Introduction
今回は、ブラームス:交響曲第4番ホ短調。交響曲第3番完成の翌年1884年から1885年にかけてヨハネス・ブラームスが作曲した最後の交響曲である。第2楽章でフリギア旋法を用い、終楽章にはバロック時代の変奏曲形式であるシャコンヌを用いるなど、擬古的な手法を多用している。壮大な交響曲第1番とは対照的に全体的に暗めな印象がある。
ブラームスは4つ交響曲を作曲しているが、それぞれ特徴を兼ね備えているイメージがある。
交響曲第1番:壮大
交響曲第2番:穏やかな田園
交響曲第3番:壮麗な美しさ
交響曲第4番:懐古的暗さ
というイメージがあるが皆さんはどうでしょうか。あまりブラーム交響曲第4番は聴かないのだが、ブラームス特有の哀愁漂う雰囲気が盛り込んだ交響曲第4番は魅力だろう。
ちなみに、ブラームス自身は「自作で一番好きな曲」「最高傑作」と述べている。私は交響曲第1番が最高傑作であると思っているが…。
ブラームス:交響曲第4番ホ短調
ヘルベルト・ブロムシュテット:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
評価:8 演奏時間:約41分
今回取り上げる演奏は、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏である。
ドイツ系作曲家を得意とするブロムシュテットであるが、そのブロムシュテットが奏でるブラームスはどのような印象になるのだろうか。時には重厚な弦楽器の作風であるブラームスをシャープで鮮明な音色を特徴とするブロムシュテットの演奏は如何なるものか。
第1楽章:Allegro Non Troppo
極めて美しい弦楽器が第1楽章第1主題を奏でる。クレッシェンドやデクレッシェンドの動きをつけた第1主題は何かを語りかけるようだ。ブロムシュテットのメッセージは一体なんだろう。流れるような美しい弦楽器に彩られた第1主題は御見事。重厚な木管楽器でタンゴのリズムのような第2主題であるが、流れるような主旋律に加えて、キレのある木管楽器が合わさり、快速的テンポで非常に格好良い。一気に引き込まれる。
提示部繰返しなし。展開部に入ると第1主題の冒頭が聴こえるが転調を繰り返すため、提示部の繰り返しはない。随所に見られるホルンの雄大な響きが目立つ。提示部第1主題の美しさとは異なり、やや緊張感のある展開部であるがブロムシュテットのシャープな指揮が鋭い音色を引き出し緊張感を際立てている。
再現部もまた、提示部と同じように美しい第1主題とともに緊迫感のある疾走感が駆け巡る。
コーダは第1主題をメインに強烈で切迫した雰囲気を醸し出し、燃え盛るような勢いである。そして、悲劇的に締め括る。
第2楽章:Andante Moderato
ホルン、そして木管が鐘の音を模したような動機を吹く。これが「フリギア旋法」である。その後何度も繰り返される。熱烈とした第1楽章コーダに対して、非常に落ち着いた第2楽章は、第1楽章の熱さを鎮める効果をもたらすようだ。木管楽器→ホルンなどとフリギア旋法を美しく奏でていき、やがてヴァイオリンの非常に美しい第1主題が登場する。ベートーヴェンを大変尊敬したブラームスであるが、交響曲の構成もベートーヴェンに倣っているが、曲の雰囲気や音色の厚さの違いからブラームスの個性が溢れ出ているように思える。その後のチェロが奏でる第2主題も清澄な水流のように美しく流れ奏でていく。展開部を欠くソナタ形式である。
後半部になると崇高で美しいヴァイオリンが唸り、非常に壮大な美しさを繰り広げる。
第3楽章:Allegro Giocoso
非常に元気の良い第3楽章。きっとブロムシュテットも楽しそうに指揮をしているに違いないだろう。生き生きとした第1主題はブロムシュテットの指揮する姿が目に浮かぶ。そして、第3楽章にはトライアングルが使用される。よく聴いてみよう。第2主題は穏やかで伸びやかな音色ながらも、ブロムシュテット特有のシャープな響きをしている。
ちょっとした息抜きとなる展開部。ホルンが控えめながらも牧歌的で流れるような主題を奏でる。
再び激しい再現部を経て、ティンパニも加わって非常に堂々としたコーダを経て第3楽章締め括る。
第4楽章:Allegro Energico E Passionato
「シャコンヌ」という一種の変奏曲の構成で作られた第4楽章。やや激しい音量で始めるものあれば、やや落ち着いた演奏で始めるものもある第4楽章。ブロムシュテットは後者である。
力強く重厚な弦楽器はブラームスを特徴する音楽といえよう。ブロムシュテットにかかると、美しい弦楽器の音色を響かせながらも、ブラームスの重厚な響きを併せ持った演奏を繰り広げていく。終始、緊迫感のある第4楽章であるが、ブロムシュテットだと非常に聴きやすい。緊迫感もあるも美しさもある。第12変奏におけるフルート・ソロも非常に趣のある音色であり、聴きどころの一つといえよう。その後は休符が目立つ箇所になるのだが、非常に繊細な音楽である。
再びシャコンヌ主題が聴こえるとその後激しさを増していく。コーダに入ると第1楽章コーダのような熱狂さが再び登場し、非常に熱い演奏で締め括る。
ブロムシュテットは、シャープな演奏をするため、どちらかというとサッパリした印象を与えるが、そのような演奏によるブラームスもまた至高の音楽といえるだろう。