SymphonikerのOrchepedia

クラシック音楽を趣味とする早大OB

【巨匠の響き】ブラームス:交響曲第1番ハ短調を聴く(その1)

Johannes Brahms [1833-1897]

introduction

 開始早々でネタバレ的なもので申し訳ないが、(その1)でいきなり【当方推薦盤】を出して良いものか。当然、どの演奏の記事を(その◯)の番号にするかは当然の筆者の幅広い裁量に委ねられている。しかし、順序というものがある。以前の記事で、一覧表にした上で個別の演奏を貼っていくという方針を執ることを述べた。そうすると、アルファベット順にどうしてもならざるを得ない。
 今は、今まで書いてきた記事を再構築している段階であるが(なので内容は以前に書いたもの)、どの順番にするかは完全に忘れてしまったので今残っている記事を元に番号を振っていくしかない。なんとなく、メンデルスゾーン交響曲の番号を振っていくようだ。
 さて、今回は、カルロ・マリア・ジュリーニウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を取り上げよう。孤高の巨匠とも称されるジュリーニブラームスはいかなるものか。その内容に迫る。

カルロ・マリア・ジュリーニウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

評価:10 演奏時間:約51分【当方推薦盤】

第1楽章:Un Poco Sostenuto, Allegro

  重々いテンポに加えて崇高な弦楽器が悲劇的に美しく響かせながら幕を開けるジュリーニは基本的にスローテンポの指揮者であり、序奏部もテンポを遅めてスケールの大きい演奏を繰り広げる。序奏部からジュリーニの特色が存分に表れている。
 提示部に入っても、第1主題は遅めのテンポでスケールの大きな演奏を繰り広げるブラームスのような濃厚な音楽は遅めのテンポの方がより濃厚な演奏となる。第2主題はスラーの部分も弦楽器が美しく奏でられ、非常に美しい音楽である。濃厚な音楽であるブラームスの音楽をここまで迫力満点に襲いかかる演奏は大好きである。提示部繰り返しなし
 展開部に入ると、ミュンシュとは異なり、柔らかく美しい音楽が広がっている。ウィーン・フィルの伝統的な甘美な音色とジュリーニのテンポによる相乗効果はすごいものだ
 再現部もじっくりとしたテンポ。
 コーダは美しく幻想的に締めくくる。提示部繰り返しなしでも、約16分の演奏。

第2楽章:Andante Sostenuto

 こうなると、第2楽章の美しさはどのようになるのか、楽しみでしかない。ウィーン・フィルの伝統的な甘美な音色が極めて美しい。各弦楽器の美しさがミルフィーユのように積み重なり、実に幸福感をもたらす美しさである。
 動きのある中間部を経て、コンサートマスターが活躍する場面に入る。ヴァイオリン・ソロの透き通るような繊細な音色と、ウィンナ・ホルンの雄大な音色が安らかに奏でられ、これまた美しいミュンシュのやや固い音色とは正反対に、柔らかく美しい空間、音楽を提供する。ジュリーニの美しい音楽作りが際立つ第2楽章である。

第3楽章:Un Poco Allegretto E Grazioso

 クラリネットが柔らかく、甘美な音色を響かせる。第3楽章はそこまでテンポは遅くなく、標準的(か若干遅い)なテンポである。途中「タタタターン」というリズムが出てくる箇所があるのだが、木管楽器の柔らかな音色と、弦楽器の美音のシャワーが実に印象的。スケールの大きい演奏を続けるものだから、第3楽章のゆったりとした演奏も素晴らしい。本当に弦楽器の音色が美しく、迫力ある

第4楽章:Piu Andante, Allegro Non Troppo, Ma Con Brio, Piu Allegro

 いよいよ、第4楽章である。ジュリーニはこの第4楽章を約20分で演奏する。大抵第4楽章は17分〜18分で演奏されるから、ジュリーニのスローテンポがこの演奏時間から伺われる。
 第1楽章の冒頭を彷彿されるような重々しい序奏部分である。序奏部分第1部はスローテンポによって弦楽器の美しさと濃厚さが十分に引き出されている。第2部は雄大アルペン・ホルンが演奏される場面に入るが、まるでリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」聴いているかのような自然で雄大な音色が広がっている。その上、テンポが遅いものだから非常にスケールの大きい音楽となっている。
 そして提示部に入り、若干の静寂があり、かの有名な第1主題が奏でられる。「おお、なんて美しい出だしなんだ!」ゾワゾワとくるG音が早速体中に感動の響きが伝わる。濃厚な弦楽器が折り重なった素晴らしい時間であり、至高の弦楽器のミルフィーユが完成した。その後の木管楽器も明るく、楽しげに演奏される。その後、金管楽器が加わっても遅めのテンポで、しっかりとした音楽が続いていく。
 再現部に入る前にグッとテンポを落とし、第1主題が我こそはと堂々と登場し、美しい主題がまた戻ってくるのである。木管楽器の繊細な響きの後にさりげなくG音が入ってくるが、その響きも素晴らしく思わず涙が出そうになるほどの美しさにただただ感動。ジュリーニの素晴らしさはこの点にあるのだろう。
 そして、コーダに入る。相変わらずのスローテンポであるが、相変わらずの弦楽器の美しさである。最終部に入ればスケールの大きさに圧倒される。最後の最後まで美しい演奏を繰り広げ、長いハ長調の和音で締めくくる。
 ジュリーニが作り出したスケールの大きく、美しさに満ち溢れたブラームスは必聴に値するものといえよう。