
introduction
作品紹介
今週のお題「買ってよかった2024」というテーマで急遽書いてみる。実際このCDは今年の12月に購入したものであるが、買ってよかったと思っている。
今年もあともう少し。今回は「久石譲:交響曲第2番」を取り上げてみる。ジブリ映画の作曲家として非常に有名な久石先生であるが、映画音楽から逸脱した交響曲の作品である。
久石先生の交響曲第2番は現代音楽の傑作として高く評価される作品である。久石先生の音楽的進化を象徴するこの作品は、幅広い要素を取り入れつつも彼の独自性を存分に発揮している。そして、今回は名門であるウィーン交響楽団の演奏を持って鑑賞する。
作曲の背景
久石先生の交響曲第2番は、当初2020年9月にパリとストラスブールで初演される予定であったが、新型コロナウイルスの影響で延期となった。この作品は映画音楽の枠を超えた純粋な交響曲として注目を集め、作曲者自身の挑戦と成長を象徴するものとして位置づけられている。また、この交響曲はコンサート音楽の世界で久石の地位を確立するための重要な一歩でもある。
jurassic.exblog.jp
音楽的特徴
久石先生の交響曲第2番には以下の特徴的な音楽要素が見られる。
- ミニマリズムの影響:久石は現代のミニマル手法を独自に発展させ、繊細さと力強さを両立させた音楽を創出している。
- 複雑なリズム構造:特に第3楽章では、モチーフが圧縮や伸長を繰り返し、多様なリズムが巧妙に用いられている。これにより、聴衆を魅了する音楽的緊張感が生まれる。
- 単旋律の手法: 第2楽章で顕著に見られる久石の特徴的な手法であり、音楽のシンプルさと深みを引き立てている。
- 広大なダイナミック・レンジ:多様な楽器編成が用いられ、特にパーカッション、金管、弦楽器が効果的に活用されている。これにより、聴覚的なスケール感が増幅されている。
- カノン風の構成:旋律がズレながら進行し、楽器群が装飾的に交錯する構造を持つ。これが音楽に独特の深みと複雑性を与えている。
さらに、この交響曲は和声と旋律の調和が精緻に計算されており、全体的な音楽の完成度を高めている。
hibikihajime.com
歴史的意義
久石先生の交響曲第2番は、以下の点で重要な歴史的意義を持つ。
- 映画音楽作曲家の挑戦:映画音楽での成功を背景に、純粋な交響曲の形式で新たな表現を試みている。これにより、彼は音楽家としての多様性を示している。
- 新しいミニマリズムの形:古典的手法、現代のミニマル手法、日本の伝統的要素を融合した革新的な音楽である。この試みは現代クラシック音楽の新たな方向性を示唆している。
- 独自の哲学の体現:"音楽が自然の法則と摂理に近づく" という久石先生の哲学が体現されている。この哲学は、彼の音楽に一貫性と深みを与えている。
- 技巧の集大成:久石先生の長年の音楽的探求と技巧が結実した作品であり、その音楽的成果は多くの作曲家に影響を与える可能性がある。
久石先生の交響曲第2番は、彼の音楽的才能と創造性を示す重要な作品であり、現代クラシック音楽の重要な一角を占める作品として評価されている。この交響曲は聴衆に新たな音楽体験を提供すると同時に、久石自身の音楽家としての進化と可能性を如実に表している。
hibikihajime.com
今回取り上げる演奏
ウィーン交響楽団について
ウィーン交響楽団はオーストリアの首都ウィーンを代表する交響楽団の一つであり、長い歴史と豊かな音楽的伝統を持つ名門オーケストラである。
設立と歴史
ウィーン交響楽団は1900年10月に設立された。当初は「ウィーン演奏協会管弦楽団」(Wiener Concertverein Orchester)という名称で活動を開始した。その後、1919年に「ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団」と合併し、1933年に現在の名称である「ウィーン交響楽団」(Wiener Symphoniker)となった。
ja.wikipedia.org
音楽的特徴
ウィーン交響楽団の音楽的特徴として、以下の点が挙げられる。
- ウィーン的な音色: ウィーンの音楽伝統を受け継ぎ、独特の温かみのある音色を持つ。
- 幅広いレパートリー: クラシック音楽の主要作品から現代音楽まで、幅広いレパートリーを誇る。
- 初演作品の多さ: ブルックナーの交響曲第9番、シェーンベルクの「グレの歌」、ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲など、多くの重要作品を初演している。
- 柔軟な演奏スタイル: 様々な時代や様式の音楽に対応できる柔軟な演奏能力を持つ。
活動の特徴
ウィーン交響楽団の活動には以下のような特徴がある。
- 定期演奏会: ウィーン・コンツェルトハウスを本拠地とし、定期的に演奏会を開催している。
- 音楽祭への参加: 1946年からブレゲンツ音楽祭のレジデント・オーケストラを務めており、オペラ公演やオーケストラ・コンサートに出演している。
