鵺翠の音楽の世界と読書の記録

クラシック音楽を趣味とする早大OB

ブラームス:交響曲第1番ハ短調を聴く(その2)

ブラームス交響曲第1番ハ短調

シャルル・ミュンシュ:パリ管弦楽団

評価:8 演奏時間:約48分宇野功芳先生推薦盤】*1

第1楽章:Un Poco Sostenuto, Allegro

 重々いテンポに加えて張りのある厳格な音色によって、幕を開ける。独特の強弱とテンポの揺れがミュンシュの特徴であるが、序奏部分からすでにその要素が現れている。序奏部から凄まじい迫力である。提示部に入っても、第1主題はミュンシュによる力一杯の演奏によって奏でられる。第2主題はスラーの部分は弦楽器が美しく唸り、キレのある部分は迫力満点。濃厚な音楽であるブラームスの音楽をここまで迫力満点に襲いかかる演奏は大好きである。提示部繰り返しなし展開部に入ると、提示部第1主題メインとなり再び迫力ある音楽が登場する。とにかく弦楽器の音色がものすごい重厚で襲いかかってくるのであるミュンシュという指揮者は恐ろしいものだ。展開部に入ると「タタタターン」というモチーフ(特にティンパニ)が聴こえるが、これは運命の動機とも解されている。再現部も提示部第1主題同様に鬼気迫る迫力。コーダはテンポを遅くしながらも迫力は維持され、美しく安らぐように締める。

第2楽章:Andante Sostenuto

 第1楽章の重々しさから一変して安らぎの第2楽章である。美しい弦楽器であるが、低弦楽器の重厚さがものすごい伝わってくる。とてもスケールの大きい演奏である。中間部のオーボエも美しビブラートを奏で、それを美しく重厚な弦楽器が支える。ちょっとやや固い音色である点が気になるが、聴いていて非常に癒され、安らぎの空間を提供する。動きのある中間部を経て、コンサートマスターが活躍する場面に入る。ヴァイオリン・ソロの美しく甘美な音色がしっかりと響き、その後にホルンの雄大な音色が奏でられている。それを支えるオーケストラの音色もまた素晴らしい。実に「一体的」な演奏だといえよう。重厚ながらも美しさに満ち溢れた第2楽章である。

第3楽章:Un Poco Allegretto E Grazioso

 流れるような心地よいテンポによってクラリネットが甘美な音色を響かせる。古典的な交響曲は第3楽章にスケルツォが置かれるのだが、本曲は第2楽章に引き続いて緩徐楽章である。ミュンシュの独特な音楽作りによる第3楽章は抑揚があり、聴いていて非常に楽しい中間部の迫力ある場面はミュンシュの見せ場ともいえようか、迫力満点の音のシャワーを諸に浴びることとなる。実際に聴いたらすごい音量に違いなかろう。チラッと聴こえるのびやかなトランペットがミソである。

第4楽章:Piu Andante, Allegro Non Troppo, Ma Con Brio, Piu Allegro

 いよいよ、第4楽章である。第1楽章の冒頭を彷彿されるような重々しい序奏部分である。序奏部分第1部はテンポを遅め、慎重さと重々しさを兼ね備えたものとなっている。第2部は雄大アルペン・ホルンが演奏される場面に入るが、あまりうるさくなく、自然な音色である。そして提示部に入り、、かの有名な第1主題が奏でられる。重厚な弦楽器による音色によって奏でられる1主題はいつ聴いても美しく、感動する弦楽器→木管楽器と美しさから軽やかさに変遷していき、やがては金管楽器が加わって壮大に演奏される。この流れはブラームスはやはり天才的作曲家である。その後、張り切って力んでいるような弦楽器が随所に見られるが、これがミュンシュの求める恐ろしい要求なのである。迫力ある演奏が続き、少し落ち着いたと思ったら、再現部第1主題が登場し、美しい主題がまた戻ってくるのである。個人的に再現部第1主題の方が好みであるが、提示部第1主題の静寂な中から重厚な弦楽器によって奏でられるものもまた素晴らしい。そして、コーダに入る。大迫力な音量と強い推進力によって進められ、張りのある金管楽器と唸りを上げる弦楽器、そして体の中心に響くティンパニが鳴り響き、長く伸ばして締める。完全燃焼の演奏といえよう。

*1:宇野功芳『クラシックの名曲・名盤』(講談社、1989年)50頁

ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」を聴く(その2)

ブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」

エリアフ・インバル:フランクフルト放送交響楽団(hr交響楽団

評価:9 演奏時間:約68分


第1楽章:Bewegt, Nicht Zu Schell

 冒頭部分。雄大で美しいホルンに木管楽器が加わるのだが、有名な第2稿とは異なり、若干の複雑さが絡んでいる。これぞ、第1稿である。そして、全合奏によって奏でられるブルックナーリズムは、第2稿よりもはるかにゴージャスな響きであり、キラキラと輝くような大宇宙を表現している。多少、ここでも第1稿と第2稿とで違いがある。第2主題は、多少の違いはあるも、あまり変わっていない。テンポは多少早めで活発的な印象である。第2稿よりも第1稿の方がより一層複雑な対位法になっており、緻密さがよくわかる。壮大な第1主題とは対照的な音楽である。しかし、その後発展していき、豪快な第3主題は、第1稿とは異なるが、豪快な金管楽器が鳴り響いており、凄まじい音圧である展開部では、ホルンと木管楽器の美しい音色とともに、ヴァイオオリンの繊細で美しい音色が流れるように対位されている。その後、ブルックナー・リズムも非常に複雑な対位法となっており、改めて緻密さに感動する。全体的に第2稿よりも第1稿の方が明るく活発的な印象である。しかし、展開部の中には第2稿では取り入れられていない非常に勇ましい場面がある。その場面は、快速的なテンポでチェロ等の低弦楽器が力強く奏で、ホルンの雄大な音色が非常に勇ましい。その後の、弦楽器の流れるように上下する旋律にホルンが穏やかに第1主題を奏でるのである。それが、再現部の始まりである。第2稿とは全く異なる。その後の全合奏も壮大な音色に強烈なトランペットとホルンの音色が叫びをあげる。非常に硬質な音となっており、柔らかい音色を望む方にとってはかなりキツイものとなろう。。再現部第2主題は、軽快な音色と主に明るく美しい弦楽器の音色が非常に印象的。やはり、第2稿よりも複雑で明るいので第1稿の方が、「明るいロマンティック」なのではないか。その後の再現部第3主題は、冒頭のみ全合唱があるがすぐに弦楽器に移ってしまう。コーダは、第2稿とは大きく異なる。第2稿の面影はあるが、盛り上がるとそのまま終わってしまう。ホルンの長いパートはない。

第2楽章: Andante Quasi Allegretto

 主要主題の部分である主題は、第2原とは異なり、少し半音がある。しかし、第2稿と同様のチェロによる主題はやや哀愁漂う音色を響かせており美しい音色を響かせている。テンポも標準的。第2楽章は一部異なる部分はあるも、非常に大きな場面はない。中間部分においては、。第2稿とはやや異なり、低弦楽器が唸りクライマックスを形成するかのような盛り上がりを見せるがすぐに収まってしまう。その後、再び主要主題が奏でらる、ソナタ形式では無いが再現部に位置付けられるものといえよう。コーダに入る前に、最後の主要主題部では大きなクライマックスが形成される。第1稿のクライマックスは、金管楽器が長く主要主題を奏でられている。頂点部に達すると凄まじい音が噴水のように湧き出たかのような壮大な音楽が広まり、感動的に主要主題を金管楽器がやや断片的に奏でる。これはすごい。コーダは圧倒的音楽の後そのまま静まるように締める。

第3楽章:Scherzo & Trio

 第1稿とは大きく異なり、ホルンの断片的なファンファーレによって幕を開ける。多少第2稿と共通する部分があるが、このファンファーレは大きな違いの一つと言えよう。冒頭、ホルンとトランペットの勇ましいファンファーレが鳴り響き、冒頭のホルンの奏でたのがこの第1稿の第3楽章において主題となる。非常に勇ましくて格好良いのである。一度聴いたら虜になる恐れがあるだろう。トリオ(B)は、第1稿とは全く異なる構造になっている。弦楽器が非常に活躍し、流れるような旋律が非常に印象的であり、第2稿とは異なる「ロマンティック」さがある
 そして、再びAを繰り返す。この第3楽章は第2稿よりも格好良いと思っている

第4楽章:Finale: Bewegt, Doch Nicht Zu Schnell

 機械的なリズムを起点に、弦楽器がジグザグしたような演奏によって幕を開ける。そして、快速的テンポでオーボエとホルンが第1楽章第1主題を奏でる。提示部において凄まじい音圧で第1主題をトゥッティで演奏してるが、圧倒的な演奏である。この第1主題は非常に勇ましい。第2主題は、第2稿とは異なりかなりの快速的テンポでどんどん進んでいく。主題自体は大きな変化はないがその後のオーケストレーションは大きく異なり、小刻みなピッツィカートが非常に印象的である。その後のトゥッティによる半音階の上下は非常に強烈な音圧である(これが第3主題か?)。展開部に入ると、第2主題の快速的テンポが残ったままホルンと木管楽器が第1楽章第1主題の冒頭を回顧させる。冒頭の雰囲気に戻ってくる。そして、あのジグザグした下降音階が登場する。弦楽器の厚みをいかした第2主題の音色は非常に壮麗である。次第に盛り上がると、非常に重厚で迫力のある第1主題が断片的に演奏される。非常に荘厳で圧倒的だ。ものすごい集中力が試されよう。再現部は、提示部のほぼ繰り返し。コーダではいつからコーダに入るのか区切りがわからないが、快速的テンポで強烈な第1主題が断片的に繰り返される。勇ましいテンポが非常に格好良い。そして、第2稿とは異なり、静寂な場面はなくそのままクライマックスへ向かう。最大音量に達した時の場面は一言では言い表せないような強烈な何かが体に走る。そして、途端に締めくくる。これは第2稿に慣れている方にとっては消化不良を起こしかねないと思われる。

ブラームス:交響曲第1番ハ短調を聴く(その1)

