本の簡単な紹介
あらすじ
遊廓「墜月荘」で暮らす「私」には、三人の母がいる。日がな鳥籠を眺める産みの母・和江。身の回りのことを教えてくれる育ての母・莢子。無表情で帳場に立つ名義上の母・文子。ある時、「私」は館に出入りする男たちの宴会に迷い込む。着流しの笹野、背広を着た子爵、軍服の久我原。なぜか彼らに近しさを感じる「私」。だがそれは、夥しい血が流れる惨劇の始まりで……。
謎多き作家「飯合梓」によって執筆された、幻の一冊。
『鈍色幻視行』の登場人物たちの心を捉えて離さない、美しくも惨烈な幻想譚。(集英社より引用)
なぜこの本を読んだのか
書評は今までですます調で執筆していたが性に合わず、統一感を齎すためにである調で統一することとする。
さて、この本を読んだ動機であるが、本作品は前作である恩田陸『鈍色幻視行』(集英社、2023年)に登場する小説である。いわゆるメタフィクションに該当するものである。
あの『鈍色幻視行』を読了した読者へのご褒美ともいえようか。読了が近くなった時に、店頭へ足を運んだら販売されていたので迷わず買ったのである。
感想
まず、表紙のカバーに驚いた。いわゆる、リバーシブル・カバーになっており、表裏でデザインが異なっている。本当はその様子を貼り付けておきたいのだが、実際に確かめてもらいたく、あえて文のみで表現する。
表は普通に、恩田陸『夜果つるところ』となっているのが、裏面では飯合梓『夜果つるところ』となっている。これは、『鈍色幻視行』を読んでからでなければ、この凄さはわからない。簡単に説明すると。『鈍色幻視行』は飯合梓が執筆した『夜果つるところ』という作品の謎を追う作品である。そう、実際に飯合梓が書いた『夜果つるところ』を手に取ることができる。このデザインは非常に凝ったものであり、思いついた方は天才的発想であるといえよう。
さて、物語であるが実に奇妙で不思議な物語だった。基本的にビイちゃんという子どもの視点から物語が描かれている。しかし、墜月荘という建物中でずっと生活しており閉鎖的空間で育てられている。特に、生みの親とされている和江がとても恐ろしい。生みの親であるのに、ビイちゃんに襲いかかる。時には悪魔と叫びをあげる。どうも精神的に異常であり、医者に診てもらっているようだ。しかし、和江は紳士に殺され、挙げ句の果てにその紳士も自らの手で命を落とす。心中だ。
さらに、何かと殺される場面が多い。墜月荘の様子を撮影したカメラマンは無惨に顔面を潰される。犬も鉄砲で射殺される。そして、犬を庇ったりんも匕首に殺される。
さらに、物語の終盤は「東京市内で複数の政治家に対する襲撃がありー大臣死亡ー重症者多数ー」という衝撃的な内容が登場する。その主体は、久我原や匕首といった墜月荘にいた男性陣である。革命という名で行動を越したようだ。
そして、主人公にもやや衝撃的な事実が告げられる。主人公はビイちゃん。女の子として育てられたが、違った。本当の名前は「ひかる」。男性の名前としても女性の名前としても両方とも似合う名前である。莢子が「坊ちゃん」とうっかり言ってしまったことを誤魔化して「ビイちゃん」ということになった。
最後に主人公の正体が明らかにされるのもまた面白かった。