鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調を聴く(その3)

Introduction

law-symphoniker.hatenablog.com
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 本演奏は、1951年のバイロイト音楽祭の録音であるが、この演奏については従来から論争があった。いわゆる、旧EMIレーベルより発売された演奏と、バイエルン放送音源の相違である。
 同じ1951年のバイロイト音楽祭についての演奏であるが、聴き比べると全く異なる演奏である。もっとも、第4楽章最終部の爆速はフルトヴェングラーによるものであることについて争いがないと思われる。しかし、随所異なる部分がある
 おそらく、どちらかが本番による演奏であり、どちらかがゲネプロによるものであるというのが従来の論争であった。
 そこで、今回取り上げるスウェーデン放送所蔵音源が従来の論争に決着をつけたのだ!。私の見解では、どちらかが本物であって、新たな音源が発見されたわけではないということだ。
 どちらが本物であるかは、ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調を聴く(その4)で明らかにしよう。

ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調

ヴィルヘルム・フルヴェングラー:バイロイト祝祭管弦楽団

評価:7 演奏時間:約76分

第1楽章:Allegro Ma Non Troppo

 演奏の前に、ドイツ語、フランス語、英語、スウェーデン語による「1951年バイロイト音楽祭バイエルン放送がリヒャルト・ワーグナー音楽祭(バイロイト音楽祭)のオープニング・コンサートをバイロイト祝祭劇場からドイツ・オーストリア放送、英国放送、フランス放送、ストックホルム放送を通じてお届けします。曲はヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮によるベートーヴェン交響曲第9番です。」という放送が入っている。

 冒頭、ゆっくりとしたテンポによって幕を開ける。そして、ゆったりとしたテンポで大変力強い第1主題が奏でられるフルトヴェングラー独特のテンポによって開始される第1楽章は異様な雰囲気が漂う。ただ、当時の放送をそのまま再現しているせいか、ちょっと音量が小さめ。ボリュームは大きめにしておくことが望ましい。第2主題も引き続き、遅めのテンポでゆっくりと奏でられている。随所にノイズが入っているが止むを得ない。
 展開部に入ると、提示部第1主題の緊迫感が戻ってくる。フルトヴェングラー特有の緊張感、暗さがよくわかる。低減楽器も聴こえるのだが、少々ヴァイオリン等の高音が目立つ印象である。テンポはそこまで速いのだが、独特の異様な雰囲気はフルトヴェングラーならではの空気感に包まれる。
 再現部においては、第1主題において十分な気合いが伝わり、フルトンヴェグラー特有の強烈なクレッシェンドによるティンパニは圧巻の一言。思わずのけぞってしまう。その後の第2主題はゆったりと穏やかに変わる。まるでベートーヴェン交響曲第6番第4楽章→第5楽章へと移り変わるようだ。
 コーダも相当な迫力であり、強烈である。随所ものすごくテンポを落としたりしており、約18分の第1楽章を終える。
 第2楽章まで1分近くあるのだが、それは当時の雰囲気を残すため、カットをしなかったことによる。

第2楽章:Molto Vivace

 冒頭の幕開けはティンパニに穴があくくらいの強烈な音色。ヴァイオリンのアンサンブルが少しバラけている感じもするが…。あまりに気しないでおこう。少しノイズが気になる。繰り返しあり
 トリオは、微妙に少しずつテンポが遅くなっている。フルトヴェングラーの非常にわかりにくいとされる指揮法によって生み出される音楽は、緻密で独特な音色を響かせる。木管楽器の軽やかな音色と、遅いテンポによる重厚感あふれる弦楽器の音色を響かせる。この押し寄せる感じがたまらない。
 そして、主部が戻り、力強い演奏が繰り返される。