Introduction

 今回は、ブラームス交響曲第1番ハ短調ブラームス交響曲の中でも最も有名な交響曲といえよう。
 もっとも、第1楽章冒頭の迫力ある悲痛な叫びのような序奏は初めて聴いた時、雷に打たれたような衝撃が走ったことを強く記憶している。その時の演奏が、叔父の所有しているカラヤンベルリン・フィル(DG)の演奏だった。
 第1楽章から非常に中身の濃い曲であり、ブラームス特有の濃厚さが詰まっている。
 そして、第2楽章・第3楽章の流れるように落ち着いた美しさもブラームスの特徴のひとつといえよう。古典的な交響曲は、第3楽章にスケルツォを置くことが多いのだが、本曲は第2楽章に続いて第3楽章も緩徐楽章なのである。ある意味、新しい第3楽章ともいえよう。
 なんと言っても、最終章である。長い序奏部のあとの、提示部第1主題は第4楽章のなかで最も重要な主題であり、印象深いものである。

 第1楽章の暗さ→第4楽章の明るさというわかりやすい構造であるが…類似した構成の曲がブラームス交響曲第1番の前にすでに登場しているのである。それが、ベートーヴェン交響曲第5番である。ブラームスベートーヴェンの影響を強く受けていることが推定されよう。
 そして、ブラームスは、ベートーヴェンの9つの交響曲を意識するあまり、管弦楽曲、特に交響曲の作曲、発表に関して非常に慎重であった。通常は数か月から数年とされる作曲期間であるが、最初のこの交響曲は特に厳しく推敲が重ねられ、着想から完成までに21年という歳月を要した*1
 また、ハンス・フォン・ビューローは、この曲をベートーヴェン交響曲第10番」とも評価した。近時、この評価の仕方について様々な意見が出てるところだが、ブラームス交響曲の中も素晴らしい作品であることについては異論はなかろう。

ブラームス交響曲第1番ハ短調

カルロ・マリア・ジュリーニウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

評価:10 演奏時間:約51分【当方推薦盤】

第1楽章:Un Poco Sostenuto, Allegro

 重々いテンポに加えて崇高な弦楽器が悲劇的に美しく響かせながら幕を開けるジュリーニは基本的にスローテンポの指揮者であり、序奏部もテンポを遅めてスケールの大きい演奏を繰り広げる。序奏部からジュリーニの特色が存分に表れている。提示部に入っても、第1主題は遅めのテンポでスケールの大きな演奏を繰り広げるブラームスのような濃厚な音楽は遅めのテンポの方がより濃厚な演奏となる。第2主題はスラーの部分も弦楽器が美しく奏でられ、非常に美しい音楽である。濃厚な音楽であるブラームスの音楽をここまで迫力満点に襲いかかる演奏は大好きである。提示部繰り返しなし展開部に入ると、ミュンシュとは異なり、柔らかく美しい音楽が広がっている。ウィーン・フィルの伝統的な甘美な音色とジュリーニのテンポによる相乗効果はすごいものだ再現部もじっくりとしたテンポ。コーダは美しく幻想的に締めくくる。提示部繰り返しなしでも、約16分の演奏。

第2楽章:Andante Sostenuto

 こうなると、第2楽章の美しさはどのようになるのか、楽しみでしかない。ウィーン・フィルの伝統的な甘美な音色が極めて美しい。各弦楽器の美しさがミルフィーユのように積み重なり、実に幸福感をもたらす美しさである。動きのある中間部を経て、コンサートマスターが活躍する場面に入る。ヴァイオリン・ソロの透き通るような繊細な音色と、ウィンナ・ホルンの雄大な音色が安らかに奏でられ、これまた美しいミュンシュのやや固い音色とは正反対に、柔らかく美しい空間、音楽を提供する。ジュリーニの美しい音楽作りが際立つ第2楽章である。

第3楽章:Un Poco Allegretto E Grazioso

 クラリネットが柔らかく、甘美な音色を響かせる。第3楽章はそこまでテンポは遅くなく、標準的(か若干遅い)なテンポである。途中「タタタターン」というリズムが出てくる箇所があるのだが、木管楽器の柔らかな音色と、弦楽器の美音のシャワーが実に印象的。スケールの大きい演奏を続けるものだから、第3楽章のゆったりとした演奏も素晴らしい。本当に弦楽器の音色が美しく、迫力ある

第4楽章:Piu Andante, Allegro Non Troppo, Ma Con Brio, Piu Allegro

 いよいよ、第4楽章である。ジュリーニはこの第4楽章を約20分で演奏する。大抵第4楽章は17分〜18分で演奏されるから、ジュリーニのスローテンポがこの演奏時間から伺われる。
 第1楽章の冒頭を彷彿されるような重々しい序奏部分である。序奏部分第1部はスローテンポによって弦楽器の美しさと濃厚さが十分に引き出されている。第2部は雄大アルペン・ホルンが演奏される場面に入るが、まるでリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」聴いているかのような自然で雄大な音色が広がっている。その上、テンポが遅いものだから非常にスケールの大きい音楽となっている。
 そして提示部に入り、若干の静寂があり、かの有名な第1主題が奏でられる。「おお、なんて美しい出だしなんだ!」ゾワゾワとくるG音が早速体中に感動の響きが伝わる。濃厚な弦楽器が折り重なった素晴らしい時間であり、至高の弦楽器のミルフィーユが完成した。その後の木管楽器も明るく、楽しげに演奏される。その後、金管楽器が加わっても遅めのテンポで、しっかりとした音楽が続いていく。再現部に入る前にグッとテンポを落とし、第1主題が我こそはと堂々と登場し、美しい主題がまた戻ってくるのである。木管楽器の繊細な響きの後にさりげなくG音が入ってくるが、その響きも素晴らしく思わず涙が出そうになるほどの美しさにただただ感動。ジュリーニの素晴らしさはこの点にあるのだろう。そして、コーダに入る。相変わらずのスローテンポであるが、相変わらずの弦楽器の美しさである。最終部に入ればスケールの大きさに圧倒される。最後の最後まで美しい演奏を繰り広げ、長いハ長調の和音で締めくくる。
 ジュリーニが作り出したスケールの大きく、美しさに満ち溢れたブラームスは必聴に値するものといえよう。

