鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【東響】第696回定期演奏会 in サントリーホール

Introduction

 本日は、東京交響楽団第696回定期演奏会。11月20日と11月27日に行われた秋学期中間試験が終了し、少し一段落したところで、コンサートに足を運ぶことにした。
 とこで、ノット先生と東京交響楽団2019年11月5日のシェーンベルク:「グレの歌」以来となる。その時のコンサートは非常に凄まじく、初めて涙を流しながら聴いていた記憶が鮮明に残っている。前からノット先生と東京交響楽団の評判を聞いていたが、その評価の高さは2019年11月5日の公演をもって確信した。
 さて、本日はブラームスルトスワフスキの作品取り扱うプログラムとなっている。
は 前半は、ブラームスピアノ協奏曲第2番変ロ長調。上記画像では、ニコラ・アンゲリッシュソリストを務める予定だった。しかし、来日できず、急遽代役を探すことになったが、まさかのドイツの正統派ピアニスト、ゲルハルト・オピッツが代役を務めることになったのだ。現代を代表する世界的ピアニストである。どのようなピアノの音色を響かせ、ノット先生の熱い指揮に合わさり、どのような音楽になるのか非常に楽しみである。
 なお、予習として以下の演奏を聴いている。あまりピアノ協奏曲には詳しくはないのだが、この演奏が最も王道的で無難なところではないだろうか。

 後半は、ルトスワフスキ管弦楽のための協奏曲ルトスワフスキポーランド出身の作曲家であり、ポーランド楽派を代表する作曲家である。交響曲を何曲か作曲しているが、ベートーヴェンマーラーといった親しみやすい音楽とは言い難く、難解な作品である交響曲第3番や第4番からその内容が伺える。しかし、ルトスワフスキ管弦楽のための協奏曲は、前衛的な側面はあるが、聴きやすい作品に該当するかと思われる。
 なお、Amazonで探せば、メジャーな指揮者・管弦楽団の演奏が販売されているが、普段聴いてるものとして以下の演奏を聴いている。俊英クシシュトフ・ウルバンスキによる明晰な指揮が難解な作品の理解を容易にしてくれる。
www.hmv.co.jp
 一方、ノット先生も現代音楽には強い。来シーズンは新ウィーン楽派作曲家を多く取り上げるようだ。そのノット先生によるルトスワフスキは如何なるものか。実に興味深い。
 

本日のプログラム

tokyosymphony.jp
tokyosymphony.jp

ブラームスピアノ協奏曲第2番変ロ長調

第1楽章:Allegro non troppo

 冒頭ホルン(首席ホルン奏者:大野 雄太先生)が牧歌的で美しく第1主題を奏で、その後にオピッツの柔らかく温もりのある音色を響かせて幕を開ける。なんと感動的な幕開けなのだろう冒頭の3小節のみで一気にオピッツと東京交響楽団の世界ひ引き込まれた。その後、木管楽器が軽やかに美しく奏でて、清澄な弦楽器を奏でて少しずつ膨らみを持たせていく。相変わらずの東響の弦楽器の美しさ。予習で聴いていたウィーン・フィルの音色とは全く異なる。そして、金管楽器も加わって壮大に第1主題を奏でるのだが、全ての楽器の音色が柔らかく全体を包み込むかのような音色が響き渡ったのが非常に印象的である。「東響サウンドといえよう。
 第2主題も美しい弦楽器が主となって奏でていた。その後、オピッツのピアノのソロとなるのだが、体の大きさから迫力ある音色を奏でるのかと思っていたが、高音は美しく、低音も重厚ながら美しい音色を響かせており、非常に繊細で優しい音色を奏でるのだ
 「ピアノ協奏曲」と言いながら、オーケストラとピアノ・ソロが交互に演奏されることが多いため、それぞれの音色を堪能できるのが本曲の特徴といえよう。重厚な弦楽器の響きが特徴なブラームスであるが、東京交響楽団は重厚ながらも美しく包み込んでしまう。
 長い第1楽章の最終部はオピッツの高らかなトレモロと主に、柔らかく壮大にオーケストラが奏でて締めくくる。この時点で満足度が極めて高かった