- 国際的な活動: 世界各地でのツアー公演や録音活動を通じて、国際的な評価を得ている。
- 著名指揮者との共演: 創立時から発展期にかけて、マーラー、R.シュトラウス、E.クライバー、ワルター、クナッパーツブッシュなど多くの著名指揮者が客演している。
歴史的意義
ウィーン交響楽団はウィーンの音楽文化において重要な役割を果たしてきた。19世紀末から20世紀初頭にかけて、ウィーンで活躍した作曲家たちの作品を初演し、新しい音楽の普及に貢献した。また、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と並んで、ウィーンの音楽伝統を世界に発信する役割を担っている。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との比較
似たような名前として「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」がある。ウィーン交響楽団は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と並ぶウィーンを代表するオーケストラであるが、両者にはいくつかの重要な違いが存在する。
設立と歴史
ウィーン交響楽団は1900年に設立され、当初は「ウィーン演奏協会管弦楽団」という名称であった。一方、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団はそれよりも古い1842年に設立されている。
演奏活動の特徴
ウィーン交響楽団は、ウィーンにおけるシンフォニー・プログラムの基幹として、年間最多のコンサートとオペラに出演する。一方で、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、より限定的な公演数で活動している。
レパートリーと音楽的特徴
ウィーン交響楽団は盛期ロマン派音楽を専門としつつ、現代音楽の初演にも積極的に取り組んできた。ブルックナーの交響曲第9番、シェーンベルクの「グレの歌」、ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲などの初演を行った実績を持つ。
音楽祭への参加
ウィーン交響楽団は、1946年からブレゲンツ音楽祭のレジデント・オーケストラを務めており、オペラ公演やオーケストラ・コンサートで重要な役割を果たしている。
指揮者との関係
ウィーン交響楽団は、ヘルベルト・フォン・カラヤンやヴォルフガング・サヴァリッシュといった指揮者たちが音色作りに大きな影響を与えた。一方、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団も多くの著名な指揮者と共演している。
演奏会場
ウィーン交響楽団の主要な舞台は楽友協会とコンツェルトハウスであり、近年ではアン・デァ・ウィーン劇場でもオペラ公演に出演している。
ウィーン交響楽団は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に比べてより幅広い活動を展開しており、特に現代音楽の初演に積極的である点が特徴的である。両楽団は、ウィーンの音楽文化を代表する存在として世界的な評価を受けている。
ja.wikipedia.org
www.japanarts.co.jp
www.wien.info
演奏の分析
久石譲:ウィーン交響楽団
評価:8 演奏時間:約38分


第1楽章:What the World Is Now?
弦楽器による神秘的な主題が奏でられる。主旋律はチェロとホルンによって優しい音色によって奏でられる。弾むようなリズムが何度も繰り返されるなか、弦楽器によって雄大で神威的な主題が何度も繰り返される。決まった調性は無さそうであるが、新ウィーン楽派のような不協和音で不規則なリズムといったようなものはない。
様々な楽器が弾むようなリズムを刻み、様々な楽器が主題を何度も繰り返す。久石先生の緻密なオーケストレションが際立った音楽が広がる。
後半になると、打楽器も加わった華やかな音楽になるのだが、不思議なことに多種多様な楽器が使われているにも関わらずマーラーのような大きな音楽ではない。確かに現代音楽に位置付けられる作品であるものの、繰り返される独特のリズムが虜になり、また快速的なテンポで進んでいくものだから実に勇ましい。ジブリの世界とは一線を画す「久石譲先生の世界」が広がっている。よく聴くと、グロッケンシュピーレやチェレスタといった実に多種多様な打楽器も用いられているが時に室内楽のような音楽になる。伊福部先生のような映画音楽ともいえない独特のクラシック音楽である。
第2楽章:Variation 14