ブラームス:交響曲第1番

ブラームス:交響曲第1番

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ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」を聴く(その1)

Introduction

 期末試験が終わり、1日中自分の時間が取れるようになった。しかし、やりたいことだらけであり、四六時中音楽のことについて考えるわけにもいかない。勉強しつつも、やはり音楽のことについて書きたくなるものだ
 そこで、今回は、ブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」を取り上げることにした。久しぶりにブルックナーについての記事を書くことにしたブルックナーの作品は長大であり、宗教性も高く、なかなか短時間で書くことが難しい。今だからこそ、少しでも多くの記事が書ければいいかなと思っている。
 さて、このブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」であるが、他の作品に比べて、わかりやすく、美しいことを理由にブルックナーの中でもかなり人気の作品であるといえよう。もっとも、筋金入りのブルックナーファンは、圧倒的に第5番や第8番を挙げることに違いないだろう。私もそのうちの一人である。
 また、この作品は、ブルックナー交響曲全体的に散見される特徴がたくさん織り込まれている。例えば、第1楽章冒頭の弱音で弦楽器のトレモロが鳴り響く原始霧、2連符+3連符のブルックナーリズムが挙げられよう。また、この作品は、第5番に引けを取らないほどの重厚感ある音色が鳴り響くのも魅力的である。
 なお、この作品は大きく改変されており、第1稿と第2稿とで大きく異なる。現在、もっとも多く演奏されているのは第2稿である。そして、もはや毎度お馴染みになろう、ノヴァーク版とハース版であるが、聴く分にはあまり大きな違いは見受けられない。もっとも、以下の点が大きな相違点となっている。

  • 第3楽章トリオ冒頭の管弦楽法(主旋律を演奏する楽器が違う)
  • 第4楽章最後(練習番号Z)で回想される第1楽章第1主題の管弦楽法(ノヴァーク版ではホルンが明確に主題を再現する。ハース版は複数の楽器群の組合せで主題が暗示される)

 第3楽章トリオはわかるにしても、第4楽章の練習番号Zは手許にスコアがないと確認できない。スコアを持ちながら聴くのも醍醐味の一つであると再確認される
 そして、ブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」を聴く!(その1)」として、最初に取り上げる演奏は、クラウディオ・アバドウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏である。その理由として、アバドブルックナーはあまり、ブルックナー臭さがなく、入門に相応しい演奏であるからだと考えている。

ブルックナー交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」

クラウディオ・アバドウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

評価:8.5 演奏時間:約79分


第1楽章:Bewegt, Nicht Zu Schell

 冒頭部分。早速耳を澄ませないとよく聴こえないほどの最弱音による弦楽器のトレモロによって始まる。そして、第1主題が、ホルンの柔らかくて雄大な音色が響き渡り、薄暗く霧に覆われている中、ホルンとフルート等の木管楽器が加わって、少しずつ朝日が差し込む情景が浮かんでくる。大変美しい音楽である。アバドの長い指揮棒によって生み出される音楽はダイナミックで美しい音楽である。そして、全合奏によって奏でられるブルックナーリズムは、あまり力まず雄大で柔らかい音色が響き渡っている。第2主題は、落ち着いて弾むように軽快な音楽が繰り広げられている。テンポも標準的であり、音の強弱も自然で素晴らしい演奏である。壮大な第1主題とは対照的な音楽である。しかし、その後発展していき、豪快な第3主題が鳴り響くも、金管楽器は前面的に奏でられず、柔らかく調和された重厚な音色が響き渡る展開部に入ると、ソロ・パートが非常に大きくなり、緊張感が一気に増していく。再び序奏部のような弱音のトレモロ雄大なホルンの音色が戻ってくる。しかし、フルートの下降音階とオーボエの上昇音階が非常に美しい音色で奏でられており、もう一度幻想的な風景が思い起こされる。やがて盛り上がってき、やや暴力的な音色でブルックナー・リズムを何度も演奏され、非常にダイナミックな展開部を構築している。これぞ、これぞ、ブルックナーの魅力である!その後は、煌びやかなヴァイオリンのトレモロに加えて、トランペットが非常に輝かしい音色でコラール風なハーモニーを響かせている。どこまでも届いていきそうなほどの輝かしい音色は素晴らしい音色である。再現部第1主題も、ホルンの音色ともに、軽やかで美しいフルートが上下する。繰り返される冒頭部分の再現であるが、毎度思い浮かぶ情景が異なるのである。その後の全合奏も壮大な音色によってブルックナー・リズムが何度も何度も演奏されている一切力んだ様子もなく、自然体な音色であるにもかかわらず、壮大な音色が広がっていく、アバドの音楽作りに圧倒される。再現部第2主題も、軽快な音色と主に、多少厚みがかかった弦楽器の音色が美しい。その後の、再現部第3主題は、非常に迫力ある音色が広がっていき、どこまでも横に広がっていきそうな音色が響き渡るアバドのダイナミックさがブルックナーではこのように表現されるのかと思うと感銘を受ける。コーダでも、迫力ある音楽が繰り広げられており、ホルンが勇壮に冒頭部分の主題を繰り返し、迫力をもって締め括る