第3楽章:Adagio Molto E Cantabile

 冒頭、遅めのテンポで穏やかな木管楽器によって幕を開ける。主題部に入ると、かなりテンポで美しい弦楽器が第1主題を奏でる。「爆速」とのイメージが強いフルトヴェングラーであるが、時には遅い演奏もするのである。実際に、この第3楽章は約19分かけて演奏しているのだ。遅めのテンポによる第3楽章もまた素晴らしい。フルトヴェングラー特有のクレッシェンドがよくわかる。しかし、これだけ遅いと演奏者も大変だろう…。
 遅めのテンポによるアダージョは弦楽器が美しく謳っている
 第3変奏において、8分の12拍子はかなり遅いテンポで進められていく。弦楽器の清らかな音色がしっかりと響き渡っている。遅いテンポだが急がず、音楽に身を預けて聴くべきである。それにしても、かなり遅い(笑)。
 終わりに近づくにつれ、途中金管楽器のファンファーレが登場する。トランペットの張りのある音色もしっかりと確認できる。当時の音色はどのような響きをしていたのだろうか。
 約19分と遅い第3楽章から第4楽章へ。

第4楽章:Presto, Allegro Assai

 Presto。標準的なテンポであるが、トランペットの音色がよく目立つ。低弦のレチタティーヴォが登場するのだが、フルトヴェングラー独特のアゴーギクが冴え渡る
 Allegro assai長い沈黙の後、非常に小さな音でコントラバスとチェロによって超有名な主題が奏でられる。やがて、ファゴットが甘美な音色を響かせる箇所に代わるが、やや弦楽器の音が大きくファゴットの音色が少し小さめになってしまった。しかし、しっかりと聴こえる。そして、金管楽器が加わるのなんとトランペットの高らかな音色が響き渡る。最初の低弦楽器の時から、徐々にテンポが速くなっている。
 Presto; Recitativo "O Freunde, nicht diese Töne!"; Allegro assaiバリトン歌手(オットー・エーデルマン)の登場し、いよ合唱が伴う。古い音源であるものの、しっかりと歌が聴こえる。音が大きい箇所はノイズは全く気にならず、オーケストラと合唱のハーモニーも難なく聴けるのが良い。合唱も相当の気合が入っているようで、熱量が伝わる
  Allegro assai vivace (alla marcia)テノール歌手(ハンス・ホップ)のソロパートは多少速めのテンポである。ノイズによって最初の音はほぼ聴こえない。ピッコロの音からだんだんシンバルの音しか聴こえなくなってくるが止むを得ないだろう(笑)
 非常に複雑で格好良い間奏の後に超有名な箇所に入る。途中、音量が一時的に小さくなる箇所があるが、「これはスウェーデン放送所蔵のマスターテープに起因するものです。中継放送をスウェーデン放送がテープに同時収録している際に起こったと思われ、『BIS』はその音を修正せずそのまま使っています。」とのこと。超有名な合唱箇所はフルトヴェングラーは多少速めのテンポで演奏する。活発的で溌剌とした第九は聴いていて心地よく、元気が湧いてくる。。
 Andante maestosoトロンボーンによって始まる。テープの影響か音量に波があり、荘厳なコーラスの部分はやや迫力がかけてしまった。しかし、相当な声量であることは十分に窺える。ボリューム調節を強いられるのがやや煩いとなってしまう。
 Allegro energico e sempre ben marcato。高らかに歌い上げるソプラノ等、やや速めのテンポで颯爽とかける。個人的にこの箇所ものすごい好きなのであるが、随所ティンパニが入ったりと美しさと力強さが相俟っているのだが、この点についても十分に伝わってくる
 Allegro ma non tanto男声合唱と女声合唱が交互に歌う。テンポは標準的であり、軽やかに演奏される。途中トランペットがやたら目立っている。どうしたんだろう?
 Presto; Prestissimo。いよいよ、最終部である。合唱は相当な声量が出ているのだろう、気迫がものすごい。そして、オーケストラの熱量もものすごいフルトヴェングラーの熱量恐ろしき。そして、注目の一番最後の部分は相変わらずの爆速であり、シンバルがずれてしまっているが、そんなのはお構いなし、超特急で締めくくる

 そして、第九では珍しく、終わってから数秒沈黙があって拍手となっている。ブラボーの嵐が凄まじい。当時の臨場感が伝わってくる。

 さて、フルトヴェングラーの「バイロイトの第九」論争に終止符をつけたといわれる演奏であるが、放送当時をそのまま忠実に収録したようである。そのため、ノイズ等があったりするが、当時のライヴ感よりかは、当時のラジオを聴いてる感覚と表現した方が正確だろう。したがって、音質の面から評価は「7」としたのである。
 最後にも、放送が収録されている。