいのは間違いない。