第2楽章: Andante Quasi Allegretto

 繊細な幕開け。第2楽章は色々な見解があるものの「A-B-A-B-A-Coda のロンド形式と捉えるのが妥当ではないかと思われる。何回か冒頭のチェロの主題が繰り返し使われるからである。
 主要主題の部分である主題は、チェロによる主題はやや哀愁漂う音色を響かせており、美しい。各々の楽器のソロパートに加えて、ピッツィカートで刻んでいく描写はブルックナーではよく見られる構造である。副主題の部分も、美しくも重厚感ある弦楽器に加えて、木管楽器の鳥の鳴き声を再現しているかのような優しい音色が印象的である。アバドの自然豊かなアプローチが冴え渡っていることがよくわかる。後半のクラリネット等の木管楽器の応答もまた繊細な響きで美しい。中間部分においては、クライマックスを形成するかのような盛り上がりを見せる。力強い弦楽器に加えて壮大なホルンの音色と低音が勇ましく奏であげるのだが、アバドの演奏は非常に力強く、非常に勇敢な演奏を展開しているベートーヴェン交響曲第3番第2楽章の中間部のような勇ましさである(尤も、本演奏は長調)。その後、再び主要主題が奏でられ、ソナタ形式では無いが再現部に位置付けられるものといえよう。コーダに入る前に、最後の主要主題部では大きなクライマックスが形成される。アバドのクライマックスは、中間部でも述べたが非常に迫力ある演奏なのである。しかし、カラヤンのようなガチガチの力感ではなく、自然豊かな音色と自然体として壮大に鳴り響いているのである。まさに、この曲のテーマである「ロマンティック」の表題にふさわしい内容であり、裏として、森林が描かれているのでは無いだろうか。コーダは繊細な響きを残して締める。

第3楽章:Scherzo & Trio

 俗に「狩のスケルツォとしてよく知られている。
 冒頭、ホルンとトランペットの勇ましいファンファーレが鳴り響き、Aを奏でる。ここでも金管楽器は自然な音色であるにも関わらず、自然体を貫いている。キビキビとした非常に勇ましい楽章である。その後、少し穏やかんで滑らかな旋律が鳴り響くが、その穏やかさ一瞬にすぎる。しかし、小刻みに音が上下するので、奏者としてはかなりの技術を要するのだろう。トリオ(B)は、冒頭フルートによって奏でられているので、ここでノヴァーク版であることが確認できるアバドのトリオは、あまりテンポを落とさずに、勇敢な主部を維持しているかのような印象を受ける。しかし、アバドらしい巧みなアゴーギクによって穏やかなトリオを彩っている
 そして、再びAを繰り返す。

第4楽章:Finale: Bewegt, Doch Nicht Zu Schnell

 機械的なリズムを起点に、弦楽器の波打つような演奏によって幕を開ける。そして、提示部において凄まじい重厚感の第1主題を奏でている。この第1主題の部分は重厚感ある音色が繰り返し登場し、ブルックナーの醍醐味である重厚感が何度も味わえる。アバドの第1楽章は第4楽章早々から凄まじい演奏であった。強烈である。第2主題は、第1主題とは対照的に落ち着いた雰囲気である。アバドは、しっかりとテンポを落として優しく、第2楽章のような優しく落ち着いた演奏を展開している。若干弾むような場面も非常に可愛らしい。第3主題は、第1主題のような強烈な演奏が戻ってくる。ここでもアバドは自然体を貫きながら非常に壮大で力強い重厚感ある音色を響かせている。この重厚感こそがブルックナーなのである。
 展開部に入ると、冒頭の雰囲気に戻ってくる。第2主題を回顧するかのような演奏だが、再びホルンが第1主題のコラールを奏で、その後に弦楽器がトゥッティで力強く奏でる。いつ聴いても壮観だ。そして、第3主題が登場する。コーダ前の非常に大きなクライマックスである。何度もブルックナー・リズムが繰り返され、金管楽器の重厚感ある大迫力の演奏が非常に素晴らしく、決して遅くないテンポがより一層明るさと、荘厳さを齎している。その後、第1主題の冒頭部分をもう一度繰り返されるのだが、その後の第1主題の再現もまた強烈な迫力である。なお、再現部は短め(第1主題と第2主題の再現のみ)。静まり返ると、弦楽器の3連符と木管楽器の第1主題冒頭部分を奏でる。緊張感が漂い、圧倒的なクライマックスへと導く。このじわじわくるクレッシェンドがたまらない。ここでも、アバドの知的なアプローチが光り、自然体を意識しながら重厚感ある音色を徐々に盛り上げている。そして、最高潮に達した時、凄まじい迫力さであり、身体に何かが走ったかのような壮大さに圧倒される。最後の最後の、締め括りも大変力強い、何もかも持ち去っていってしまうかのような終わり方にはもう体が動かない
 これはすごい。
 なお、朝比奈先生やギュンター・ヴァントといった本格的なブルックナー指揮者と比べると、ややブルックナーらしさが欠けている印象を受ける。十分な重厚さであるが、もっと厳格さ、荘厳さがあるのが本格的なブルックナーであるとと考えるのが自論である。
 しかし、あまりブルックナー臭さが無いにもかかわらず、ブルックナーの醍醐味である重厚感がしっかり演奏されている点を考慮すると、この演奏はブルックナー初心者にはおすすめの演奏なのでは無いかと思っている。
 したがって、評価の部分を「8.5」としてある。