第2楽章:Allegro appassionato

 短いピアノの導入の後、低弦楽器が登場する。もちろん、この低弦楽器の音色も重厚感あって美しかった。その後、ヴァイオリンが主題を奏で、ピアノがそれを追いかけるように演奏する場面があるのだが、ノット先生は弦楽器の部分をゆったり、美しく指揮をしていた。東響の清らかな弦楽器が美しく響き渡っていた時、ものすごい幸福感に包まれたことを鮮明に記憶している。ノット先生もノっていたらしく、動きが大きく指揮棒の動きも滑らかであった。
 中間部の盛り上がりも、ものすごい演奏であった。オピッツのピアノの音、美しい弦楽器と木管楽器、柔かない音色の金管楽器が見事に調和され、幸福感満載の神聖な音楽を築き上げていた。あの瞬間、生きていてよかった。
 若干、バロック的というか、ルネサンス的な要素が垣間見えるのだが、重厚さが加わればやはりブラームスが作曲したのだとわかる。

第3楽章:Andante

 チェロの独奏(ソロ首席奏者:伊藤文嗣先生)の主題によって開始される第3楽章。ブラームスらしい哀愁漂う緩徐楽章である。冒頭からしばらく弦楽器が続く(トランペットとティンパニは第3楽章以降登場しない)が、東響サウンドが鳴り響き、実に素晴らしい時間を過ごした
 そして、しばらくしてピアノが登場する。前述のように、オピッツのピアノは繊細で美し音色を奏でるのだが、第3楽章でも繊細美しいピアノを響かせた。ドイツの正統派、そして世界的ピアニストを目の前にしてピアノを聴いていること自体、自分の中で何度も確認をした。オピッツのソロパートに入った途端、一瞬にしてオピッツの世界に引き込まれる感覚は、驚きと感動に包まれた。気がついたら聴き入っているのである。あの感覚は、もう一度味わうことができるのだろうか…。
 第3楽章を閉じ、続けて第4楽章へ。

第4楽章:Allegretto grazioso - un poco piu presto

 弾むような主題が印象的であり、オピッツの軽快なピアノの主題によって第4楽章が幕を開ける。そして、ようやくノット先生の指揮が熱くなり、オーケストラに強い推進力を齎し始めた
 続いて木管楽器と弦楽器が交互に演奏される箇所があるのだが、そこは第1楽章のように滑らかに奏でていった。ノット先生のタクトはまるで、カルロス・クライバーのように舞い上がり、音も蝶々のように舞い上がった。
 第4楽章は、ロンド形式(異なる旋律を挟みながら、同じ旋律を何度も繰り返す形式)であるから、冒頭の軽快なリズムが繰り返される。盛り上がる箇所は熱く、そして強い推進力をもたらし、静かな部分は繊細に美しく、メリハリとついた音楽を構築していく
 最終部も壮大に締め括った。終始、美しく、柔かない音色が響き渡った素晴らしいブラームスであった。

ルトスワフスキ管弦楽のための協奏曲

第1楽章:Intrada

 ピアノ、大太鼓、ティンパニの1音から開始されるのだが、凄まじい1撃!一瞬何事かと思ったほどだ。
 その後、ティンパニが規則的なリズムを刻んでいくのだが、硬い素材のマレットを使用しているためか、張りのある音色によって刻まれていた。その後、チェロをはじめとする主題を奏で、チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンが互いに奏でていく。その後、木管楽器も加わってやや複雑化するのだが、東響サウンドはここでも発揮され、美しく繊細な音色が響き渡っていたルトスワフスキの曲は楽器編成が大きいのであるが、あまり巨大な音楽とはおもわせず、美しい音色のミルフィーユとなり、崇高な音楽となっていた
 その後、ヴァイオリンの下降音階があり、トロンボーンの物凄い迫力に加え、多少打楽器も加わるため、楽器編成の大きい曲の特徴である大迫力な音楽へと変化してく。ノット先生も非常に熱くなっており、タクトも激しく、指揮台の上で非常に大きく体を動かしていた。大迫力であるも、美しさも兼ね備えており、微温のシャワーを思い切り浴びているようだ。
 後半になると、冒頭のティンパニが刻んでいたリズムは、チェレスタに変わり、木管楽器やヴァイオリンのソロに変遷し、静かに軽やかな音楽となっていく。各々の楽器の音色は常に光り輝いていた
 そして、静かに第1楽章を閉じる。