変奏曲である。ヴィオラ等の弦楽器が新たに主題を演奏する。この主題も独特なリズムを刻んだ印象的な主題である。ヴィオラ→弦楽器→弦楽器+木管楽器→トゥッティと進んでいく。第1楽章と比較すると幾分明るい印象の音楽である。第2楽章もまた多種多様な楽器が色彩豊かな音色を響かせている。打楽器も加わると聴いていて非常に楽しく、久石譲先生の素晴らしい独特のオーケストレーションの素晴らしさを実感する。非常に複雑な構成になっているのに非常に聴きやすく、心地よい音楽が展開されているのである。
よく聴くと冒頭の主題が様々な形に変化している。「Variation 14」という題名から、冒頭の主題が14回形を変えて繰り返しているのだろう。後半はマラカスが登場しており、もはや小さなサンバカーニバルのような楽しさもある。さらにピアノの音まで聴こえてくるではないか。何種類の楽器が使われているのだろう。「魔術師」と言われていたモーリス・ラヴェルも驚くほどの色彩豊かなオーケストレーションである。特に最後のあたりは複雑さを一層極めた内容であるが色彩豊かに整理されており実に華やかな音楽である。
そしてこの変奏曲は突然終わる。
第3楽章:Nursery Rhyme
コントラバスの主題によって始まる。そして、この主題も繰り返し繰り返し演奏されており、一種の「パッサカリア」のようである。コントラバスから徐々に楽器が増えてやがては弦楽器と木管楽器が主題を演奏しているのである。安らかな主題であるが、どこかしら「ルトスワフスキ:管弦楽のための協奏曲の第3楽章」を連想させるような展開である。そして盛り上がるとシンバルやトランペットが冒頭の主題を奏でていく。一度落ち着くと、テンポアップしてフルートが快速的に主題を奏でていく。どことなく中国の民謡のような雰囲気である。
そして、今度はクラリネットが弾むようなリズムで主題を変奏し、やがて弦楽器→木管楽器と金管楽器へと継承される。この第3楽章も一種の変奏曲なのだろうか。
それが終わると今度は白熱した弦楽器のパートになる。やはり主題を変容したものが弦楽器のトゥッティとなって演奏されるのだが、第3楽章の中でも最も緊迫感を漂わせる場面ではなかろうか。チェロやコントラバスの低減楽器が力強さを与えており、非常に勇ましい音楽を展開している。聴きながら執筆をしているのだが、分かりやすいように別の作品と類似していることを示したいのだが全く思い出せない。弦楽器→木管楽器→金管楽器も加わったトゥッティ並行するのだが、全合奏となった箇所については息を呑むほどの白熱した展開は実に魅力的である。ウィーンの伝統を持つウィーン交響楽団が白熱した音色を響かせているのもまた良い。
この白熱した演奏は急に断片的に途切れる。その後は、チェロとコントラバスの低減楽器が主題を奏でながら、弦楽器による悲痛な音楽へと一変する。これは一体何を意味するのだろうか…。久石譲先生は何を思ってこの場面を書いたのだろう。弦楽器の安らかな音色が響き響き渡るが、遠くからフルートとトランペットの音色が聴こえる。やがて打楽器も交えて壮大なフィナーレを迎える。しかし、最後は冒頭のようにコントラバスの主題を持って静かにこの交響曲を終えるのである。
総括
演奏の総評
おそらく、この久石譲先生の交響曲第2番についてここまで演奏の内容について述べた記事はないだろう。
久石譲先生といえば言わずと知れた「ジブリ」の作曲家である。ジブリ映画の中でも数多の名曲を残してきた久石譲先生であるが、珍しく交響曲を書いたのだ。間違いなく「現代音楽」に位置付けられるのだが、実に聴きやすく親しみやすい音楽である。
なお、久石譲先生は「クラシック音楽は、毎日アップデートされているものであって、過去→現代→未来へ自然の流れでなければならない」と過去の動画で話されている。自然の流れを意識した音楽だからこそ親しみやすく聴きやすいのだろうか。「きちんと自然につながる。自然に構成されるのが一番いい」と主張されている。「自然」とはいったい何かを突き詰めていくと哲学的な領域になりそうであるが、特異な点があってはならないのだろう。自然を意識した作品だからこそ多くの人々に印象強く音楽になっている。
おまけ
なお、完全本稿とは余談なのであるが、ウィーン交響楽団はあの「美空ひばり:川の流れのように」を演奏したことがある。歌っているのは本人ではないが、世界三大テノールの1人*1であるホセ・カレーラス (José Carreras)が歌っている。ウィーン・フィルとは違う美しい音色を響かせている。
最後まで読んだよ!という方は是非クリックをお願いします!
*1:後の2人は、ルチアーノ・パヴァロッティ (Luciano Pavarotti)、プラシド・ドミンゴ (Plácido Domingo)である
![Joe Hisaishi in Vienna (生産限定盤)(2枚組)[Analog] Joe Hisaishi in Vienna (生産限定盤)(2枚組)[Analog]](https://m.media-amazon.com/images/I/51XsZnedGEL._SL500_.jpg)