ブルックナー:交響曲第4番

ブルックナー:交響曲第4番

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【読響】第250回日曜マチネーシリーズ in 東京芸術劇場

introduction

 今回は、【読響】第250回日曜マチネーシリーズ。そして、私の誕生日でもある。運よく私の誕生日の日にコンサートが行われているのである。昨年は、東京交響楽団であり、非常に素晴らしい演奏だった。
law-symphoniker.hatenablog.com
 そして、今年は読売日本交響楽団日本を代表する屈指のオーケストラであるから、どんな演奏になるのだろうと期待している。
 プログラムは、オール・ロシアであり名曲揃いというプログラムである。そして興味深いのが、ドイツ系の作品を得意とするセヴァスティアン・ヴァイグレによるロシア音楽はどのような音楽なのかである。店頭に販売しているロシア系の棚を見ても、かなりの数がロシア系の指揮者やオーケストラで占めている。カラヤンマゼールベルリン・フィルとの演奏の記録があるがあまり数は多くない。気になるところである。
 グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲は、明るく華やかな作品でありコンサートの幕開けとして相応しい作品である。もっとも、この作品といえば、エフゲニー・ムラヴィンスキ:レニングラードフィルハーモニー交響楽団の印象が強いので、ここまでの演奏が繰り広げられることを期待して良いものなのか…。

www.youtube.com
 ラフマニノフパガニーニの主題による狂詩曲もこれもラフマニノフを代表する名曲である。圧倒的な美しさを奏でる第18変奏があまりにも有名であり、これももちろんのことながら個人的にはピアノが迫力ある低音が鳴り響く第10変奏、重厚な弦楽器が格好良い第13変奏が非常に好きなのである。アンコールは何かな?
 リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード*1は、数々の楽器のソロ・パートが印象的な作品。冒頭のヴァイオリン・ソロの主題が何度も登場する。そして、2管編成といえども迫力ある作品である。
 本作品には物語となっており、あらすじは以下のようである。

 シャフリアール王(Shahryār)は彼の一番目の妻の不貞を発見した怒りから、妻と相手の奴隷の首をはねて殺害する。 女性不信となった王は、街の生娘を宮殿に呼び一夜を過ごしては、翌朝には処刑していた。側近の大臣が困り果てていたとき、大臣の娘のシェヘラザードは王の愚行をやめさせるため王との結婚を志願する。
 シェヘラザードは毎晩命がけで、王に興味深い物語を語る。そして物語が佳境に入った所で「続きはまた明日。」と話を打ち切る。
 王は新しい話を望んでシェヘラザードを生かし続け、千と一夜の物語を語り終える頃には二人の間には子どもが産まれていた。王は自分とシェヘラザードの間に子供が出来たことを喜び、シェヘラザードを正妻にする。こうしてシェヘラザードは王の悪習を終わらせた。
Wikipediaより)

 そして、バッド・エンドな物語なのである。
 ヴァイグレはどのような物語を形成するのだろうか。
yomikyo.or.jp

本日のプログラム

グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲

 華麗なる曲で幕を開ける。ヴァイグレはややテンポ遅め(標準的と言えば標準的)で演奏されていた読響らしいゴージャスな金管楽器のファンファーレが素晴らしかった。そして、弦楽器の忙しなさもまたよし。
 なお、本曲について詳細な解説が見当たらなかったが一応ソナタ形式で説明できそうなのでソナタ形式によって綴ることにする。
 上記の通り、ヴァイグレはしっかりとしたテンポで進んでいたため、第1主題のヴァイオリンは非常に勇ましく壮大な音色を奏でていた。急がない、一つ一つが丁寧な印象を受けた。そして、チェロの滑らかな主題(第2主題)もまた素晴らしい音色であった。やや低音であるが甘美な音色が響いており、華麗なる提示部を形成した。
 展開部では、静寂な場面が多くなる。木管楽器と弦楽器のピツィカートの掛け合いがあるが、ヴァイグレのタクトは楽しそうに動いていた。木管楽器の音色も軽やかな音色を奏でていた。再現部入る前のティンパニも迫力ある音色が届いてきた。
 そして、再現部。第1主題の弦楽器がより一層に輝いた音色が聴こえてきた。そして、再現部第2主題ではチェロが1オクターブ高い音色を響かせるのだが、より甘美な音色が広がり、それがヴァイオリンに受け継がれると美しく、壮大な音楽が広がった
 そして、コーダ。金管楽器が主役となり、高らかな音色を響かせるトランペットと迫力あるトロンボーンが冴え渡った
 堂々たる音楽で締めくくった。
 大変素晴らしい幕開けである。

