鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調を聴く(その1)

Introduction

 今回は、ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調「第九」の名称で広く知られているクラシック音楽の数ある中で傑作といえる作品である。
 個人的に数ある交響曲の中で、ベートーヴェン交響曲第9番が最高傑作であると認識している。作曲当時、交響曲の中で合唱が組み込まれている作品は画期的であっただろう。このような音楽作品を「合唱交響曲と称する。ちなみに、初めて「合唱交響曲という用語を使用したエクトル・ベルリオーズだといわれている*1
 その後、合唱交響曲を作曲したものとして…

 以上が挙げられよう。もちろん他にもたくさんある。合唱が伴うとオーケストラも大きくなり、合唱も組み込まれ非常にダイナミックで迫力のある音楽が期待される。そのため、合唱が伴う作品はそのような醍醐味があるため、その日のコンサートで合唱交響曲を扱うとなるとその日は非常に楽しみで満ち溢れている。
 さて、この時期にベートーヴェン交響曲第9番ニ短調の記事を書いたとして、年末といえば第九だからである。実際に日本の各地のオーケストラがこの第九を演奏するのである。しかし、年末に第九を演奏するのは日本だけというのも驚きである。
 そして、ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調の逸話として以下の逸話が残されている。

 「参加者の証言によると、第九の初演はリハーサル不足(2回の完全なリハーサルしかなかった)であり、かなり不完全だったという示唆がある。ソプラノソロのゾンタークは18歳、アルトソロのウンガーは21歳という若さに加え、男声ソロ2名は初演直前に変更になってしまい(バリトンソロのザイペルトが譜面を受け取ったのは、初演3日前とされる)、ソロパートはかなりの不安を抱えたまま、初演を迎えている。さらに、総練習の回数が2回と少なく、管楽器のエキストラまで揃ったのが初演前日とスケジュール上ギリギリであったこと、演奏者にはアマチュアが多く加わっていたこと(長年の戦争でプロの演奏家は人手不足だった。例えば初演の企画段階でも「ウィーンにはコンサート・ピアニストが居ない」と語られている)、加えて合奏の脱落や崩壊を防ぐためピアノが参加して合奏をリードしていた。
 一方で、初演は大成功を収めた。『テアター・ツァイトゥング』紙に「大衆は音楽の英雄を最高の敬意と同情をもって受け取り、彼の素晴らしく巨大な作品に最も熱心に耳を傾け、歓喜に満ちた拍手を送り、しばしばセクションの間、そしてセクションの最後には何度も繰り返した」という評論家の記載がある 。ベートーヴェンは当時既に聴力を失っていたため、ウムラウフが正指揮者として、ベートーヴェンは各楽章のテンポを指示する役目で指揮台に上がった。ベートーヴェン自身は初演は失敗だったと思い、演奏後も聴衆の方を向くことができず、また拍手も聞こえなかったため、聴衆の喝采に気がつかなかった。見かねたアルト歌手のカロリーネ・ウンガーがベートーヴェンの手を取って聴衆の方を向かせ、初めて拍手を見ることができた、という逸話がある。観衆が熱狂し、アンコールでは2度も第2楽章が演奏され、3度目のアンコールを行おうとして兵に止められたという話が残っている。」 (下線部筆者)

 この逸話には少々否定的な見解も存在するが、耳の聴こえないベートーヴェンが聴衆の方を向いた時に拍手を見ることができた部分は実に感慨深いものがある。当時、交響曲等の作品の初演は作曲者による指揮で行うというものが慣例だった。
 最後に、このベートーヴェン交響曲第9番ニ短調であるが、名曲ということも相まってどの演奏も名演なのである。実に緻密に作曲されたのかが窺われる作品であるといえよう。したがって、評価番号は悩んだ末につけたものとなっている。

ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調

オトマール・スウィトナーシュターツカペレ・ベルリン

評価:10 演奏時間:約71分【当方推薦盤】

第1楽章:Allegro Ma Non Troppo

 心地よいテンポによって、幕を開ける。そして、力強い第1主題が奏でられる。この幕の開け方は、今後の作曲家に大きな影響を与える。この第1楽章は迫力満点なのだが、カラヤンとは違う迫力さであり、楽器のそのものの音色が調和された心地よい迫力なのだ。ゴツゴツとした印象でもなく、ふんわりとした柔らかさでもない自然なスタイル。「古きよきドイツの伝統」とするスウィトナーの特徴が表れている。第2主題も美しい木管楽器が奏でられている。
 展開部の力強い低弦楽器がメインとなる部分においては、力まずそのまま一直線に進んでいく。しかし、盛り上がるにつれて迫力が増していき、強い推進力も現れるスウィトナーの虜になる。
 再現部においては、提示部第1主題のような迫力が再び戻り、さらに強烈なティンパニも加わる。自然なスタイルを基調とするスウィトナーであるが、時には燃えるような燃焼度の高い演奏も随所に聴こえる。その反面、第2主題は木管楽器が楽しく歌っているのである。実に素晴らしい演奏である。聴くたびに新たな発見がある。
 コーダも十分な迫力であり、ベルリン・フィルを彷彿させるような金管楽器も鳴り響き、相当な音量を持って締めくくる