第2楽章:Capriccio Notturno E Arioso

 ショスタコーヴィチ交響曲第4番第1楽章の強烈なフガートを彷彿されるような弦楽器によって始まる。ノット先生も冒頭のテンポは速く、忙しない音楽を作り上げた。冒頭部分は静かな部分が多く、弦楽器の繊細で複雑な旋律、木管楽器の軽快な音楽とシロフォンの音色が加わる。静寂ながら忙しいのだ。
 中間部に入るとトランペットが非常に格好良いファンファーレのような旋律を奏でるブラームスの時はロータリートランペットであったが、ルトスワフスキの時は、通常の形をしたトランペットとなっていた。ロータリーの方が音が柔らかく、他の楽器と調和しやすい特徴を有している。この第2楽章のトランペットは、まさに主役となるため、堂々とした音色を響かせるために通常の張りのある音色を響かれるトランペットに変更した点は、さすがといえよう。中間部の盛り上がりは、打楽器も加わるため、やや暴力的な迫力が堪能できる場面であるが、ノット先生も熱くなっており、テンションマックスであった。
 第1楽章同様に静かに第2楽章を閉じる。

第3楽章:Passacaglia, Toccata E Corale

 大きく分けて3つの部分に分けることができよう。
 第1部として、コントラバスのピッツィカートによって主題を奏でることから幕を開ける。この主題が何度も繰り返される。そして、少しずつ楽器が登場し、だんだんと主題が明らかになっていく。シンバル等の打楽器も加わりだんだん賑やかになり、弦楽器のピッツィカートによって奏でられていた主題は、やがてトランペットやシロフォンも加わり大きな音色で奏でられるようになる。途中弦楽器がトゥッティで低音を奏でる箇所も重厚で非常に格好良く、グッとくる場面があった。テンポが速くなると迫力を増していき、複雑であるが迫力満点となるが、すぐにテンポが遅くなり気がついたらヴァイオリンのみが主題を奏でることになる。そして、第1部の主題が消える。
 そして、第2部。シンバルとトロンボーンによって第2部が幕を開け、これもまた特徴のある主題である。トランペットにとっては非常に演奏するのが難しいとおもわれるが、しっかりと堂々と響いていた。この第2部は、さまざまな楽器が入り組み、ヴァイオリンが主役なる裏で、木管楽器がリズムを切り刻み、ところどころにトランペットが加わる。いかにも、前衛的な音楽である。さまざまな楽器が登場するため、楽器編成が大きい作品ならではの特徴を捉えており、ノット先生も非常に熱く指揮しており、物凄い熱のこもった演奏が繰り広げられていた。やがて静かになり、「タララララータラララー」という波を描くような新たな主題が登場する。
 第3部に入ったのだ。ホルンや弦楽器、木管楽器が美しく奏で、海を描くような…。そのような美しさが響き渡った。もちろん、次第に盛り上がっていき打楽器も加わって、複雑化を極めて迫力ある音楽を奏でていく。ノット先生の指揮棒も激しく動いてた。
 最終部においては、シンバルも撃たれ、全てを凌駕するほどの大音量に伴い、テンポを速め、締め括った!!
 最後のノット先生のやり切った感と気合が残っていたのか、非常に格好良かった。
 あまり、取り上げることの少ない作曲家であったが、多くの聴衆のテンションが高かったみたいであり、一気に熱気のこもった拍手に包まれた

総括

 実に約2年1ヶ月ぶりとなるノット先生と東京交響楽団の演奏を聴くことになった。いつも、必ず涙を流しながら聴いていた東京交響楽団であったが、今回のプログラムでは美しく壮大な場面はあまりなかったとも思われるため、涙を流すことはなかった。
 しかし、ルトスワフスキ管弦楽のための協奏曲は、終始テンションが高く、名演となった。あれだけ圧倒される音量を出すとは東京交響楽団も素晴らしいオーケストラである証となるだろう。前回のブロムシュテットN響のコンサートも凄まじかったが、それとはまた違う凄まじさが、今日のコンサートで味わえた
 一方の、ブラームスピアノ協奏曲第2番変ロ長調は、ソリストである、ゲルハルト・オピッツが代役を務めることになり、代役発表された時は驚いたのなんの。ゲルハルト・オピッツは、2016年ザルツブルク音楽祭ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と共に、リヒャルト・シュトラウスの「町人貴族」のピアノを務めた。そして、その時のザルツブルク音楽祭では、長らくウィーン・フィルのコンサート・マスターを務めた、ライナー・キュッヒルの最後の公演となった演奏会である。その時の、ピアノを務めたピアニストをまさか、目の前で聴けるとは思わなかった。非常に良い経験をした。

前回のコンサート

law-symphoniker.hatenablog.com