ラフマニノフパガニーニの主題による狂詩曲

 主題を含め、25部に分かれているが、流石に全部はかけないので、上記私の好きなポイントをピックアップして記すことにする。
 なんと言っても、序奏部が肝心。読響の力強い弦楽器のサウンドともに、コレスニコフの力強い打鍵が響き渡るこれぞ、これぞラフマニノフだ!
 主部では弦楽器の音色はもちろんのこと、技巧ながらも美しく流暢な演奏は聴いていて・見ていてさすがの一言。手が大きくて有名なラフマニノフを弾きこなすのであるから相当な才能の持ち主である。
 第8変奏から雰囲気が少し異なる。第10変奏では、冒頭ピアノの強い低音がとても格好良いのであるが、コレスニコフは私の期待を裏切らずに力強い低音を鳴らしていた。どこか、ホロヴィッツのような重厚さが垣間見えたのは私だけであろうか。その後の爆発的な金管楽器とシンバルは、トランペットが冴えにさえており、鋭く力強い音色を響かせてダイナミックな演奏を繰り広げた
 第11変奏からまた雰囲気が一変する。第13変奏では低音の弦楽器のトゥティが非常に格好良く、重厚感のある音色を響かせていた。その後の木管楽器のトリルも耳が痛くなく、自然な音色を響かせていた。
 第18変奏これは素晴らしかった!第18変奏に入った途端にホール内の空気がガラッと変わったのである。コレスニコフの甘美で美しいピアノの音色が響き渡った。弦楽器が加わると非常に美しくなり、読響の演奏者も熱が入っていたことがよくわかった。頂点部に達すると泉が湧き出るような美しさと素晴らしさが溢れ出ていたこんな美しい作品をこのような演奏で本当に聴いて良いものなのか。最後の第18変奏が終わるまで、コレスニコフの素晴らしピアノが響いていた。
 そして、最後の第24変奏では、トランペットやトロンボーンの強烈な音色を響かせシンバルも打たれながら圧倒的なフィナーレを形成し、急激に静かに締めくくった。
 そして、鳴り止まぬ拍手に包まれた!本当に素晴らしいラフマニノフであった。

Encore

ルイ・クープラン: ボーアンの手書き譜からの舞曲集より「サラバンドイ短調
 てっきり、もう一度第18変奏を演奏してくれるかな…と思っていたが違った。
 私はクープランピアノ曲は全くと言って良いほど知らないので、アンコールの曲も知らなかった。しかし、コレスニコフは繊細で甘美な音色を1音1音丁寧に打ち鳴らしていたラフマニノフでは豪快な音色を響かせいていたが、アンコールでは繊細で緻密な音楽作りが感じられた
youtu.be
ルイ・クープラン:ボーアンの手書き譜からの舞曲集(パヴェル・コレスニコフ)www.tokyo-m-plus.co.jp

リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」

第1楽章《海とシンドバッドの船》(Largo e maestoso—Allegro non troppo)

 力強いユニゾンでシャリアール王の主題を読響らしい迫力ある音色を奏でる。強烈な音色ではなく、柔らかいがどこか押し寄せるトロンボーンの音色が印象的だった。その後、一旦落ち着いてフルート等の木管楽器が奏でるのだが、繊細で美しい響きを奏でていた。
 そして、美しいハープの音色が十分に響いており、ヴァイオリン・ソロのパートであるシェヘラザードの主題を林先生が繊細で美しいヴァイオリンの音色を響かせながら奏でていた。ホールいっぱいに林先生のヴァイオリンが響き渡った。
 主部に入る。チェロ等の低弦楽器が海を再現する。重厚な音色を響かせる海は大海原を表現するがどこか不安な雰囲気もあった。ヴァイオリンが何度もシャリアール王の主題を繰り返す。そして徐々に盛り上がっていくにつれ、読響のヴァイオリンの音色も熱が入るヴァイグレは遅めのテンポで壮大に力強く演奏されており、私は遅めのテンポで演奏される方が好みであるので感動した。今日の読響サウンドは素晴らしかった。
 その後、何度か林先生のソロ・パートがあるのだが、冒頭同様に繊細で美しい音色を響かせた。その後、シャリアール王の主題が再び繰り返されるのだが金管楽器も加わって大迫力の演奏が展開されていった。トランペットが加わると一気にかき消されるかのような大迫力圧倒された壮麗なトランペットの音色とともに、重厚感あふれるトロンボーン、そして負けじと唸る弦楽器、全てが調和された何か震えるような凄まじい迫力に押された。ヴァイレと読響の相乗効果はここまで恐ろしいものを発生させるのか。

第2楽章《カランダール王子の物語》(Lento—Andantino—Allegro molto—Con moto)