第2楽章:Molto Vivace

 快速的テンポで進められる。冒頭の幕開けは迫力満点。そして、弾むようなテンポでどんどん進んでいき、随所のティンパニも力強い。遅いテンポで力強い足取りで進めていく演奏もあるが、スウィトナーはそうではない。繰り返しあり
 トリオも、快速的テンポを維持して進められる。この木管楽器の可愛らしい主題とそれを支えるファゴットの刻みがたまらない。主部は早めのテンポ、トリオはゆったりとしたテンポで演奏されるものが多いと思うが、トリオは早い方が好み。このトリオの主題は快速的テンポで奏でられた方が爽快感が増すからである木管楽器が高らかに楽しそうに歌い、弦楽器が厚みを増していき一つの至高の音楽が誕生するスウィトナーの素晴らしい音楽が堪能できる。
 そして、主部が戻り、力強い演奏が繰り返される。

第3楽章:Adagio Molto E Cantabile

 さて、強い推進力を持つ演奏や、快速的テンポで進められてきたスウィトナーである。しかし、第3楽章は約17分と遅めのテンポで演奏される。冒頭、穏やかな木管楽器によって幕を開け、ゆったりとしたテンポで美しい弦楽器が第1主題を奏でる。本当に美しい。ただその一言だけで十分、という演奏である。第2主題も神秘的な美しさであり、時が経つのを忘れさせる。幸福な音楽とはこのような演奏をいうのか?
 第3楽章は、変奏曲と理解するのが一般的であるから、美しい主題が形や調性を変えて繰り返し演奏される。そして、ホルンのソロ・パートの後、流れる弦楽器の第1主題変奏が登場する。
 第3変奏において、8分の12拍子による流れるような弦楽器は非常に美しく、かつ、木管楽器の音色も自然で美しく、美しい音楽が折り重なって紡ぎ出される最高の音楽である。
 終わりに近づくにつれ、途中金管楽器のファンファーレが登場する。このトランペットも、自然な音色であり、耳をつん裂くような鋭い音色ではない。しかし、張りのあるお手本のようなトランペットの音色である。
 そして再び静寂になり、第4楽章へ。

第4楽章:Presto, Allegro Assai

 迫力ある幕開け。その後の、レチタティーヴォにおいては、途中第1楽章第1主題が再び登場するなど、色々要素が詰まっている。自然な音色によって、冒頭部分が進められている
 そして、コントラバスとチェロによって超有名な主題が奏でられる。ここから、楽器が加わり、壮大な音楽へ変わっていくのである。コントラバス・チェロ→ヴィオラファゴット→ヴァイオリンと増えていくのであるが、どの楽器も非常に美しい音色を響かせる。テンポも標準的で素晴らしい。その後、トランペットの音色がが加わると神聖な雰囲気となり、天国にいるかのような美しさに感動する。第九ってこれほど美しい作品だっけ?
 バリトン歌手の登場し、いよ合唱が伴う。オーケストラの音色も自然で美しく、合唱も自然で美しい。特異な演奏もなく、安心感がある。ベームとは違った、これまた本格的な演奏といえよう。ソプラノの特徴的な高音もしっかりと響いている。
 テノール歌手のソロパートも標準的なテンポであり、合唱もメリハリがあり。非常に聴きやすい。その後、複雑な箇所となるが少しテンポを早めて快速的に演奏する。その後、超有名な合唱部分に入るが、力強いテンポに加え、随所に聴こえるトランペットが勇壮さを盛り上げる。合唱も力強い。
 その後、神聖なコーラスも天国にいるかのような壮大さである。
 最後に、Prestissimoに入る。早いテンポで突き進む。シンバルの音は控えめであり、オーケストラと合唱の一体感が確認できる。それにしても、トランペットの音色がよく響き、どこまで響いているのか。ベルリン・フィル顔負けである。
 最後も、トランペットが勇壮な音色を響かせて締め括る。
 ここまで満足度が高い演奏もそうそうないだろう…。手許においておきたい一枚である!

*1:合唱交響曲 - Wikipedia

*2:作品35。「前奏曲 嬰ハ短調」作品3-2ではない。