 シェヘラザードの主題で始まる。何度も繰り返されるが林先生の音色は美しかった。そして、ファゴットがカレンダー王の主題を奏で、第2楽章はこの主題が主に占める。ファゴットの音色も甘美な音色をして素晴らしかった。そして、弦楽器も加わって賑やかになる。
 断片的に不穏な雰囲気へ変わる。トロンボーンのソロがあるのだが、ヴァイグレはゲルギエフのように遅く、ゆったりと演奏されていた。これには驚いた。カラヤンやプレヴィンといったヨーロッパ系指揮者はサクッと演奏する傾向にあると思っているが、ドイツ系指揮者であるヴァイグレがロシア系の指揮者のように演奏したのだ。もっとも、トロンボーンの伸びやかな音色は素晴らしく、雄大で迫力ある重厚感ある音色を響かせた
 その後、快速的なテンポで弦楽器のピツィカートに乗せて恍惚となるようなクラリネットの音色が非常に印象的だった。そして、断片的にトランペットの音色が響き渡った。
 第2楽章終盤では弦楽器と木管楽器が力強くカレンダー王の主題を奏でており、非常に格好良い演奏を繰り広げており、改めてこの曲の素晴らしさを再確認した
 最後は燃え盛るようにして締めくくった。

第3楽章《若い王子と王女》(Andantino quasi allegretto—Pochissimo più mosso—Come prima—Pochissimo più animato)

 緩徐楽章に位置付けられよう。そして、形式は三部形式であると思われる。
 主部の弦楽器は非常に滑らかで美しい音色を響かせていた。個人的に読響の印象は迫力ある金管楽器であるが、弦楽器の音色も美しいのだ。ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス全ての音色が美しく滑らかな音色を奏でていた
 中間部では、クラリネット木管楽器が軽快な主題を奏で、スネアドラムとトライアングルが可愛らしく、華やかさを齎す。第3楽章の中間部で打楽器等のパーカッションが活躍する。少し長い中間部であるが、後半になるとトランペットが登場したりする。
 再び、主部に戻る。そして、第1楽章・第2楽章で登場したシェヘラザードの主題が登場する。ここでも林先生の繊細で美しい音色を響かせると共に、技巧が光る演奏が素晴らしく、それに沿う様にオーボエ等の木管楽器が印象的だった。そして、頂点部を形成するのがら、これは大迫力!素晴らしかった
 そして、穏やかな雰囲気で静かに第3楽章を閉じる。

第4楽章《バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲》(Allegro molto—Vivo—Allegro non troppo maestoso)

 シャリアール王の主題がテンポ違いで示される。そして、やや変形されたシェヘラザードの主題が登場する。そして、激しく冒頭のシャリアール王の主題が奏でられる。なかなかの迫力だった。
 やがて主部となり、バグダッドの「祭り」となる。フルートが軽快な音色を響かせ、弦楽器、金管楽器が加わって徐々に熱くなっていく。シンバル等が加わって迫力が増していく。第3楽章主部の回想では穏やかで美しく演奏されるが、テンポははやく第3楽章の様な雰囲気はない。シンバルや速いテンポ、迫力ある金管楽器の音色が非常に印象的だった。その後、チェロ等によるシェヘラザードの主題が奏でられるのだが、荒々しく勇ましさが感じられた。頂点部に向かってシンバル等のパーカッションが加わって少しずつ燃え盛ってく。
 その後頂点部を形成した後に「海」に入る。トロンボーンが強烈な音色でシャリアール王の主題を勇壮に奏でるトランペットもハリのある音色を奏でており、荒れ狂う波に呑まれる船の難破の場面を十分に再現していた。この時、相当の音量が出ていたのは確かであるシンバルとタムタムが撃たれた時は全身に何か打たれた様な痺れが伝わった
 そして、再びシェヘラザードの主題が奏でられる。林先生最後のソロ・パートである。ヴァイオリンの中でも最高音に近い音色を出すのだが、度切れることのない繊細で美しい音色がホール中に響き渡った。その背景にはチェロ等の弦楽器が厳かにシャリアール王の主題を奏でている。
 そして、最後は消えゆくように本曲を閉じた。ヴァイグレの指揮棒はなかなか降りず、約5秒近く沈黙が続いていたのだが、フラ拍等は全くなかった。最後の最後まで、繊細な音楽は続いていたのだ

総括

 冒頭でも述べたように、この日は私の24歳の誕生日なのである。そのような特別な日に素晴らしい音楽が聴けたことは感無量である
 さて、久しぶりの読売日本交響楽団であったが大変素晴らしい演奏であった。強烈な金管楽器が聞けたことはこの上ない喜びである。そして、東京芸術劇場も今回で2回目。やはり、良いホールなのだろう。前回の日本フィルがあまり良い演奏ではなかったため、オケが悪いのかホールが悪いのかわからなかったのだが、今回でハッキリした。
 また東京芸術劇場で演奏を聴こう!!
 忘れられない思い出ができてよかった。その後も楽しいことがあった。とても幸せな誕生日を過ごした。
 それよりも、鼻詰まりや鼻水をなんとかしたい…(花粉症か)

前回のコンサート

law-symphoniker.hatenablog.com

*1:ポスターでは「シェエラザード」と表記されいるが、私自身はこの作品を「シェヘラザード」と呼称しているので、そのように表記した。表記が異なっていても、作品内容は同様である。